第17話 特別任務と、未知の入り口
翌日。
指定された時間に、俺たちはギルドの前に立っていた。
「……ほんとに来たな」
小さく呟く。
昨日の話が、まだ少し現実味がない。
「はい。正式な任務ですので」
隣でリリアが頷く。
その表情はいつも通り落ち着いているが、どこか緊張も感じられた。
「緊張してる?」
「……少しだけ」
正直な返答。
思わず小さく笑う。
「俺もだ」
そう言うと、リリアもほんの少しだけ表情を緩めた。
そのとき。
「来てくれたか」
声がかかる。
振り向くと、昨日の部屋にいた人物が立っていた。
「今回の任務について説明しよう」
そう言って歩き出す。
俺たちも後を追う。
⸻
案内されたのは、街の外れ。
普段は人があまり来ない場所。
そこに――
「……なんだ、これ」
思わず声が漏れる。
地面にぽっかりと開いた、大きな穴。
周囲には簡易的な柵と、数人の兵士。
「ダンジョンだ」
あっさりと告げられる。
「最近、突如出現した」
「……突如?」
聞き返す。
「ああ。内部構造は未調査。魔物の発生源の一つと見られている」
視線を穴の奥へ向ける。
暗い。
底が見えない。
空気が、重い。
(……嫌な感じだな)
「今回の任務は単純だ」
説明が続く。
「内部の調査と、安全圏の確保」
「討伐ではなく?」
リリアが確認する。
「無理に深追いする必要はない」
はっきりと言う。
「危険だと判断した場合、即時撤退で構わない」
その言葉に、少しだけ安心する。
(……ちゃんと分かってるな)
無茶をさせるつもりはないらしい。
「他の勇者も投入しているが、まだ安定していない」
視線がこちらに向く。
「だからこそ、君たちの“やり方”に期待している」
静かな言葉。
でも、重い。
少しだけ間が空く。
「……分かりました」
そう答える。
無理はしない。
それだけ守ればいい。
リリアも頷いた。
⸻
装備を確認する。
いつも通りのリュック。
問題なし。
「ユウトさん」
「ん?」
「無理はしない、ですね」
改めて確認するように。
「……ああ」
頷く。
「危なかったら、すぐ引く」
――ログアウト。
それがある。
でも。
(それに頼りきるのは違う)
使うタイミングは、ちゃんと選ぶ。
それが大事だ。
「行くか」
「はい」
⸻
ダンジョンの入口。
一歩踏み出す。
空気が変わる。
冷たい。
重い。
光が一気に減る。
「……暗いな」
「視界が悪いです」
リリアも周囲を警戒する。
足元を確かめながら進む。
一歩ずつ。
慎重に。
音が響く。
やけに大きく聞こえる。
(……閉鎖空間)
逃げ場が少ない。
それだけで、難易度が上がる。
少し進んだところで、立ち止まる。
「……どうした?」
「気配があります」
リリアが小さく言う。
その直後。
――ガサッ。
奥の暗闇が動く。
「来る」
低い声。
構える。
現れたのは――
「……またゴブリンか」
だが、数が多い。
五体。
しかも――
「……二体、強化個体です」
状況は、外より悪い。
狭い。
数が多い。
逃げにくい。
(……どうする)
頭の中で選択肢を並べる。
戦うか、引くか。
まだ余裕はある。
でも――
(ここで引くのも、ありだな)
一瞬、そう考える。
無理はしない。
それが基本だ。
横を見る。
リリアも、こちらを見ていた。
判断を待っている。
少しだけ考える。
敵の位置。
距離。
通路の広さ。
(……いけるか?)
完全に安全ではない。
でも、無理でもない。
「……やるか」
小さく言う。
「無理だと思ったら、すぐ引く」
「はい」
リリアが頷く。
迷いはない。
それだけで、少し楽になる。
リュックに手をかける。
準備はしてある。
あとは――
タイミング。
(……最悪、戻ればいい)
でも。
(なるべく使わずにやる)
それが今の目標だ。
ゴブリンたちが動き出す。
距離が詰まる。
空気が張り詰める。
暗闇の中。
足音が響く。
――最弱スキル“ログアウト”。
それは、逃げ道。
でも同時に。
踏み込むための余裕でもある。
その境界線を見極めながら――
俺は、一歩踏み出した。




