表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/11

第1話 ログアウトできる勇者

 ――正直、ちょっと疲れていた。


 特別つらいことがあったわけじゃない。


 ただ、毎日同じことの繰り返しで。


 朝起きて、学校行って、帰ってきて、スマホ見て、寝る。


「……なんか、もうちょい変化あってもいいのにな」


 ベッドに寝転びながら、ぼんやり天井を見る。


 そんなことを思った瞬間。


 ――世界が、白く弾けた。



 気がつくと、そこは知らない場所だった。


 石造りの広間。


 高い天井。並ぶ柱。


 そして――


「ようこそ、勇者たちよ」


 玉座に座る老人の声。


「……え?」


 思わず声が出る。


 周りを見ると、同じように戸惑っている人たちが何人もいた。


「ここは我らの王国。魔物の脅威に晒されておる」


 ゆっくりと、でもはっきりとした声。


「ゆえに、異世界より勇者を招いた」


 ざわつく空気。


「マジかよ……」

「これって、あれだよな……?」


 小声があちこちから聞こえる。


 俺も、同じことを思っていた。


(異世界召喚……?)


 頭では分かる。


 でも、現実感が追いつかない。


 試しに頬をつねる。


「……痛い」


 どうやら夢ではないらしい。


 ちょっとだけ、笑いそうになる。


(いや、笑ってる場合じゃないか)


 落ち着こうと、深呼吸する。


「これより、そなたらの“力”を確認する」


 運ばれてきたのは、水晶のようなものだった。


 一人ずつ触れていく。


「炎属性Sランク!」

「回復特化……貴重だ!」


 触れるたびに光が溢れ、周囲が盛り上がる。


 いかにも“当たり能力”って感じだ。


(すごいな……)


 素直にそう思う。


 同時に、少しだけ不安も出てくる。


(俺、何もなかったらどうしよう)


 そんなことを考えているうちに。


「次」


 呼ばれた。


「は、はい」


 少し緊張しながら前に出る。


 手のひらが、少しだけ汗ばんでいる。


 水晶に手を置いた。


 ――ふわり、と弱い光。


「……?」


 周囲が、静かになる。


 表示された文字。


 ――《ログイン/ログアウト》


「……え?」


 思わず見直す。


 それだけ。


 説明も何もない。


「ログイン……? ログアウト……?」


 小さく呟く。


 完全にゲーム用語だ。


「……戦闘能力ではなさそうだな」

「何ができるんだ、それ」


 周囲から、困惑した声が聞こえる。


 馬鹿にされているわけじゃない。


 でも、扱いに困っているのは伝わってくる。


(まあ……そうなるよな)


 自分でも、そう思う。


 派手さはゼロ。


 分かりやすい強さもない。


 でも。


(これ、完全にハズレ……って決めつけるのも早いよな)


 まだ何も試していない。


 それに。


 “ログイン”と“ログアウト”。


 この二つの言葉には、なんとなく意味がありそうな気がする。


「ユウト、と言ったな」


 玉座の老人がこちらを見る。


「は、はい」


「その力、分かるか?」


「いえ……まだ、よく分かりません」


 正直に答える。


 変に取り繕っても仕方ない。


 でも、そのまま黙るのも違う気がして。


「ただ……少し試してみてもいいですか?」


 自分でも意外なくらい、すっと言葉が出た。


 周囲が少しざわつく。


「試す、とな?」


「はい。何か分かるかもしれないので」


 老人は一瞬考えてから。


「よかろう」


 頷いた。


「安全な場所で試すがよい」


「ありがとうございます」


 軽く頭を下げる。


 心臓が、少しだけ速くなっている。


 広間の隅へ移動する。


 人の少ない場所。


(……ログアウト)


 頭の中で言葉をなぞる。


 こういうのって、多分。


(声に出すタイプだよな)


 小さく息を吸って。


「……ログアウト」


 と呟いた。


 ――次の瞬間。


 視界が白く染まった。



 気がつくと。


 そこは、自分の部屋だった。


「……え?」


 思わず立ち尽くす。


 見慣れた机。ベッド。スマホ。


 さっきまでの光景が、嘘みたいに消えている。


「戻ってきた……?」


 恐る恐る、スマホに触れる。


 ちゃんと動く。


 現実だ。


「……マジで?」


 少し遅れて、実感が湧いてくる。


 異世界から――戻ってきた。


 それも、自分の意思で。


 しばらくその場に立ったまま、考える。


(これって……)


 すぐに一つの考えが浮かぶ。


(かなり、やばい能力じゃないか?)


 危なくなったら戻れるかもしれない。


 準備もできる。


 情報も集められる。


 他の勇者たちとは、明らかに違う方向の強さ。


 でも。


「……いや、まだ分かんないか」


 調子に乗るのは早い。


 制限があるかもしれないし、戻れない可能性だってある。


 確認しないと。


「……戻ってみるか」


 小さく呟く。


 少しだけ、怖い。


 でも、それ以上に気になる。


「ログイン」


 再び、白い光が視界を包む。



 次の瞬間。


 俺は、さっきの広間に戻っていた。


 ほとんど同じ位置。


 時間も、ほとんど経っていないように見える。


「……戻れた」


 ぽつりと呟く。


 周囲がざわつく。


「消えた……?」

 

 さっきとは違う視線。


 困惑だけじゃない。


 少しだけ、興味が混じっている。


 玉座の老人が、ゆっくりと口を開く。


「……なるほど」


 その目が、わずかに細められる。


「興味深い力じゃな」


「……そう、ですかね」


 自分でもまだよく分からない。


 でも。


(少なくとも、完全なハズレではなさそうだ)


 それだけは、なんとなく分かった。



 異世界に召喚された。


 でも、俺は――


 “戻れる”。


 この力が、どこまで使えるのかは分からない。


 だけど。


(……ちょっとだけ、面白くなってきたかもな)


 さっきまでの退屈が、少しだけ遠くなる。


 不安もある。


 でも、それ以上に。


 少しだけ、ワクワクしている自分がいた。



 これは。


 どこにでもいる普通の俺が。


 “ログアウトできる勇者”として――


 異世界を攻略していく物語だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ