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パイルバンカーが使えない!?

目を開けると、知らない天井があった。

漂うトマトの匂いで体が勝手に起き上がる。


そこは木製の壁に囲まれた部屋だった。

腕と腹が少し痛む。

腕は包帯が巻かれ固定されており、脇腹も同じく丁寧に処置がされていた。

ゴブリンから攻撃を受けたのは腹のみで、腕は何もなかったはずだ。腕の負傷の原因…あるとするなら…

「パイルバンカーの反動…」

あの威力なら納得できる。鍛え直さなければ

横に置いてあったパイルバンカーの表面を人差し指で擦りまくる。キュキュっと音がなる。なんかおもしろい。


ふと、部屋の奥ではコトコトと鍋をかき混ぜる人影に気づく。若々しく爽やかな男の声が聞こえた。

「おはよう。怪我の具合はどうだ?」

音を鳴らしまくっていた指をひっこめる。

「ほぼ痛くないです、ありがとうございます」

「そうか、良かった」

「ここは森の中でもモンスターがほぼいない安全な場所だ。安心してくれていい」

部屋の奥から声の主が現れた。金髪青目のイケメンである。手に持った器から湯気が上がり、トマトの匂いが空っぽの胃を唸らせた。

その人物は少し笑って器とスプーンを差し出した。

「食欲はありそうだな。ホラ、食いな」

「ありがとうございます…」

どろっとしたスープをすくって口に入れる。濃すぎず薄すぎない優しい味が、温かさと共に口に広がる。少し前にこの世界に来たばかりなのに、久々に温かい食事をしたみたいだ。

「俺はスライン。お前は?」

急いでスープを飲み込む。

「ハルです」

「ハル、なんであんな所にいたんだ?」

「それは______ 」


「お前異世界から来たのか…」

予想とは違い、スラインさんは嫌そうな顔をした。

「えっと…」

様子を伺うと曇った顔を直して、顔の前で激しく手を振った。

「あっ、すまん!お前が嫌とかでは無いんだ。ただ異世界出身はなんというか、問題あるヤツがいてな…」

「くわしく聞かせてくれますか?」


それからこの世界の情勢を聞いた。

どうやらこの世界は、神から強大な力を受けた異世界転生者、転移者が多くいて、そのうちの一人が近くの都市で義賊めいた行いをしているらしい。

その転生者は好色家で、色々な国の美女を攫い、洗脳し、連れ回しているそうだ。

チート能力でハーレム、聞き飽きた響きだ。


ひとしきり話を聞いた後、気になった事を尋ねた。

「義賊なのに、攫うとか洗脳とかするんですね?義賊っててっきり正義のヒーローみたいなものかと」

スラインは再び顔を曇らせ、大きくため息をついた。

「その、これから話すのは愚痴で、お前にどうにかしろと言っている訳じゃないから聞き流して欲しいんだが…聞いてくれるか?」

「…大丈夫ですよ」


「俺の妹も、攫われたんだ」


彼の妹はシャールと言い、容姿端麗で性格も良い自慢の妹だと言う。

ある日、昼に出かけたきり、遅くなっても帰って来なかった。心配したスラインさんは森中を探し、運良くシャールを見つけた。人攫いに捕まり、攫ってきた他の人間と一緒に荷車に押し込まれていたのだ。すぐさま少し高い岩に登り、人攫いを射抜こうとした。

そこまで話すとスラインさんは拳を血が出るほど握りしめた。

「それで助けようとしたら、アイツが来た」

例の転生者だ。話は続く。


突然人攫いと車が爆ぜ、苦しむ攫われた人間をそのままに、一人の男がシャールを抱き上げた。嫌がるシャール、男の手が淡く光る。すると、先ほどまでの態度が嘘のようにシャールは男を抱きしめ、恍惚としていた。

違和感を感じ、男に矢を放った。矢は正確に男の頭に直撃した。

はずだった。

男に向かっていたはずの矢が向きを変え、自分に向かって襲いかかる。矢は胸に直撃したが、幸い重要な臓物、血管には当たっていなかった。痛みで岩から転落する。その時、頭を打ち、どろりと血が流れ出た。

朦朧とする意識の中、シャールを抱き抱えた男が見下ろす。男はニヤリと笑い、立ち去った。


「しばらくして意識が戻って、傷の応急処置をして、それから町に向かった。回復師に傷を治してもらった後、途方に暮れていた俺は、町に貼られたお尋ね者の張り紙を見たんだ。そいつは建築物の破壊や要人の殺人で指名手配されてた」

「街の奴らが言ってたよ、『彼は英雄だ』って。くそったれが」


なんとなく腹が立った。そんなクズがチートなんて持っているのか、チートを得たからクズになったのか。


シャールが受けた能力は精神操作の魔法、スラインさんが放った矢が反射されたのはそのまま反射。たぶん遠距離武器は効かないだろう。

建物の破壊もしているなら強力な魔法も持っているか、洗脳した女がやったのか。近接武器ならどうだろう。

洗脳される条件は何だろう。強力な魔法なら近距離では撃てないのではないか?そこまで万能ならコピー系のチートの可能性もある。シンプルに力を与えられまくってるかも。どちらにせよ、ゴブリンよりは硬そうだ___


「ハル、大丈夫か?」

「…あぁ、今…その転生者の…」

あれ?

「スラインさん」

「どうした?」

「そいつ、倒したいかもです」

「はっ?」

ゴブリンは強いけど、肉は柔らかかった。

どうせならパイルバンカーは硬いやつに使いたい。


《スキル『怖い物知らず』Lv.1→2》

《スキル『戦闘狂』Lv.1→2》

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