第5話「フォロワー0の暴露」
学校の放課後。
紗夜は机の上にスマホを置き、画面をじっと見つめていた。フォロワー0の匿名アカウントに、今日も新しいログを打ち込む。消えかけた小さな記憶――彩音の笑顔、教室の隅の会話、廊下の落書き――すべてを記録する。
「……誰かに見せるためじゃない。私が覚えているから残す」
紗夜の指先が画面を走る。打ち込まれた文字は、消えた過去の唯一の証拠となる。
そのとき、画面に通知が一つも来ないことに違和感を覚えた。普段は誰も見ていないはずの投稿に、何者かがアクセスした痕跡が残っている。
「……見ているのは、誰?」
問いかける声は小さく、部屋の中に吸い込まれる。
翌日、学校で彩音が紗夜に駆け寄る。「紗夜、昨日の投稿……見た人がいるみたい!」
「え?」
紗夜は慌ててスマホを確認する。ログの閲覧履歴に、見知らぬアクセスが数件残っていた。誰も覚えていないはずの出来事が、誰かに届いている。
「もしかして……これって、危ないこと?」
彩音の目が揺れる。紗夜は深く頷く。「……たぶん、私たちの知らない誰かが、この記録を追っている」
放課後、紗夜は海斗と一緒に図書室へ向かう。
「やっぱり、誰かに見られてるんだ」
「……大丈夫だよ、紗夜。俺がついてる」
海斗の声は、普段と変わらぬ明るさを保っている。しかし紗夜は胸の奥で、静かな危機感を感じる。
図書室で、紗夜はログの整理を続ける。匿名アカウントは、誰も覚えていない記憶を残す唯一の場所だ。しかし、アクセス痕跡が増えていることは、すでに“誰か”が動き出している証拠だった。
夜、自室で紗夜は決意する。
「消えた記憶を、私が守る。誰が何をしようと、私は記録する」
指先が画面を駆け抜け、文字が並ぶ。彩音の誕生日、教室の出来事、そして昨日の御園玲との接触まで、すべてを詳細に記録した。
すると、画面の端に小さな通知が浮かんだ。
『記録を確認しました。興味深い能力です』
紗夜は息を呑む。送り主は誰か。友人か、それとも、あの御園玲か――。
彼女は深呼吸をして、スマホを胸に抱く。
「……これが、私の戦いの始まり」
孤独なログ作成は、今や単なる記録ではなく、誰かの未来を守る手段となった。消えかけた記憶を拾い上げる作業は、紗夜にとって“暴露”の意味をも帯び始めたのだ。
部屋の外は夜の闇。街灯が窓越しに差し込み、ネオンが淡く揺れる。
紗夜はそっと呟いた。
「誰も覚えていないから、私が覚えている。だから……私が残す」
その声は、小さく、しかし確かな決意として部屋に響いた。
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