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第4話「消えた証言」

放課後の校舎は、昼間の喧騒を忘れたように静まり返っていた。

紗夜は図書室でログの整理をしていた。今日もまた、小さな記憶が消えかけていたからだ。彩音が教室で落としたメモ、誰も気づかない教室の片隅の会話、笑い声の残響――すべてを拾い上げるのが、紗夜の仕事だった。


「……これは、やはり異常だ」

指先で画面をスクロールしながら呟く。通知が来ないだけでなく、ログに記録した過去の一部が、勝手に削除されている形跡があった。消えた記憶は、データとしても完全に消えようとしている。


そのとき、背後に気配を感じた。振り返ると、黒いコートの人物が立っている。

「御園玲……」

紗夜の心臓が一瞬跳ねた。Remind企業の研究者であり、紗夜の能力に興味を持つ存在。敵か味方か、いまだに判断はつかない。


「君の能力――面白い」

御園は静かに語る。冷たい声に含まれる緊張感。

「どうして私のことを知っているんですか?」

「君のアカウントは目立っている。消えた記憶を拾う唯一の存在として、我々は君の動向を追っていた」


紗夜は胸の奥で何かがひりつくのを感じる。追われている――それだけではない。自分の存在そのものが、監視され、利用される可能性があるのだ。


「あなたたちは、何を……」

「単純なことだ。Remindの“正常化”のために、記憶の制御が必要なのだ」

御園は淡々と続ける。

「君が覚えていることで、矛盾が生じる。だから我々は、君の記録を……管理する必要がある」


紗夜は一歩後ずさる。管理――つまり、能力を封じられる可能性。

「私は……ただ、消えた記憶を残したいだけ」

「それだけでは、世界は守れない」


教室の隅に落ちていた彩音のメモを手に取り、紗夜は決意を固める。

「……私が覚えている限り、誰も忘れさせはしない」

御園はわずかに微笑んだ。その微笑みに、敵意か好奇か、判断できない冷たさがあった。


部屋を出ると、校舎の廊下は夕暮れに染まっている。ネオンの街灯が外の世界をぼんやりと照らす。

「消えた記憶を守るのは、私だけ……」

紗夜は呟き、スマホの画面に手を伸ばす。フォロワー0のアカウントに、今日起きた出来事を全て書き込む――消えかけた記憶、消えた証言、そして御園との遭遇まで。


通知の音は来なかった。だが紗夜は知っている。記憶を残す者は、世界でたった一人――自分だけだということを。


夜、ベッドに横たわり、スマホを胸に抱く。

「明日も、誰かの過去を守る――」

それは孤独な戦いの始まりだった。

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