表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第3話「投稿と矛盾」

朝の教室は、昨日と同じ静けさだった。

窓から差し込む光に、黒板のチョークの粉が微かに舞う。紗夜は自分の席に座り、スマホを手にしてログを確認する。フォロワー0の匿名アカウント――そこには昨日の彩音の誕生日や、教室での小さな出来事が記録されていた。


「……変なことになってる」

紗夜の指が画面のスクロールを止める。昨日投稿した内容が、すでに誰かのタイムラインに反映されている。しかし、表示されているはずの通知は来ない。クラスメイトはいつも通り、消えた過去を覚えていない顔で笑っている。


「これ……矛盾してる」

紗夜は小さくつぶやく。自分だけが覚えているはずの出来事が、どうしてデータとして残っているのか。Remindのシステムに何か問題が起きているのか――それとも、これは意図的な操作なのか。


昼休み、海斗が隣に座る。「なんだか、今日は元気ないね。紗夜?」

「ちょっと、考え事」

紗夜は淡々と答える。けれど心の中では、矛盾の種が静かに芽を出していた。自分だけが覚えている記憶が、SNS上ではすでに“存在”として扱われている。それを誰も気に留めない。


午後、図書室に向かう途中、彩音が慌てた様子で駆け寄る。「紗夜、昨日のログ、消えちゃったの!?」

「……消えてないよ」

紗夜はスマホを取り出し、匿名アカウントにアクセスする。ログは確かに残っている。だが、彩音の手元のスマホには何も表示されていない。紗夜だけが“真実”を保持しているのだ。


「やっぱり、私だけ……」

彩音の小さな声が響く。紗夜はそっとうなずく。誰も覚えていない事実を、紗夜だけが残している。それは孤独で、けれど責任でもある。


その夜、自室で紗夜はログを整理する。

「誰かに見せるためじゃない。私のためでもない。記録するのは、ただ残すため――消えた記憶を、確かに存在させるため」


指先が画面を走り、文字が並ぶ。

「昨日の彩音の誕生日。教室に残った時間、窓の外の光、誰も覚えていない笑顔――私だけが覚えている」


ふと、通知がひとつも来ない画面を見つめる。

「誰かが……また、何かを消そうとしている」


その瞬間、部屋の奥でスマホが振動する。画面には、匿名アカウントに届いた「無題」のメッセージ。


『あなたは……本当に覚えているのですね?』


紗夜は息を呑む。送り主は誰か。友人か、それとも……。

答えることができないまま、指先はログを打ち続ける。

消えた記憶を拾い上げる作業は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ