決意
昨夜の夢で、オレの死因を思い出した。
それから、その原因も。
端的に言うと、オレはエマに殺される。
エマに、というと少し誤解があるかもしれない。
正しくは“エマの暴走した魔力”に殺される。
大まかな流れはこうだ。
5歳、エマがバーンズ家に引き取られる。
これが現在。
8歳、母親が死ぬ。
確か母は仕事中に敵に敗れる。
いわゆる殉職というやつだ。
そして10歳、ここでエマの魔力が暴走して、オレと父さんは殺されてしまう。
その後はまだ少ししか思い出せていないが、確か黒魔術師として主人公達の前に立ちはだかる…。
「…ん?」
少し引っ掛かりを覚えて眉を顰める。
エマは主人公達の前に立ちはだかって、アリアの魔法で倒される。
それから、確か…。
「そうだ!」
勢いよく体を起こす。
それほどに重要な出来事なのだ。
「エマも、殺されるんだ…」
アリアとの戦いの後、エマは意識を失う。
そこではまだ生きていて、アリアの回復魔法のおかげもあり、一時は意識を取り戻す。
そして、アリアと共に戦うことを決めた時、エマを操っていた黒幕がエマの心臓を止めてしまうのだ。
「…我ながらなんてことをしているのか」
実際、エマを殺したことに対する評判は散々だった。
“なぜ殺した”だとか“無能作者”だとか“エマを殺すなんてアホなのか?”だとかいろいろ言いたい放題だった。
話の流れを考えての事だったのだから、少し肯定的な意見があっても良いと思うのだが…。
まあ、自分が好きなキャラが死ぬのは見ていて気持ちよくは無いよな。
正直に言うと、エマのことは結構…いや、だいぶ気に入っていた。
過去の設定だってわりとしっかりと作りこんでいたし、見た目も好みに描いていた。
実力だって、作中では随一のキャラクターだった。
…だからこそ殺さざるを得なかったわけだけど。
仲間になると弱体化する現象というのが、物語を描いていると度々起こる。
それがメインキャラクターであればまだしも、エマのような黒幕の操り人形ポジションだと少し微妙だった。
強いままだと主人公達が目立たず、弱くすると仲間にする意味が無い。
それに加えて、そんな強いキャラクターを操っていた人物が、裏切り者をそのまま野放しにするわけが無い。
操る際に何か仕掛けをしていないと、万が一裏切られた時に脅威でしかない。
となると、やはりエマは死ぬ以外に道はなかった…と思う。
「…」
そこまで考えて、再び後ろに倒れる。
自分にいくら仕方がないと言い聞かせたところで、前世では殺してしまったのだ。
それは変えようがない。
「今からなら、まだ…」
呟いてみるけれど、風にかき消される。
もちろん、変えられる可能性はある。
だけどそれは、作品に対する冒涜ではないのだろうか。
作り上げた物を改変してしまう…ましてや自分の作品を改変するなんて。
「…」
どんどん気持ちが重くなっていくのが分かる。
耐えきれずに目を閉じようとしたら、不意に自分の顔に影がかかった。
「…!エマ…」
視線を上げると、エマがオレのことを覗き込んでいた。
目が合うと、慌てて逸らされる。
「あ、ごめん、なさい。…大丈夫かなって」
どうやら、オレが倒れていたから心配になって見に来てくれたようだ。
優しい子だ。
「大丈夫だよ、ありがとう」
「あの、これ…」
エマはおずおずとコップを渡してくる。
中の水が静かに揺れている。
わざわざくんで来てくれたのか。
オレのために…?
「ありがとう」
コップを受け取って、一気に水を飲む。
冷たい水が喉を潤していくにつれ、重くなっていた気持ちもどんどん軽くなって行くような気がした。
「ぷはっ」
水を飲み干して、濡れた口を袖で拭く。
思考が冴えてきて、口元が緩んでしまう。
オレの様子を、エマはキョトンとして見つめている。
そんな様子がなんだかとても愛おしく思えて、ますます口元が緩んでいく。
「エマ」
「は、はい」
声をかけると、エマは緊張しながら姿勢を正す。
「大丈夫。そんな緊張しないで」
「えっと、はい…」
オレの言葉に反応して肩の力を少し抜く。
目線を合わせると、エマは戸惑ったようにこちらを見る。
本来であれば、キラキラと宝石のような輝きを持つ碧い瞳。
それが陰っているのは、前の親のせいだろう。
ひいては、そんな過去を考えたオレのせい。
「…」
エマの髪を持ち上げて、耳にかけてやる。
「えっ、あの…」
こちらを見るエマは、不安げで泣き出しそうになっていた。
エマの頭を優しく撫でる。
オレの中の重い気持ちはもう無くなっていた。
「大丈夫、大丈夫だよ」
大丈夫、オレは今度はエマを死なせたりなんてしない。
絶対に、エマを守って見せる―




