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できること

「くっ!」

「エイデン!」


エイデンと呼ばれた男は、煤で汚れたマントを纏い、深く息を吐いて前を睨む。

その視線の先には、1人の女。


漆黒の短いざんばら髪、不気味なほどに白い肌、じっと見ていると飲み込まれてしまいそうな碧い瞳。


全てが彼女の異質さを物語っていた。

このままでは、全員が倒れてしまう。

その場にいる全員が、目の前の状況に絶望を感じていた。


―ただ1人を除いて。


「…」

「アリア!?」


アリアと呼ばれた少女は、杖をグッと握り直して対峙している女を見据える。

その瞳には絶望などはなく、強い力が宿っていた。


「エマちゃん、覚悟していてください。これが終わったら…たくさん叱りますからね!」


そう言って振り上げた杖には、暖かな光が集まっていく。


―これは、ある物語の中で少女が友人と仲直りをする1節だ。



「どうした、ルーカス」

「えっ、あ…なんでもないよ」


エマ・バーンズという名前を聞いて一気にフラッシュバックした自身の記憶に戸惑いながら、なんとか父さんに返事をする。


前々から、なんとなく自分の作品と似ているところがあると感じていた。

だけど、実際に生きている世界がそうだと確信する決定的な事柄が無かったので、ただ似ているだけだと決めつけていた。


…いや、目を逸らしていたのだろう。

だってそうだろう?

自分で作った世界に転生するだなんて、夢物語にも程がある。


「じゃあ、これからよろしくな。エマ」

「は、はい…」

「よろしく。…父さんオレ戻るね」

「ああ、ありがとな」


父さんに一言添えて、部屋を後にし特訓場に向かう。


これから考えなければいけないことが山のようにある。

これからのこと、オレ自身のこと…それからエマのこと。


とりあえず、1つ1つ考えていこう。


まず、これからのことだ。

生活自体を変える必要は無い。

今までと同じように慎ましく生きるだけだ。


というより、変える手だてが特にない。

よく異世界転生では、前世の知識を活かして利益を出したり、前世のものを再現したりするが、オレにはそれができない。


オレがそこそこ売れていただけのただの漫画家だからだ。

生活能力なんてないに等しい。


ご飯はコンビニのレンジ飯か、配達に頼りきり。

掃除はたまに自分でしてはいたが、呆れた担当編集やアシスタントがほとんどやってくれていた。


漫画を描くために多少なりともいろんな知識を集めてはいたが、大体がその時その時の短期的な記憶で、使い終わったら記憶からなくなっていた。


だから転生した今のオレにできることと言えば、こうして前世の記憶を思い出したり、いろいろ考えること…それから絵を描くことくらいだ。


絵を描くことといっても、しっかりとした線がかけるわけではない。

せいぜいが5歳の握力で描ける程度の歪な線。

…まあ、他の5歳に比べたらだいぶ上手いとは思うけど。


とまあ、こんな具合なので転生したからといって、何か特別なスキルがあるわけではない。

もしかしたら気がついていないだけなのかもしれないけれど、気がついたからといって何かしようという気もない。


オレはただ、平和に暮らしていたい。


「ふう」


実を言うと、差し当っての問題はそこだったりする。

つまりは『どうやって生き残るか』ということだ。


オレの漫画に登場していた『エマ・バーンズ』には、家族がいない。

“天涯孤独の天災黒魔術師”というのが漫画の中での彼女の2つ名だった。


つまり、その頃にはオレや両親はいないということだ。

その原因は…。


「なんだったっけ」


もうすぐそこまで出てきているのに、出てこない。

しばらくうんうんと唸っていても、全く思い出せなかった。


「今日はもう無理かな」


きっと、今は無理でもいつかは思い出せるだろう。

思い出せ無かった時は…まあ、その時はその時だ。


とにかく今は自分に出来ること…特訓を頑張ろう。


「よし、今日こそ的を壊すぞ!」


手作りの的を壊すことが今の目標。

それが終われば的をドンドン小さくしていって、命中率を上げる。


1つ1つ課題をクリアしていくのは楽しい。

頑張ろう!

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