ねえ、最初に会った時に何て言ったか覚えてる?
夫婦なんてこんなもんじゃないかな?
幼馴染と結婚した。
白無垢で角隠しをした彼女はとてもきれいだった。
今、披露宴の会場の入り口に並んで立っている。
ウエディングドレス姿の幼馴染が、
「ねえ、初めて会った時なんて言ったか覚えてる?」
と聞いて来た。
タキシード姿の僕は、
「確か」
初めて会ったのは幼稚園の時。
幼馴染のあまりの可愛さに、
「しゅきです、およめしゃんになってくだしゃいっ」
と叫んだのを思い出した。
幼馴染はあの頃からすでに可愛く、今は色白の美人になっていた。
「あうう」
小さかったとはいえ恥ずかしい。
僕は身悶えしながら、
「しゅ…」
と言おうとしたら。
「牛丼特盛、肉、玉ねぎ、汁抜きって言ったのよ」
「……えっ」
「牛丼特盛、肉、玉ねぎ、汁抜きっよっ」
「……そっ」
そんなこと言ったのかっ、幼稚園児の自分っ。
愕然とした。
ん、ちょっと待てよ。
幼稚園児で特盛なのか。
しかも、
「牛丼から肉と玉ねぎと汁を抜いたら、単なる白いご飯よね」
「う、うん」
「でも有名な牛丼チェーン店で買っているのっ」
「そ、そうなんだ」
「……その日はドキドキしてなかなか眠れなかったわっ」
「やっぱり、それは単なる白いご飯なんじゃあ」
「それからよっ、あなたのことが気になり出したのはっ」
「いやっ、そんなことで意識され始めたのっ?!」
「これから一生一緒に、『牛丼特盛、肉、玉ねぎ、汁抜き』が牛丼なのか何なのかを探していけるわねっ」
「……一生……探す……のか?」
――何を……?
僕は、いま何とも言えない表情を浮かべていることだろう。
「新郎新婦の御入場です」
パパパパパーン、パパパパーン
結婚行進曲が鳴り始めた。
「さあ、行きましょうっ」
彼女に手を取られ開いた扉から披露宴会場に入った。
目を輝かせながら話す彼女を見て、この命題は多分一生解けないんだろうなと思う。
でもそんな彼女の横で一生幸せなんだろうなとも思った。
タイトルは、実際に幼稚園から一緒の小二女子が男子に言ったセリフです。