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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
3章
99/276

98 蠢くもの


魔道庁の防御壁の届かぬ、王都の外れ。

人の近寄らぬ寂れた廃屋の内に、闇を好んだ者共が溜まっていた。

壊れかけた建屋の一番奥。

壁を背にした椅子に座るフードを深く被った男は、目の前の襤褸を纏った男の話を漏らさず聞いていた。だがこちらを恐れるように窺いつつ男が語った内容は、待ち望んだものではなかった。

「黒魔鳥が宝玉の力を行使しなかった?では、あそこには聖なる宝は存在してなかったというのか。そなた、見込み違いであったな」

「いえ、私の見立てでは確かにあの場所に秘されていると」

襤褸の間から覗く目が必死の光を湛えて言い募る。

「だがいくら探しても見つからなかった。そうだな?」

「は」

「我らの手では探れぬとみて、魔鳥をあの地に誘い込んだのだ。労をして魔物どもを扇動して襲わせたのはその為だ」

魔鳥が王居の辺りで確認された。その一報を聞いた時から既に罠を張っていた。

魔道庁の防御が及ばぬ場に魔鳥が現れたらすぐに、と。魔物を誘い出し引き合わせる。魔鳥の存在を感知したなら魔物は見ぬふりはできぬ。無意識に惹き寄せられ、我が物にせんと襲うのは奴らの本能だからな。

「魔物の這い出る地下が宝玉の隠された場と重なる、とそなたは言ったではないか。百年の昔に打ち捨てられた場とな。ならば見つかる筈。魔鳥が地下に潜ったのだからな。擁する魔力を以てすれば隠された宝玉を見い出す能力の持ち主だ。なのにその魔鳥に一切変化がない。宝玉を手にしたという兆候は見られなかった」

「魔鳥を追って、人が地下で魔術を使った形跡がございます」

魔道庁の調査はそこまで及んでおりませぬが。

森との境を見張っていた者からの報告も併せて伝える。

「魔道庁が真実を捉えることは不可であろうよ」

嘲弄でナーラ国の誇る魔法機関を切り捨てて、しかし聞き流せない事象に鋭く問う。

「何者だ、それは」

「魔道庁所属の者ではありませぬ」

震える声が答えた。

「ならば魔鳥を凌ぐことなど出来まい。地下の大きな魔道の痕跡は火の魔法。魔鳥のものであったのだ。その黒魔鳥に先んじて宝玉を奪える筈もない。そこに玉が在れば魔鳥が見過ごす筈もない。やはり、宝玉はなかったのだ」

「見つけた上で、手に入れずにいるという可能性はありましょうか」

「馬鹿な。宝玉の力があれば、半魔から完全体へと生まれ変わる。今でさえ他の魔物を圧倒する力がさらに数倍になる。魔物として王の地位に立てるのだ。それを魔鳥が躊躇う理由を貴様、説けるか」

「いえ」

襤褸の男は目を伏せ、言葉を濁す。

「つまりはそういうことだ。魔鳥は宝玉を使わなかった。宝は未だ見つかっておらぬというわけだ」

「はい」

「他の場所を当たらねばなるまい。宝玉と魔鳥、双方を手に入れるのだ」

フードの人物は言って、話は終わりと痩せた手を振った。虫の羽音に似た音と共に眼前の襤褸切れが消え失せる。

廃屋に一人になったところで、フードをはねのけ男は息を吐いた。

「彼方に蒔いた種子も見なければなるまいな。そろそろ頃合いであろう」



───────────────────────



日が変わって、また廃屋に人が来る。

「そろそろ、あちらは痺れを切らしているのではないか」

曲がった背、暗灰色の厚手のローブに包まれた身を低くして、こちらを窺う。

禿頭の下、暗い瞳がこちらを向いた。

「は。オロールからは頻りに報せが来ております」

「今少し焦らして、折を見て戻るがいい」

「──公爵の監視がありますが」

「あの女に気に入られているのであろう。何とでも言いくるめて居場所を作れ。王宮に繋がる足掛かりを何としてでも固めるのだ」

「ははっ」

否やは聞かぬ。

絶対の服従を確認して、男はゆったりと唇を吊りあげた。


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