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「うわ、寝過ごした!」
朝日が差し込んで、ルイは眩しさで目を覚ました。そこで、絨毯の上で頭を羽根の下に入れて丸くなっている鳥を見つけた。夜鷹ではない。はるかに大きい、漆黒の羽毛の塊だ。
「──いる」
サヨと話していて、眠気に勝てずにベッドに入った。その後サヨがどうしたかまるで覚えていない。寝ている間に黒魔鳥になったのだろうか。
ふわふわの肩と思われる両翼の付け根辺りを軽く叩く。
「サヨ。サヨ、起きろ」
くる、と小さく鳴き声がして、頭が羽根の下から飛び出した。黒い丸い目が開いてじっとルイを見つめる。
と、大きく翼を開いて羽ばたきをする。
「うわあ!」
「うわ!」
サヨの大声に、こちらも声を出す。寝起きで目の前にルイがいて動転したのだろう。こちらも翼の風に顔を叩かれて眠気が飛んだ。
久々に見る黒魔鳥の翼を広げた姿に見惚れていると、サヨはばさり、と一度大きく羽ばたきをしてヒトガタになった。
「ごめん、びっくりして」
「いや、俺の方こそ」
言って、もう本当に時間がないので、そそくさと隣の居間に移りながら会話を続けた。
「あのまま二人とも寝ちゃったんだな。サヨは床で寝てて体痛くないか」
「平気。野生だからね」
手早く服を整えると、頃合いを見たサヨがやって来た。こちらの半魔は着替える手間がないので羨ましい。
「俺はもう行くから、サヨはゆっくり出ていって」
扉を開けてから、部屋の奥へと言い放つ。
「何してるの」
その背中に不意打ちで声がかかって、ルイは飛び上がった。
「シャル!」
「何そんなに驚いてるの」
シャルロットは扉の開いている隙間から部屋の中を覗き込む。ルイは目を逸らした。シャルロットは中の半魔を見つけて事態を察したのか、ふん、と鼻を鳴らす。
「私の悪口でも言って朝まで盛り上がったわけ?」
目の前のルイではなく部屋の中に向けて言うのだから、確信犯だ。もちろんサヨも当然のように応じる。振り返れば、腰に手を当てて尊大極まりないポーズまで取っていた。シャルロットを煽る気満々だ。
「さあどうかな。聞きたい?」
「サヨ、ちょっと待って!シャルも。そんなこと言ってないよ」
放っておけばエスカレートしそうな二人の気配に、ルイは慌てて間に入った。
お互い、喧嘩腰なのは止めて欲しい。
割り込んだルイを呆れたように見て、シャルロットは言う。
「アンヌに知られたら怒られるよ」
「わかってる。俺の失敗だ」
「気をつけてよね」
つんと顎を反らして踵を返す。サヨにそっと目配せをして、ルイはシャルロットの背を追った。




