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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
3章
90/277

89


ここまで念押しするのは、サヨの知識がゲームによるものだからなのだろう。

ルイは思った。

前の世界で作られたゲームの中での設定。それは画面上では絶対だが、このリアルとなった世界でも完全に同一か確信はない。既にいろいろとズレを確認している。

三つの宝、がゲームの鍵なのだから基本設定は動かないと見るか、改変されていると見るか。

確かに判断は難しい。


「さっきの青い玉と赤い玉、あの二つが揃って宝玉が出現する、この国の伝説の宝物の一つってのはもう確定だよね」

「ああ」

「宝玉は紫。で、呪いを解く、解呪の力を持つ。ここまでは良い?」

「そこまでは宝玉に関する言い伝えで知られている」

「うん。まあ他にも望みを叶えることができるんだけど。問題がある。一度宝玉が顕現したら、それは呪いを解く時なんだよ」

「どういうことだ」

サヨの示す意味を掴み損ねて、ジュールが眉をひそめた。

「つまり、ひとたび宝玉を出したら、力を使わないといけないってこと」

「──。使わなかったらどうなる」

「よくわからないけど。無駄に輝き続けるんじゃない?」

あやふやな応えだ。

多分ゲームで宝玉が顕れた時は非常事態か切羽詰まった場面で、迷わず力を使うと決まっているのだろう。

特に何ということもない状況で宝玉が出現する、今すぐ何とかしたい呪いが無いという中で宝を手にすることは、きっと想定されていない。

「それで、輝いてるとかその辺はどうでも良くて。問題は一旦宝玉が顕れて力を使ったら、しばらく喪われて次に顕れるまで時がかかるってこと」

「えっ」

「何だと」

ルイは驚いた。ジュールも全く未知の話だったようで目を瞪る。

「へえ。一度使ったら消えちゃうってことか。魔法の力に制限があるんだ」

シャルロットの声は率直な感想だ。

「そりゃあるって。でなかったら何でも宝玉の力でできてしまって、持ち主は無敵じゃない。この国、周辺国を属国に出来ちゃうでしょ」

「歴史書に記されている限りでは、我が国が他国を平定するほど強大な国力を持ったことはないな」

「うん。あ、あくまでもそういう可能性。確定じゃない」

ジュールの指摘は冷静だ。少しばかり断定的に話が進んだと感じたのか、サヨが慌てて口を挟む。

「とにかく。だから今、宝玉を顕現させたら面倒なことになりそうかな、ってこと」

「そうか。それで一度解呪をしたら次に宝玉が顕れるまで猶予期間はどれくらいだと?」

「それが、わからない。でも翌日、とかの短期間は無理なんじゃないかな。どのくらい間が空くのか、定かじゃない」

使えない時間は、年単位ではないと思う。

自信無さげにサヨは付け加える。

「成る程。それが事実であった場合、徒に宝玉を使ったら真に必要な際に困る可能性がある」

「うん。あの、いろいろ言ったけど本当に確証は無いよ?私のわかってる範囲の話」

「肝に銘じる。今後、様々な書を漁って吟味するつもりだ」

「そうしてくれると助かる。間違ってる可能性も大きいから」

ほっと安心したようにサヨの眉が弛んだ。

「じゃあ、宝玉はこのまま出さなくていいな」

「宝玉、見てみたかったなあ」

ルイの言葉に、同意しつつも少し残念そうにシャルロットが言う。

「綺麗だったし」

「仕方ない。おもちゃじゃないんだ」

「わかってるよ」

二人のやり取りを黙って聞いていたジュールが、ふとサヨに向き直った。

「玉は必要な時に使う、か」


さて、と声が一段低く変わる。

「それで。魔鳥は自分のために宝玉の力を使う気はないのか」

「ないね」

しかしサヨは即答した。迷いは欠片も見えない。

「今の形で困ってないし。半端でいいよ」

「ふん、そうか…」

ジュールはサヨを見つめて深く考え込む。

「これ以上強い力って言われても、今のままで不足はないし。ルイも私が魔であっても気にしてないよね?」

「ああ」

「だからこのまま、」

「ちょっと待って」

同意を求められて、他意なくルイは頷いた。そこにシャルロットが割り込んだ。

「お前はこれからもルイに纏わりつくつもり?」

「うん?まあ。私達仲良しなんだ」

ね、と顧みられてルイは曖昧に首肯する。シャルロットの視線が尖った。

「はあ!?」

サヨに掴みかからんばかりに前のめりになる。その肩をジュールがそっと押さえた。

「シャルロット殿下、落ち着いて下さい。話はまだ先があります」

ゆっくりと押し止めて、サヨにさらに問いかける。

「完全なる魔になることは望んでない、と。ならば、解呪で人になる選択もあるのではないか」

「!何を突然」

サヨの顔が驚きに染まる。

「魔物として絶対の力を持つことには関心がないようなのでな。ルイ殿下と厚誼を結びたいなら人になった方が良い」

「……考えてない」

「そうか」

「本当だって。考えてない」

断固として宝玉の力を使わないと言い切るサヨに、ジュールはいつになくしつこい。ルイが不思議に思うほど。

ジュールはサヨを半魔と言った。宝玉の力を使えば完全体となって今の数倍の力を持つ魔に変化すると。それはこの国を危うくする程の力なのか。

ルイは、最近はあまり読むこともなくなった革の本を今一度復習うことを念頭においた。

「なるほど」

ジュールはサヨからわずかも目を逸らさず、また違う言葉でサヨを質す。

「では質問を変えよう。強大な魔力を有する黒魔鳥は我が国の敵となるか?」

魔物に対する強い警戒の滲んだそれに、ルイは息を潜めて答えを待った。しかしサヨはそれすらも予想の内か、軽い口調で言い返した。

「わかってて聞いてるんじゃないか」

「はっきりとその口から聞きたい」

「魔道師様は性格が悪い」

口の端に笑みすら浮かべて。

「王国の敵になるかはそちら次第。ただ、ルイの敵になるつもりはないよ」

言って肩を竦めた。

「これで満足?」

ふ、とジュールは小さく吐息を溢した。

「今はな。しばらくは見守ることにしよう」

「見守る?監視でしょ」

サヨが眉を上げる。ジュールは否定も肯定もせず、会話を終わらせた。


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