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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
3章
80/275

79


黒い魔物に宝剣を突き立てた。狙いは外さなかった筈。

なのに魔物は消え、さらにルイまでも魔法のようにいなくなった。いや、魔法、魔物の魔力の為せる術に違いなかった。

シャルロットは呆然とした。

あの魔物がルイを拐ってどこかに消えてしまった。


それでも、主のいない部屋で自失していたのはほんの少しだ。

急いで窓を開けて外を探した。ガタンと派手な音がしたが、気にする暇もなかった。


いない。


魔物は闇色だったが、ルイは白くて金色だ。いたらわかるはず。空も地も、どこかにいないか懸命に目を凝らした。だが真っ暗な夜が広がるだけだった。

目の届く距離にいない、手の届かぬところに連れていかれた。

明らかな喪失に、すっと体の血が下がる心地がした。足から力が抜けていくのをぐっと床を踏みしめて堪えた。


ルイ。


一刻も早く助けなければ。

頭にあるのは一番大事なことだけだ。

唯一を取り戻すためなら何でもする。

ほんのわずかに躊躇い逡巡したが、一人では何もできない。自分は外への連絡すらできないのだ。

シャルロットは素早く決断した。


「起きて、メラニー!」

廊下に出て小走りで侍女の部屋を訪ねると、焦る気持ちを抑えて扉を叩いた。

「シャルロット、様?」

夜着に薄物を羽織りながら現れたメラニーは、深夜だというのにいつものきちんとした佇まいを保っていた。

「今すぐジュールに会いたい。急ぐんだ。お願い」

「ジュール殿に?いかがしましたか」

驚いた顔をしたメラニーは、シャルロットの必死な様子に頬を引き締めた。

「ルイが消えた。魔物に連れていかれたんだ」

「!アンヌ様は」

「アンヌにはまだ言ってない。後でちゃんと言うから。とにかくジュールの助けが必要なんだ」

「──わかりました」

静かに頷くと、メラニーが右手を開いた。掌の上でふわりと空気が揺らぐ。風のように流れが出来て消える。

それがジュールの従者に繋がる魔法だと、シャルロットは知っていた。



ほどなくして宮邸、ルイの部屋に供を連れたジュールが音も立てずに現れた。連絡はうまくいったようだ。

「シャルロット殿下」

軽く礼をして、即座に本題に入る。

「魔にルイ殿下が連れ去られたとか。まさか、黒い魔でしょうか」

「うん、全身真っ黒の女だった」

「鳥ではない?」

「違うよ。私より少し年上くらいの、変わった容姿の人間の女。でも影がなかった。それで私が剣で倒そうとしたら、ルイと消えてしまった」

その時、ルイが女を庇って一緒に消えたことは告げなかった。一瞬の印象だ。見間違いかもしれないのだ。だから不確実な話はジュールには言わなかった。

「殿下。一つ申し上げたいことが。まず最初に剣を振り回すのはお止めください。何者かもわからぬのに危険です」

「でもルイが」

「王女殿下が先頭に立つ必要はありません。何かあれば、まず人をお呼びください」

「…わかった」

ジュールの言い様は不本意だったが、協力を求めている身だ。素直に聞いておく。

「黒い女。真っ黒というのはあまり見ない色です。魔物だというなら、黒魔鳥ではないでしょうか」

「黒魔鳥?」

「少し前からルイ殿下の周囲に出没していた魔物です。羽根を殿下が拾っています。幻の魔物なので真偽が疑わしかったのですが、こうなると話は違ってくる。部屋にまで侵入していたとなると、殿下にかなり執着しているのでしょう」

「全然、知らなかった」

ルイが何も教えてくれていなかった事実にショックを受ける。だが続くジュールの言葉に飛びついた。

「黒い魔が黒魔鳥ならば、追うことができます」

「本当!?」

「ルイ殿下から羽根を預かっておりますので」

「じゃあ、」

勢い込むシャルロットをジュールは制した。

「さすがに魔物の元に一気に翔ぶことはできません。でも場所はわかるので、このレミと共にすぐに救出に向かいます」

「私も行く」

即座に言うと、ジュールは溜め息をついた。

「殿下」

「止めても無駄だよ。私もルイを助けに行く」

「振り切ったとしても、大人しくお待ちいただけないと承知しております」

眉を下げたジュールにしては珍しい顔だった。

「え、じゃあ」

「私の指示に従うという約束を守って、ご自身を第一にされるならば」

「やった!」

「はい。メラニー殿、よろしいですね」

ジュールに問われたメラニーもなんとも言えない顔つきだった。それでも諦めたように頷いてくれた。

「アンヌ様には、私が叱られます」

シャルロットは、メラニーに感謝を込めて抱きついた。


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