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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
3章
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「剣のこと、ジュールに聞いてみた」

もはや恒例と化した深夜のサヨとの会合。そこでルイは日中の出来事を話す。

場所はお決まりの自室のソファ。互いに向き合い言葉を交わすそれは、かつてシャルロットに対していたのと同じだったが、ルイ自身、意識していなかった。

「なんて?」

「書庫でアルノーと調べてるみたいだけど、伝説の聖剣ってことしかわからないって。王家に関する伝説や起源みたいなのをまとめた書があるはずなんだけど、王権に関わることだから王宮で厳しく管理されてて読むことも調べることも出来ないらしい」

「閲覧禁止」

「うん。だから確定的なことは何にもわからない」

「ジュール魔道師が」

「そう、ジュールが」

脚を組み、サヨはソファにどかりと背中を預けた。

「ふうん。あの強大な魔力持ちの魔法使いがね。やる気になればどこでも入り込めそうだけど」

「そりゃあジュールはいろいろ出来るだろうけどさ」

そこでルイはサヨの含むような顔つきに気がついた。

「なんか知ってる?もしかして、ジュールもゲームに出てくるのか」

「ゲームでは老人はほぼ出てこないよ」

ルイの予想はハズレた。サヨははぐらかすのは上手いが嘘はつかない。多分。

「え。じゃあアルノーもロランも出てこないのか」

宰相なのに?

「さあね」

ふふふんとサヨが鼻で笑う。


ああ、楽しんでいる。

こうなるとサヨは完全にルイで遊びはじめてしまってまともな答えが返ってこない。

既に過ごしてきた時間のお陰で、相手の態度で次にどう反応するかどういうつもりか、お互いある程度読めるようになっていた。

「ゲームの展開、知ってるんだろ。教えろよ」

「お断りしますー」

一言の元、断られる。予想できたとはいえがっかりした。

「そもそも聖剣について聞いてきたのはサヨの方だろ。俺は知ってる話を正直に話してるのにそっちは隠すってフェアじゃない」

「んー、でも知らない方がいいって思うんだけど」

「俺が知ったら、まずいのか?」

ゲームの展開的に。

「ううん、その方が面白そうだから」

「──」

絶句するルイを覗き込んでサヨはにんまりした。その顔があまりに腹立たしくて、ルイはサヨの腕を掴んでソファに引き倒した。

黒い髪が舞って、ソファに散る。

「うわ、暴力に訴えてきた。サイテー」

だが深くソファに倒れ込んだサヨの唇から漏れたのは抑揚のないそんな言葉で。

「!」

怯んだルイが押さえつける力を弱める。それを読んだサヨにするりと脱け出され、体勢が崩れたところを逆に組み伏せられた。

「逆転」

柔らかい布に押さえつけられて、慌てて顔を上げる。見下ろすサヨは黒い瞳を細めて笑っていた。


「ちょっ「──何してるの?」」


すぐさま反撃に転じようと声をあげかけた。そんなルイを止めたのは、二人の間に割り込んだ冷えた声。

反射的に扉の方を見ると、夜着のまま固い顔をしたシャルロットが立っていた。

思いもかけぬ状況にルイはしばし動けない。それでも頭の中をいろいろな念が駆け巡る。

慣れすぎて油断していた。話に盛り上がって声を潜めていなかった。隣の部屋にシャルロットがいると、すっかり忘れていた。


──サヨは魔物だから、決して見られてはいけなかったのに。


しかも今の、体勢は。

まずい。

「貴様、魔か!」

覆い被さるサヨを急いで押し退けた。だがその時には、シャルロットが素早く動いていた。



───────────────────────



見た瞬間、シャルロットはあまりの厭わしさにかっと頭に血を上らせた。ぶあっと目の前が赤く染まる感覚を、何とか抑えてやり過ごす。

ルイの部屋を開けたら、ソファでルイが見たこともない少女に襲いかかられていた。

長く垂れた黒髪がルイに被さっていて、見ているだけで喉の奥が熱で塞がった。

意識して大きく呼吸する。


その時、シャルロットはその少女に影がないことに気づいた。

完全に身体の上に乗り上げられているというのに、こちらを見つめるルイの顔には陰り一つかかっていない。光を受けた、いつもの姿だ。

そしてルイと一緒にこちらを見る真っ黒い女。

漆黒の髪、そして闇色の瞳を持つ、白さの中にクリーム色が滲む肌の、不思議な見慣れない顔立ち。

それでも確かに美しい。

そして何の前触れもなく兄の部屋に現れた、神出鬼没の招かれざる客。

導かれる正体は一つしかない。


「貴様、魔か!」


くくり付けの棚に置かれたルイの宝剣を探し当てるのにほんの一瞬、それから剣に飛びついて振りかぶるのはあっという間だった。


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