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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
2章
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「ロランから報せがあった」

書庫を音声遮蔽するよう要請された時から、話は秘匿と理解していた。

アルノーの潜めた声に耳を寄せながら、いずれの配慮も必要ないなとジュールは冷めた思いで考える。声が大きかろうと、離れて聞いていようと関係ない。遮蔽してるのだから。

それでも二人はなんとなく秘密めかしたまま続けた。

「ああ」

「先の件だが、公爵は関与しておらぬと結論が出た」

「ほう?」

「例の襲撃犯。公爵は預かり知らぬ様子で、実行者がロランの手のうちにあるとわかってひどく動揺していたそうな」

アルノーが見てきたように話す。

「まあ、そうだろう。公爵家が関わっていたら、あれ程短慮で粗雑な計画にはなるまい」

「確かに後先考えない強引な襲撃であったのう」

「だが考えなしとも言える無謀な襲撃が、逆に殿下方に辿り着いたとも言える」

公爵は、事後に概要を把握した。宮邸が襲われ、その黒幕が誰であるかを。

「骸は保持魔法で絶命直後の状態が維持されてたそうじゃが、それはお前が?」

訊ねるアルノーにジュールは首を振った。

「いや。ロランの元にはモリスがついている。あれは保持魔法の腕がいい」

「成る程。最近お前の周りで見ないと思ったら宰相付きになっておったか。いろいろ知らぬ間に動いておるの」

何しろわしは事の間、ずっと寝ておったからのう。

モリスは以前からレミと共にジュールに仕える従者で、アルノーも見知った者だった。従者と言いつつ、魔法に関しては手練れだ。攻撃魔法に優れたレミに対して、状態維持や治癒、防御系の魔法が得手である。

「ああ。あちらの方が動きやすいし、ものの役に立つ」

言って、話を戻した。

「今度のことは恐らく東の御方の単独の仕業、取り巻きの魔道師を使ったものだろう」

「その魔道師が手練れじゃな」

「王妃の子飼か」

遠隔魔法で、面識があるとはいえ本人が知らぬうちに術をかけて命を断つ。

かなりの遣い手だ。

ロランに男の骸を送る前に、ジュールは軽く魔力の残滓を調べた。術を行使した魔道師の魔力量や技量は把握済みだ。

魔道庁の者は単独で対峙したならば、一人も太刀打ちできまい。

ジュールは、その存在を頭に留めた。


「暴挙を止められなかった公爵は、頭が痛かろう」

「だろうな。公爵家としては王妃と第二王子は大事な手駒だ。不用意に動かれて障りが出ては堪らん」

「魔道士長も関わりはないのは確実じゃと」

ジュールは頷いた。

それは当初から想定していた。トマが王妃の不興を買っているとは王宮に出入りする者の間では衆知のことだった。

それに。

「あれは優秀だが、正しい魔道師だからな」

痕跡を見るまでもなく、トマの関与は除外した。あの男は真っ当な魔法以外を考慮しない、修得する意志もない、決して道を外れない者だ。

「お前と違って、か?」

にやにやと笑いを含んでアルノーが言う。

「闇の魔道師とは下法を用いる者のことをいう。研究し修得したとて使わない者はそうは言わない。闇魔道師とは大きく隔たるのだ」

ジュールは静かに主張する。アルノーのにやにや笑いは止まないが無視して話を進めた。

トマ魔道士長には、魔物が出没している森を改善してもらわねばならない。

「それで、常世の森の監視は」

「さすがに名指しでは告げられなかったようじゃ。下手に注意を引いて真相に行き着かれてはいかんしのう」

「では」

「不正な魔道を使う不埒者が今後出ないよう、管理地域の魔道での監視強化を要請したとか。その辺りがロランに出来る限界かのう」

「それで足りるか」

「ま、その後公爵がかなりの私費を魔道庁に投じたようじゃでな」

「事を成すには人も金も要る。トマはそれを使って魔道士を動かす、と。周り回って魔物の抑制に繋がることを期待するか」

「こちらとしては見守るしかないの」

宥めるように穏やかにアルノーは言う。

双子の襲撃事件の後、常世の森の秘密もこの男に、そしてブリュノにも最早筒抜けになっている。ジュールは友の惚けた顔を見て吐息を吐いた。

「悟られぬよう常世の森を注視していく」

「魔力の大半を失った魔道師様には、それぐらいしか出来んじゃろう」

「そういうことだ」

白々しく、ジュールはそう結んだ。


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