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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
2章
52/275

51 蛇


東の宮の片隅、普段は足も踏み入れぬ使用人棟。

己の姿を見た者共が慌てて目を反らす。常は我が身をひと目見ようと、侍女はおろか下女でさえ首を伸ばし目を凝らすというのに。それ程に今の自分は普段とは違う荒んだ様子なのだ。

フォス公爵は自嘲し、それだけの心の余裕があることに安堵する。

血走った目であちこちをつつき回しようやく見つけた影に、フォス公爵は足音も荒く駆け寄り襟首を絞めあげた。

「貴様、妃殿下に何をした」

長身の公爵に首もとを掴まれ、グレゴワールの足先が宙に浮く。しかし憎らしい禿頭は不遜に見返してきた。

「おや、お耳の早い」

「妃殿下の元に不審な男が招き入れられたと知らせがあった」

「公爵閣下は妃殿下までも監視の対象で?」

あからさまな嘲弄だが、公爵にそれを咎める暇はない。王妃に直々に招ばれたとおぼしき男の素性は、裏の職種の腕利きなのだ。

「何を言った、何を吹き込んだ!?」

「くっ。何を、とは。おわかりでしょう。第一王子の有能さ、いずれ来る脅威に対抗しなければならないフィリップ殿下のお立場の苦しさを。真実をお教えするのは忠臣の務め。ナディーヌ妃殿下は大層動揺されておいででした」

「貴様ぁ!」

予測していたとはいえ、ナディーヌを唆したと悪びれぬ態度で明らかにされ、フォス公爵は激昂した。締め上げていた体を力任せに突き飛ばす。しかし床に無様に倒れ込んだグレゴワールは、平然と笑ってみせた。

「おや?お怒りですか。おかしなことだ。王国第一の貴族であること。それを維持するために娘を差し出し婚姻を結び、血を通わせて王子を次代の王に据える。そうして権力を手にすることこそフォス家では何よりも大事のはず。ですから我は妃殿下のお役に立とうと、貴重な話と取り得る手段をお伝えしたのです」

「それがこれか。お前の最良の策は、暗殺者を第一王子の元へ放つことか」

「妃殿下がお望みでしたから」

臆面もなく言い放つことが信じがたい。

「馬鹿な。そんなことをして何の利がある。事の成否を問わず、妃殿下の御身を危うくするだけではないか」

「妃殿下に累が及ぶようなことはございませぬ。そこは遺漏なく対処しております故」

「刺客の口を封じる術を処したか」

自身とて必要とあらば間者の命など打ち捨てるが、しかしこの野良魔道師のやり方はあまりに乱暴だった。このまま大切なものに関わらせるのは、あまりに危うい。

「消えろ。二度とナディーヌの前に現れるな」

フォス公爵の否やは許さぬ命令に、 だがグレゴワールは頷かなかった。

「残念ながら。我は妃殿下のお求めに応じる者。妃殿下が必要とされる間は、お側を去るわけにはいきませぬ」

「何だと」

「文句がおありでしたら妃殿下に申されよ。王妃殿下は我を信頼しておられる」

絶句したフォス公爵の目に、醜い魔道師は怪物と映った。

男は唇を歪めた。公爵の大事なものを掌中におさめているが故の、己が有利を確信した嗤い。

手札を失って、フォス公爵は奥歯を噛み締めた。


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