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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
2章
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「それから。宮邸に放たれた襲撃者を差し向けたのは誰なのか。殿下もいろいろ考えたのではないですか?」

前触れもなく問われてルイは迷う。例の本によると王妃とその周囲の勢力が黒幕なのだが、ここで明言していいものなのか。本に書かれたストーリーの再現であっているのか確証はない。

「あの。僕らが邪魔な人って限られてる気がして」

馬車の中には味方しかいない。だがそれでも敢えてぼかした形で答えた。

ジュールは頷いたが、少しだけ眉をしかめた。

「それは確かに。だがあの者の命を奪った魔法をかけた存在が、少々。先程話に出てきたトマ魔道士長はフォス家に極めて近い存在だが、あれは違う」

「その魔道士長の魔法ではない?」

「ああ。痕跡を見るにあの男の術ではない。それに。トマはああいった下法を為す質ではない。そういう汚れ仕事に向かない男なのです」

「でも、断れない身分の人から命令されたら、」

「人の命を容易く奪う法。しかも強い魔力を要する術。トマ以外の私も知らない魔道師が関わっていると私は見た」

「──」

そんな強大な力を持つ魔法使いが居る。それがルイとシャルロットの敵というのか。

暗澹たる気持ちになった。

しかし、ルイは弱気になった自分に叱咤した。

今はとにかくシャルロットを救うのだ。ジュールを信じて、助ける術を手に入れる。王妃?の敵意や強大な魔道師のことはこの全てが終わってからでいい。


ふと、あの革の本に書かれていた、読み飛ばした箇所で読み取れた単語を思い出す。魔物が攻略対象者、つまり、この世界には魔物がいるとあった。

「あの、今から行く森の中には、魔物なんてものもいたりする?」

「いや」

ほっとして、続くジュールの言葉に顔がひきつる。

「国が管理しているから、不審なものは近づけない。魔が巣にしているのは常世の森の外、結界の外側だ」

いるんだ。魔物。

不自然な笑顔のまま強張ったルイを眺め、ジュールは肩を竦めた。

「何に驚いているか、大体想像がつきますが。まったく、アルノーの馬鹿は本当に大事なことを教えていない。あんなに長く書庫に籠って、何を教えていたのだか」

まあ魔力発現を促すように言語、呪語偏重か。

「わざとだな」

投げるように言って、ルイの顔を覗き込んだ。

「こんな事態だ。今はとにかく王女殿下を救うことに専念します。私ももちろん力を傾けましょう。だが、全てが終わったら周りを見てよくよく考えるのがよろしい」

「先のことは、考えられない」

「わかっています。でもシャルロット殿下は必ず助けられる。王女殿下は元気になられる。そうしたら周囲のこと、そして自身の立ち位置について調べてみるといい」

「ジュールは、僕達が成功するって信じてるんだ」

「信じている?いや、わかっているのです」

国の頂点にある魔道士長も及ばない魔法使い、ジュール。その静かな断言はルイに力をくれた。




馬車は走る。がたん、と一度大きく揺れ、それからひどく滑らかな走行になった。

ジュールが転移魔法を使ったのだ。外の景色がどう移っていくのか少しだけ興味を持った。だが万一にも「敵方」に異常を感知されないよう、窓はカーテンを閉め切り、外を窺うことはできなかった。

「あの」

それまで一言も話さず、置物のようにルイの隣で黙りこくっていたマクシムがおずおずと口を開いた。

「聞きたいことがあるのですが、よろしいですか」

「なんだ」

ジュールが応じると、唇を湿してから言葉を紡いだ。

「ルイ様は、魔法が使えるのですね」

「ああ。シャルロット殿下に治癒魔法を施すのを見ただろう」

ジュールは不意をつかれたかわずかに目を瞪ったが、何事もなかったように答える。

「はい、目の前で。ルイ様が為さることは見てたんですが、確かめたくて」

ああ!

ルイは目を瞬かせた。

マクシムは、ルイが魔法を使うことを知らなかったのだ。

秘密にして欲しいという約束をシャルロットは守ったが、ブリュノも息子に言わずじまいだったようだ。

シャルロットが倒れて、ルイが治癒魔法を使って。ジュールは魔法を駆使してシャルロットとアルノーの命を繋ぐ為に、ルイとマクシムを伴い動いている。

マクシムは混乱のうちにあって状況を懸命に整理しているのだろう。

ルイは大事な友に配慮がなかったことを心の中で謝った。

「ルイ殿下は魔法を習得されている。治癒魔法は特に上達が著しい」

「そうなんですね」

「だが、攻撃魔法はほぼ無いに等しい」

「え」

「使えるのは児戯に等しい威力でしかない。恐らく殿下の剣の方が物の役に立つ程度だ」

「それは…」

言い淀むマクシムに、ふっとジュールは瞳を和らげた。

「殿下の剣の出来が良いとは聞いてないが。それでも、だ」

「はい」

「だから。マクシム殿が必要だ。殿下をお守りする剣として」

「──はい!」

魔法はともかく剣術の力量さえも師に正しく量られて、ルイは下を向いた。なかなか落ち込む評価だが正確だ。

でも。

そっと隣を窺った。

シャルロットを守りきれず、ひどく衝撃を受けていたマクシム。それが役目を与えられて瞳は光を湛え、いつもの力強さを取り戻しつつある。


良かった。

ルイはこの道行きの間に自身の心のうちが、ほんの少し明るく浮上していくのを感じた。


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