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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
1章
4/275

3


部屋に戻ってきたシャルロットの瞼の腫れを、アンヌは見逃さなかった。常は快活な子供が明らかに泣いた跡を顔に残していたのだ。

何があったのか尋ねられ、ルイとシャロットは女達の話の覚えている限りを伝えた。

大人の話を隠れて聞いていたと怒られることも考えたが、心細く不安な気持ちが優先した。

意外にもアンヌは叱らず、二人を大きな胸のうちに抱き締めた。

「ルイ様、シャル様。アンヌがいけませんでした。お許しください」

始めに出てきたのは謝罪だった。

「──アンヌ」

「お二人のこと、誰かからおかしな風にお耳に入る前に、きちんとお話ししておけば良かったのです」

背中を抱く腕に力が込められる。ルイとシャルロットはアンナの胸に顔を埋めた。

アンヌとシャルロットと、二人の体温から力をもらってルイは尋ねた。

「アンヌ。いらない子って僕達のこと?」

「!違います」

即座にアンヌは否定した。

「でも」

「アンヌはお二人がとても大事です」

──お暇を出されるはずのアンヌ様がお願いして──。

「アンヌは我慢してるの?」

今度はシャルロットが聞いた。二人とも黙っていようが気持ちは一緒だ。知りたいことも。

「いいえ、いいえ。お二人が大好きだから一緒にいるのです」

「「本当?」」

期せずして二人言葉が揃った。

本当ならとても嬉しいけれど。

喜色と不安が綯交ぜになった顔でアンヌを必死に見つめてしまう。

「ええ、本当ですとも。──私はお二人がお生まれになった時から大好きですよ」



夕食前のひととき、ルイとシャルロット、そしてアンヌは居間で向かい合って座った。

常は身分が違うから、と共にテーブルにつくのも固辞するアンヌだが、今は二人の身の上を語る為に同じソファに腰を下ろしていた。

「いつかはお話しすべきとわかっておりました。まだお小さいからと後回しにしていたのは私の落ち度です。本当に申し訳ありません」

そんな詫びを端緒に、アンヌは語り始めた。


私は、お二人のお母君の侍女でした。


母親。


世の中に親子というものがあるのは、書物から得た知識で何となくわかっていた。親がいて、子供がいるというのも。けれどルイとシャルロットには最初から無縁で知らないものだった。

お互いとアンヌさえいれば事足りる世界にいたのだから。

だがここで俄にアンヌの口から存在を告げられ、さらに詳しく教えてくれるという。


ルイとシャルロットは驚きと好奇心とで、胸の鼓動が強く跳ねるのを抑えて続きを待った。


お母君は伯爵家のお嬢様で、私はお嬢様のお小さい頃からお仕えしておりました。お母君はとても優しくお美しい方でした。そうそう、お二人のお顔はよく似てらっしゃいます。評判のお方でしたよ。

それが……年頃になられてお父君と出会い、ご結婚なさいました。幸せだったと、思います。

「お母君はお子が生まれるのを心待ちにしておいででした」

父君もです。

付け加えられたのは小声だった。

とても幸せそうでした。とても。

けれど。

お二人をご出産直後にお母君は亡くなられました。

元々お体が丈夫ではなかったのですが、難産の果てに。

父君は母君を深く愛しておられたので悲しみが尋常でなく…。

嘆きのあまり、お母君に繋がる全てを遠ざけておしまいになりました。お仕えしていた私はもちろん、お二人のことも…。


苦い過去を、アンヌは幼い二人にわかりやすい言葉で語った。


「それで」

「ええ、それで私がお二人をお育てすることにしたのです」

そうか。

知らなかった出生時のいきさつを教えられて、ルイはすとんと納得した気持ちになった。

「じゃあ、いらない子っていうのは違うのかな」

「違うのかな?」

ぽつんと心に引っ掛かっていたトゲが転がり落ちる。シャルロットがルイを真似た。

「もちろんです!先程も申しましたが、アンヌにとってお二人はとても大切です。亡くなられた母君だって。最期の時もずっとお子様方のことをお気にかけておられました」

アンヌは強い口調で重ねた。

それに、と言葉を継ぐ。

「ルイ様はシャルロット様が大事でしょう?」

勢いよく頷くルイに笑んで、隣を見やる。

「シャルロット様も」

「ん?」

「ルイ様がいらないですか?」

「ううん!ルイもアンヌも大好きだもん」

大きく首を振って、シャルロットはルイに抱きついた。ルイも柔らかい体を受け止める。そうすると何よりも安心した。

「僕も、大好きだよ」

「うん。シャルは、ルイとアンヌがいればいいよ」

ルイにくっついてシャルロットは笑った。屈託が消えた二人に、アンヌはもう一つだけ大事なことを、と優しく笑った。

「お二人のお母様のお名を」

「お母様の名前?」

「エルザ様です。覚えていてくださいまし」

「エルザ」

シャルロットは大事そうにゆっくりと繰り返した。ルイもその名前をしっかりと胸に刻んだ。


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