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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
1章
31/276

30 狐狸


「思ったより早かったの」

「白々しい」

日が落ちかけて薄暗くなった書庫の中。明かりを灯した呑気なアルノーの感想をジュールが一言で切って捨てた。

「最初からそのつもりだったのだろう?王子は語学に興味がある上に意欲も高い。禁書は無制限に閲覧させて、手解きするのはお前。そして俺には思わせぶりに王子の存在を匂わせて誘き寄せて」

「んー、その言い方じゃと完全にわしの悪巧みになるの」

「本当のことだろう」

「いやいや。わしもじゃが、お前も好奇心には勝てんかっただけじゃろう?」

「ちっ」

舌打ちしてジュールはまとめた髪をかきあげた。冷めた眼で吐き捨てる。

「全部宰相閣下の手のうちか」

「ロランも必死なのじゃ。陛下の政務の大半を肩代わりしておるが、足を引っ張る者が多すぎる。先の一手を考えたくなるのも道理というものよ」

「それで第一王子に何も知らせずに、こちらに都合良いよう育てるのか」

「まあ、仕方あるまい。将来的に公爵家が行く末を誤った時、対抗馬となるお方がおらんではな」

何しろ、あちらの殿下は公爵の後ろ楯がある。お前の後任のトマも公爵派じゃ。

「そのためか。まだ子供だぞ」

「フィリップ殿下よりは年上じゃ」

「後見がいない不安定な立場だ」

ルイの瑕を指摘する。しかしアルノーは得たりと笑った。

「しかも聡明、素質も充分ときている。後ろ楯のない不憫な身の上を助けたとてなんの障りがあろう」

「手駒にするなら、情が移らないよう気を付けた方がいいんじゃないか」

「ああ。もう遅いのう」

「老いたな」

「利発な上に勉強熱心で素直。さらにこちらを一心に信頼する年端もいかない子供じゃ。孤独な老爺の気持ちが動くのは仕方あるまい」

「はっ」

鼻で嗤うジュールにアルノーはにんまりと笑んだ。

「お互いにの」

ジュールが目を見開く。

「仕事でもないのに、わざわざ宮まで赴いて左手で術を張るなど、氷のジュール殿には有り得ぬ所業じゃな」

随分前に双子の宮の中庭に遮蔽の術を施したことを仄めかされる。

あの時、ルイに相談されたジュールはあまり迷うこともせずに動いた。

生活魔法は右手。普段封印している左の術は身のうちに流れる強大な魔力の放出だった。

アルノーの指摘に、無意識に右手が左手を覆い隠していた。

そんな自分の仕草に今度こそ盛大に舌打ちをして、ジュールは年に似合わぬ荒れた勢いで書庫を後にした。


その日、王立図書館では、かつての大魔道士が大股で館内を横切る珍しい姿を多くの職員が認めたという。


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