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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
1章
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28


「呪、語。魔法のための言葉?」

「そうじゃ。殿下があまりに早く古語を理解するんでの。試しに、と呪術語を教えてみたわけじゃ」

「それって」

ジュールが淡々と告げた。

「普通は学校入学後、十五歳以降に学ぶ言語だ」

「そうじゃ。じゃから古語はともかく、呪語はさすがに難易度が高くていつ投げ出されるかと思っておったが。殿下はもりもり学ぶのでのう」

腕を組み首を振るアルノーに、ルイもついここまでの苦労を思い出す。

「いや、でもすごく難しかったですよ。ジュール殿に教えてもらわなきゃ、取っ掛かりもわからないくらいで」

「そこまでいくのも厳しいのじゃよ。発音も達者だとジュールが言うておったわ」

わしも唱和は苦手じゃ。

そう溢したアルノーを見て、上級古語(実は呪語)を学んでいる時の違和感が解けた。

アルノーが指導をジュールに譲ったのは、本当は魔法習得のための言語だから。魔法に関しては国一番とも言える魔道士であったジュールだ。アルノーよりも指導に向いているのは当然だった。

なるほど、と納得するルイに、ジュールがまた話がずれていると冷たく指摘する。

結局、改めて魔法の発現について教えてくれたのは苦い顔をした元魔道士だった。




この国の貴族はほとんど魔力を保持して生まれる。たまたま魔力を有した者達が力を使って国を治め、権力の中枢に立つようになったのか。魔力持ちが尊ばれるから、その血筋を保つため保持者同士で婚姻を繰り返して、力を持った者達が貴族と称されるようになったのか。

その辺りの起源はもはやわからぬ昔の話だ。

庶民にも稀に保持者は生まれるが力は弱いとされる。有魔力者は貴族の家に引き込まれて同化されるから、というのもあるだろう。

そして、成長と共に魔力は満ち、十を過ぎて数年でほぼ発現する。

遊びのような手品のような簡易魔法。しかし自然発現は極弱く、自己流で試してもあまり強化されない。個々の素養や得意不得意で凸凹も多々ある。練達の差や不具合は即ち、魔法の欠けや暴走、事故にも繋がる。

そこで、貴族の子女が通う王立学校で魔力の制御を学ぶ。この際、魔力の制御、自在な発現、魔法の専門化及び強化の元となるのが古代呪術語だった。


ルイは知らず、魔法を発動するための準備をしていたことになる。

「それでも、この年で魔法が発現するのは珍しい」

「まこと。ルイ殿下は魔法の才があるのじゃろう」

ジュールの言葉にアルノーが頷く。

「そんな。僕はそんなつもりはないのに」

「元々の素質があるのだろう。保持する魔力が大きいということです」

己が大層な者のように言われても、実感はなく未だ戸惑うことしかできない。しかしジュールは、魔法を発現させたルイを放っておこうとはせずに迫る。

「発現したからには制御しないと危険です。だが一度我が物にしたら力になる。自身の武器となるのです」

武器。

革の本にあったことを思う。ゲームの世界、あの本に書かれたことが数年後に現実になるのなら、自分はその矢面に立つ。

無力では、多分役に立たない。

「制御、できるようになるんでしょうか」

「できるじゃろ。殿下なら」

アルノーが口を挟む。

言われても自信はない。それでも。

「僕の知らない間に何か起きるのは、怖い」

「まあ、な。その年では確かに不安が大きいかもしれない」

「ジュール殿は、いくつくらいで魔法が発現したのですか」

ふと気になって尋ねた。他意はなかったが返ってきた答えに驚愕した。

「二歳だ」

「──」

絶句したルイに、ジュールが見当違いな補足を加える。

「恐らく、だが。自分は覚えていないが、もて余した親に魔道庁に放り込まれたのがその年だ」

「ああ、…そうなんですね」

「ジュールは生まれ持った魔力が大きすぎてのう。それに比べればルイ殿下は分別のつくお年であるし、さまざまな事象に理解力もある。制御は容易ではないかの」

アルノーの無理やりな慰めは、しかし謎の説得力があった。

それは、確かに。

とんでもない人と比較されているが、確かに二歳よりはいろいろ周りが見えているだろう。

二歳よりは。

そう考えると根拠のない安心感が生まれた。目を上げてジュールを見ると、力強く頷いてくれた。

「殿下なら大丈夫です。多分」

多分?

またもや首を傾げたくなったが、続くジュールの言葉にルイは心惹かれた。

「無意識の発動で光魔法が顕現したなら、治癒魔法が向いてるかもしれないな」


治癒魔法。


生活の便を良くする簡易魔法より、さらに役に立ちそうな響きに気持ちが高揚する。

「今後は、ルイ殿下の魔力の発露、扱いに関して私が指導いたします。よろしいか」

「ジュールはこの道の専門家じゃ。こやつに任せれば殿下の魔力開花は万全だの」

アルノーににこにこと言われて頷いた。

確かに、指南役としてこれ以上の師はいないだろう。

「よろしくお願いします」

「承りました。ただ、私に敬語はおやめください」

魔術全般の師として今後、私も礼儀に欠く指導をすると思いますので。


結構、厳しい先生になるのかな?


言われて、すぐには慣れないだろうが努力しようとルイは心に決めた。

「わかったよ、ジュール。これからよろしく頼む」


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