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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
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世継ぎの王子と謳われる第二王子は、厳格に形式を守ろうとする。王家や貴族の慣習に対しても保守的だ。

その彼が偽装してまでも王宮を脱け、ルイを伴って為さねばならない事。王都の外に求めねばならないものとはなんなのか。

考えてもわからない。

ただ、魔物の範疇でありながら特別な存在である魔鳥にルイが助力を頼んだのなら、一つの推測が成り立たないか。


と、そこまで考えて、マクシムはそれ以上突き詰めることを放棄した。不確かな要素で事を判断するのは良くない。それよりも、今はルイ達が無事の帰還をするのが第一だ。

「メラニー殿はルイ様達がどちらへ向かわれたか、心当たりはありますか」

「いいえ。ただ、王妃様の紋がついた小型の箱馬車が今朝早いうちに王都の門を出たと聞き及びました」

「それが」

マクシムは息を吸い込んだ。

王妃の私用を果たす為、本来は侍女等が使うであろう馬車。貴人の秘密に兵達の余計な詮索が及ばないよう個人の紋がつけられている。その紋がついている馬車は各地の衛兵の嫌疑も門番の検問も見逃される。

だがあの王妃は薄暗い悪意を人に向ける為に裏で画策している。その事実をマクシムは身をもって知っていた。その為に幾度も使われてきたであろう馬車に、ルイは乗ったのか。

思わず目つきが厳しくなった。

「マクシム殿」

メラニーが宥めるように呼んだ。

「複雑な気持ちになるのはわかります。ルイ様とてそれは同じ。でもフィリップ殿下と都の外に出るにはそれが最善の方法だったと思います」

優しい叱咤。我に返ってマクシムは少し感情的になった己を恥じた。今は、そこにこだわるべきではない。

「すみません。つまり、ルイ様達は馬車で移動、お戻りもその紋付きの馬車が確認できればわかるということですね」

「はい。王妃様の私用の馬車が明日のうちに王都の門を通過すれば、全ては秘密裏に終わります」

「わかりました。それで、いろいろ知ったからには俺も動きたいのですが。…シャルロット様の元に行くのは駄目ですよね」

「ええ。聖なる乙女が祈りを捧げる潔斎の儀式は警備も厳重ですとか。ルイ様とフィリップ殿下は護り番という特別なお役目で館に居ることを許されていますが、基本、儀典局の管理下にあって人払いされています」

「なる程」

「ルイ様の身代わりとしてシャルロット様、それからフィリップ殿下の目眩ましとして婚約者のミレーユ様が詰めておられますが、館の内でも聖なる乙女との接触は禁じられているそうです」

つまり、それが逆にルイとフィリップにとっては好都合なわけだ。

しかし、この分では祈りの館に行くのは止めた方が良さそうだ。

マクシムは考える。

館を訪ねて、親の立場やルイとの関係で忖度され、ならば中にいる王子殿下に聞いてまいります、などとなったら元もこもない。

判断材料が少なすぎる。もちろん、誰かの強い要請、あるいはシャルロットに危険が及ぶならば話は別だが。

とにかく、まずは見咎められない場所で現状を知る人に事情を聞くことにする。

「俺。明日の早朝から王都に繋がる街道を辿ってみます」

「都の門は幾つもありますよ」

「そうですが、メラニーさんはルイ様達の乗った馬車がどの道を行ったかも把握しているのではありませんか」

「──」

即座に否定されはしなかった。つまりはそれが答えだ。

「明日の学校はお休みされるおつもりですか」

「優先事項は決まってますので」

多分、メラニーは返る言葉を知っていた筈だ。溜め息を一つ溢して。

「仕方ありませんね」

そう続けた後、この優れた侍女は王妃の紋のついた箱馬車が通った門を教えてくれた。そこは都市へ繋がる広い街道ではなく、最終的にあまり聞かない山に行き着く利用者の少ない道に至るものだった。

馬車が用を為してこちらに戻ってくるのは恐らく明日。だから今から向かうのは得策ではない、と忠告してくれた。


──さらに。


メラニーはマクシムにこの後、少し時間を割けないか尋ねてきた。

今日は邸に戻って明日の準備をするくらいしかやることはない。即座にマクシムは頷いた。

この侍女殿は無駄なことはしないとわかっていたからだ。

果たして、メラニーが短い時を使って施したのは、マクシムにとって実に有用なものだった。

「これで、」

「はい。事は済みました。マクシム殿の良いようにお使いください」

「しばらくは?」

「三日、少なくとも一両日中ならば確実かと」

そんなに──。

目を見開いて、それから急いで頭を下げる。

「ありがとうございます」

翌日早朝の出立に備えて、マクシムは宮邸を辞した。



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