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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
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「もう一度聞く。この地で見つけるべきものは、これなんだな」

石を示して魔鳥に念を押す。

「フィリップ王子が手にしたものが()()なのよ」

「だが盾にはならない。現れないんだな」

サヨは答えない。

これ以上の答えは引き出せそうになかった。


結局、三つの宝の一つ、盾を獲ることはできなかったのだ。

サヨの指示通りに動いたというのに。

フィリップは為すべきことは余さずやり遂げた筈だ。

ルイ王子は聖剣を手に入れたのに、この差は何だというのだ。

もちろん、その経緯はフィリップの知るところではないし、己以上の困難を経て手にしたのかもしれないが。

自身の不甲斐なさを嫌悪する。

しかし、ここで立ち尽くしている暇もフィリップにはないのだ。

今一度、己が潜っていた木のウロを見て、未練を振り切ると二人に向き直った。

「仕方ない。ここでできることは終わったな。時間もないから、王宮に戻らなければ」

帰途を考えればそろそろ限界だった。潔斎の儀式が終わるより前に館に戻らねば全ては台無しになる。またサヨの力を借りて山越えをして、今夜中に馬車の待つ道まで戻るべきだった。

「いいのか」

ルイが気遣うように言う。

「できることはやった。結果が得られなかったのは仕方がない。ルイ王子にも世話になったな」

「いや、それはいいんだ、けど」

ちらりと魔鳥を窺う。

「ごめんな、サヨもはっきりしなくて」

「ルイ王子が謝ることじゃない」

「うん、でもさ」

「いいんだ。魔鳥も協力してくれた。手に入ったこれも、もしかしたら一晩経ったら盾になってるかもしれないしな」

「だといいな」

己の負け惜しみのような言葉に、ルイ王子は優しく頷いてくれた。



「ルイ、毛布」

「あ、ああ」

魔鳥に言われてルイ王子は、背中の荷から取り出した塊をフィリップに寄越した。山越えは、今度はフィリップが先になる。

行きにも利用したごわごわの毛布。それを広げて肩に巻きつける。


「ねえ」

風を受けて毛布をきつく抱き込んだフィリップに、上から声が降る。

「石、ちゃんと持ってるわよね」

「あれしか見つけられなかったからな」

「良かった」

魔のくせに、ほっとしたような声を出す。

「不確かなこと言いたくなかったからさっきはあんな言い方になったけど」

「なんだ」

「多分、それが盾よ」

「信じていいのか」

フィリップは可能な限り、首を動かして上を見る。角度のつかない目線には、真っ黒い羽毛しか見えない。

「信じるっていうか。盾なんだけど、盾そのものになるかは未知数。これでわかる?」

「なんとなく、は」

朧気に、魔鳥のいいたいことがわかった。「そう。それでいいから、大事にしてて」

石は盾であるが盾ではない。つまり、盾になり得る必要な何かが今は欠けているのだろう。

もしかしたら、それは聖なる乙女、コレット・モニエなのかもしれないが。


頂を越え元の山の入り口まで戻って、フィリップはサヨに降ろされた。外した毛布を趾で掴んで、魔鳥がすぐさま飛び立つ。

「ここで待っていて」

「ああ。わかってる」

黒い鳥は大きく羽ばたいて山に向かっていく。その姿が遠くなるのを見送って、フィリップは肩の力を抜いた。

まだ馬車が待つ道まで離れているが、山を越えたことで帰ってきたような安堵感があった。

不自然に片側だけが土砂崩れて削られた山。盛り上がった巨木の根元から伸びた根。土と茶色の根に囲まれた暗いトンネル。攻撃的な鳥の魔物の群れ。

それら全てから離れた平穏な世界に戻ってきたのだ。

そう考えると、脱力したフィリップの手足にどっと負荷がかかる。

自覚していたより身体は疲労していたのだろう。

ぐんにゃりと膝から崩れて地面に座り込んでしまう。地に足を投げ出して改めて己を見下ろせば、服も手足も土まみれだ。山肌の木の根を潜っていたのだから当然だが、今までは気づかなかった。

ぱたぱたとはたいてみたが、土はこびりついてしまったようでほとんど落ちない。恐らく顔や髪も土に汚れているのだろう。

諦めてそのままにして立ち上がろうとして。

フィリップは懐にしまい込んだ石くれの存在を思い出した。


巨木のウロを懸命に探って見つけたもの。土にまみれて魔物にまで襲われて、これしか掴めなかった。

己の不甲斐なさに唇が歪んだ。兄は聖剣を獲ているというのに、なんという違いか。

またもそんな想いに駆られてしまう。

手のひらにちょうど収まる石片。

石特有の硬さと冷たさが、今の情けない自分に似合いに思えた。

魔鳥はああ言ったが、表を見て裏に返して眺めてみても、この石が盾に繋がるとは信じ難かった。それ程に特別なところなど皆無の石なのだ。

結局、盾になる要因もわからず、一番の手掛かりは聖乙女であるという。しかも、それすらも確かではない。

だが全ては、ここまで大騒ぎをして兄王子や魔鳥まで巻き込みながらこんなものしか獲られなかった自分のせいだった。

ならば、この石はやはり自分に相応しいのだ。そう考えて、フィリップは兄が魔鳥と戻って来る前に、と石をそっと背中に負った袋の中に落とし込んだ。



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