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25 東の宮で
不意打ちのように訪れる衣擦れの音に、自然と背筋が伸びる。
眼前の教師も心持ち顎をあげて、指導する声が大きく高くなった。
「きちんとお勉強してますか」
課せられた学業の場に現れたのは、一分の隙もなく装った貴婦人。彼女はいつも気まぐれにやって来ては、息子が己の望むように学んでいるか、高い資質を得るための努力をしているかを探った。
わずかなりとも不足を感じれば、即座に教師を責め立てそのきつい声音が息子を追い詰める。
常に咎めるのは教師だ。それが重なれば慣れた顔はいつの間にかすげ替えられ、新しい教師が息子の前に立つ。それを子供がどう思うか、己が叱られずとも心が圧迫されて傷んでいくかを彼女は考えない。
うわべの優しさに隠れた強い圧。
それに気づいたのはいつだっただろうか。
慣れた苛立ちを圧し殺して、自然な声ではい、と答える。
幼い息子の素直な返事に、美しい母は満足げに笑った。




