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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
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243


ばさり、とルイとフィリップの前に魔鳥は舞い降りた。

「どうだった?」

「前に見たのと変わりない。だから多分、アタリだと思う」

「じゃあ早く行こう」

「んー、それがね」

「おい。ヒトガタに戻らないのか」

大きな黒い鳥とルイは自然に話していたが、フィリップは気になったらしい。

「それよ」

サヨは丸い頭を振って嘴をフィリップに向けた。

「山を越えるにはこっちの方が良いかなって」

「どういうことだ」

うん、とサヨは鳥らしくない仕草で首を傾げ、それから言った。

「目的の場所まで空から見たけど、足で登って山中から辿り着くのはかなり難しいと思う。魔物のせいで人が寄りつかないから、元々あった山道も消えてるようだし」

「探りながら行けばわかるんじゃないか」

前世の登山を想像してルイは口を挟んだ。だがサヨは頭を振った。

「やればできるわよ。でも下草が茂っててかなり危ういし、時間がかかる。歩きで登るなら、二日で戻るのは絶対無理」

「つまり別の手段で行け、と?」

フィリップの問いにサヨは頷いて両手──翼を広げた。

「そう。空から、つまり私が二人を山頂まで連れていく」

「なんだと」

「二人一度には無理だから、一人ずつ。先に行った方はそこで待っててもらうことになるけど」

「お前に運んでもらうのか」

フィリップが嫌そうに眉をしかめる。

「足で掴んで、ね。悪いけど我慢して。これでもいろいろ考えた最善なんだから」

「それが最善なのか。想像するに、かなり無様だがな」

「餌みたいなのは駄目?まあヒトガタでも運べるけど、私が抱きしめる感じになるわよ。そっちの方が王子様は嫌かなって」

「──。当たり前だ」

サヨのからかう口調にフィリップは完全に渋面になってしまう。ルイはまた二人が言い合いになるのではとハラハラした。サヨの言い方は、必要以上に相手を煽るので事がややこしくなる。

なので、敢えて二人の間に割り込んだ。

「ええと。フィリップはどっちにする?ヒトガタにしても良いと思うよ」

「いや、鉤爪で運ぶ方がいい」

「でも。本当はヒトガタの方が楽なんだよ」

「は?魔鳥のヒトガタに運ばれたことがあるのか」

「うん、鳥の時より多い」

「…ルイ王子は本当に順応してるな」

「っていうか、鳥の時よりリスクが少ないんだよ」

胡乱な目つきでこちらを見るフィリップを納得させようと、ルイは背中の荷を下ろして中の毛布を引っ張り出した。

「何だそれ。寝る準備か」

「違うよ。こうして、」

毛布を広げて自分の肩に巻きつける。

「サヨの爪ががっつり肩に食い込んでもこうしていれば平気だ。サヨ、鳥の時は力加減が難しいんだ。落とさないようにってしっかり掴むからさ。ちょっとした弾みで力が入ったら、簡単に人の肌なんて引き裂いちゃうんだ。そうならないようにこっちも予防する」

だからわざとごわついたものを選んだ。

「ヒトガタだとそんな心配はないんだけど。フィリップは、どうする?」

と、今度はサヨが頭を突っ込んできた。

「待って。白昼にヒトガタで王子を運んでるのを人に見られたら言い訳きかない。このままの方がいいわ」

第二王子はまじまじとルイを眺め、隣に立つ黒い鳥を見て大きく溜め息を吐いた。毛布を指差す。

「…それを貸してくれ」



この後の方針──サヨによる空からの山越え──が決まったので、ここで三人は遅い昼にした。

山を前にして、枯れかけた下草が残るところを選んでルイとフィリップはそれぞれ腰を下ろす。

サヨに運んでもらった先では魔物が出てくる可能性が高い。そんな場所では食事どころではないし、なるべく早く盾を見つけて去ることが優先になるだろう。しかしそうなると、下手をしたらここへ再び戻るまで空腹のまま過ごすことになる。

悠長に見えるが、今ここで腹を満たすのが理にかなう。先を急ぐフィリップもこれには納得したのだ。


食事といっても、丸いパンと小さなりんご、それにチーズだけ。

祈りの館を抜け出す際、隠蔽工作の協力者であるミレーユがそっと持たせてくれたもので、サヨの分もあった。

ルイはパンとチーズを交互にかじる。その合間に、傍らの魔鳥が食べやすいようパンをちぎって手巾の上に置いた。サヨは頭を屈め、器用に嘴で啄んでいく。

それを、フィリップはりんごを持ったまま見つめていた。

「どうした?」

「いや。魔鳥も人と同じものを食べるんだな」

ルイが問うとそんな答えが返ってきた。

チーズを平らげ、りんごをつつこうとしていたサヨが頭を上げた。

「あのね。出されたものは普通に食べるわよ。フィリップ王子の期待に添えなくて悪いけど」

「いや、すまない。また不用意なことを言った」

「…よく謝るのも王子様の癖?」

「いや、いや。──そもそも、こんな風に人と近しく話したことがあまりない」

「?」

「何よ、それ」

「言葉の通りだ。環境のせいか、同年代の者と社交辞令が絡まない会話をした経験が少ないんだ」

校内ではいつも人に取り囲まれていた。恐らく彼を支持する貴族のうちの選ばれた子息達。彼らとは親しく言葉を交わす間柄ではないのか。

ルイは第二王子の置かれた特殊な立場を知った。自分とは別の意味で、人との関わりが薄い。

「ええと、婚約者がいるだろう?」

いつも側にいる侯爵令嬢。

「家格で決めた相手だ。幼い頃から会ってはいたが、会話もほとんどなかった」

──つい最近まで。

小さく呟いた続きはフィリップの口の中に消えてしまう。

「だからだろうか。お前達と話していると距離感や話の選択を違えてしまう。それはつまり失言、なのだろう。だから立場上、本来は謝罪はするべきではないのだが、どうにも謝るしかないような心地に陥るんだ」

だからだ、とフィリップは言う。サヨに揶揄された謝り癖はそのせいだと。

冷たく気難しいと言われる第二王子。しかし実状は、人との関わりが少ないが故に、平凡な会話にさえ戸惑い迷う少年なのかもしれない。そして己が間違ったと気づけば率直に過ちを認める真っ直ぐな。


「まあ、いいんじゃないの」

サヨがぽつんと言う。

「ルイと私もかなり特殊だし。こっちも王子様に無礼な口を利いてるんだもの。フィリップ王子も構わず好きに言い返したら?」

「なんだそれは」

「だって。どうせここには他の人はいないし、馬鹿なことを言っても聞いてるのは私達だけ。王子様は自由にしてても誰も気にしないわ」



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