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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
250/276

234 ゲームの行方 2


さて、再開した学校に通うことも許されず、誰もいない寮で儀式までの日を過ごすコレットには、考える時間だけは無限にあった。


聖なる乙女については、潔斎の儀式をちゃんとやりこなせるかという不安はあるが、まあ心配はしていない。ゲームでは一行だけで済まされたイベントで指示に従えば問題ない筈だ。

となると、コレットの思考は自然、先日の事件に行き着いてしまう。

新年を祝う全校生徒の攢った華やかなパーティー。そこに突如現れた魔物は、かなり強い種だったと思う。ゲームでも中盤以降に出てくるようなレベルだ。

この世界の基本ベースは魔法と魔物が出てくるゲームだが、魔道庁と騎士団本営がしっかりと護りを固めているので、王居はもちろん、王都ですら魔物はほぼ現れないのだ。コレットは王都育ちだが、魔法や魔力の話題は家族や町の人々の口に普通に上がるが、魔物については現実に見た、とか都で出たという話は聞いたことがなかった。それ程、ナーラ国の都、サギは魔物とは無縁の安全な地であった。

だから学校の鐘楼が崩れてから地方で魔物の出現が聞かれるようになって。普通はヒロインと攻略対象者が共に宝を探しにいくイベントで攻撃的な魔物、宝を守護する魔と対峙するのだ。

今のヒロインと各攻略対象者との距離で、いきなりあのレベルの魔物が現れるなんて。

時間の経過としては有りだが、ゲームの進行状況からすると無し、である。

だからホールに現れた魔物には驚いた。あんな、中級程度の群れなす魔蝙蝠や背中に針山を持つ大型獣の強い魔が、王宮に程近い、護りのある王立学校に入り込むとは。


驚き、魔物に対して身一つで立ちはだかったシャルロットに恐怖した。

校内では武器の持ち込みは禁止、守衛の兵しか剣を持っていない、しかも、魔物には効力のないただの鉄剣だ。

いずれにしろあの場で、寸鉄一つ帯びない王女は魔に対抗できる筈もなかった。

そうして、彼女に魔蝙蝠の群れが襲いかかった時。

コレットは夢中で飛び出していた。

そして一息に群れを殲滅して。

必死になったコレットの目に映ったのは、シャルロットを物理的に庇うマクシムと、二人を防御魔法で守ったルイ王子だった。

わずかに出遅れたせいで、シャル様を直接守った栄誉は奪われた。

何それ。

その理不尽さに歯噛みするコレットは、この世界のヒロイン、無私の聖なる乙女としての本分を見失っていた。ただひたすら魔物出現の不可解さに惑い、己の力で何とかせねばと気負っていたのだ。


しかしルイが聖剣を顕現させたことで、コレットはこの異常事態の理由を悟った。

ヒロインと攻略対象者の進展は一切無しだが、ゲームの重要アイテム、三つの宝が世に顕れ出でているなら、それはつまりゲームがかなり進んでいるということとイコールではないか。

宝を手に入れる際に魔物と接触したならば、時が進んだ今は、さらに難易度の高い魔物が初手から出るのは当たり前になる。

そもそも、昨年のうちにあの魔鳥も言っていたではないか。宝玉は既に手にしている、と。

ならば攻略対象者との新密度とは無関係に物語は中盤に差し掛かっているのだ。


だけどまさか、聖剣までも手にしていたなんて。


コレットは、あの時まで全く気づかなかった。ルイ王子は常に第二宝剣を下げていたというのに。その柄に『ゲームにはない』玉がくっついていることを見逃していた。

そう。

ゲーム内で聖剣を得るのは第一王子か騎士見習いだが、特に長剣だからともて余した形跡はない。確かに力を発現させていない状態では重さが増すが、それでも普通に扱っていた。


だがこの世界ではきっと前提が違うのだ。

ゲーム開始より前、今より幼い年頃のルイ王子が聖剣を得た。そして、その場に稀代の魔道師ジュールが居合わせた。

成長期前の体に見合わない大剣と、伝説の宝を自在に変化させて誰にもわからぬよう目眩ましの魔法をかけられる魔法使いと。

二つが揃ったが故に第二宝剣の飾り石として聖剣は模された。

目眩ましをかけたのがジュールでなければ。

コレットだって、早い段階でルイの宝剣の違和感に気づけた筈なのだ。

だが聖剣の存在が皆に知られた今となってはどうでも良い話である。


問題はキーアイテムである宝が既にこの世界に有ることだった。既に三つの宝のうち二つまでもが、ヒロインとは無関係に出現している。

もっと言えばルイ王子の元に、だ。

ゲームのシナリオをぶった切ったとんでもない展開である。自重して欲しかった。

せめて、残りの一つくらいはコレットが見つけたい。少なくともゲームのように見つける際の鍵ポジションにいなくては、聖なる乙女としての沽券に関わる。


コレットは歯噛みする。

残りの宝は盾。これを手にする対象者はマクシムとフィリップのいずれか。

日常的な接点から見ればマクシムとイベントをこなして盾を得るのが最短と考えられる。いずれの攻略対象者も疎遠ではあるが、リアルに口を利いたことがあるのはマクシムなのだ。

だが、コレットは絶対嫌だった。あれと一緒にゲームルートを進むのも、マクシムが宝の保有者になるのも、嫌。

何より、それではマクシムがこの世界線のコレットにとって最も近しい攻略者になるではないか。そうなったらとんでもないことである。

かといって現時点でフィリップとイベントだの何だのと、考えることすら難しい。

まずフィリップ王子と直に接触したことがほとんどない。存在を認識されているかさえ不明だ。

一応、聖なる乙女と公認されたから、名前は知っているだろう。多分、きっと。

幼い頃から帝王学を詰め込まれ、政治に深い知識と関心を示す第二王子。

性別やら役割やらが狂った転生者のお陰で、めちゃくちゃに破壊されたシナリオの中で、本来のゲーム設定に織り込まれた特徴そのままに見える彼は、国の行く末に関わる問題は把握済みだろう。

とは言え、個人的な付き合いが皆無で、どうして第二王子と一緒に盾を探すシナリオに乗れるというのか。

警護の者を無視して声かけして、強引に冒険に誘えとでも?

コレットは首を振った。

画面上のゲームなら唐突な出会いだろうと上手くいく。だがここは現実世界、シナリオと同じではない。

切っ掛けさえ掴めない現状、盾を見つけるルートは前途多難だ。

そもそもこの二人のルートは一回クリアしたのみで、コンプリートの義務感と特典の為だけにプレイしたので思い入れもなく記憶が薄い。


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