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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
244/276

228


儀典局から解放されたコレットは、魔道庁に戻った。昨夜泊まった部屋で時を過ごそうとして、付添いの魔道士を振り返った。

「潔斎の儀式がいつか、知ってますか」

不意打ちの問いに若い魔道士は瞬いて、それから居ずまいを正した。

「はい、予定では──になります」

示された日程にコレットは驚いた。潔斎の儀式の開始は十日後だった。

「そんなに先なんですか」

「はい、いろいろと準備も必要ですので」

コレットの能力が認定されたことの周知と、儀式を行う祈りの館を聖域にする為の動員と。長らく不在であった伝説の存在に、古い資料を当たって威容を整える必要もあるらしい。その為に宮廷庁と儀典局が日数の猶予を願ったという。

「……」

コレットは唇を引き結んだ。

「一度、寮に戻っても良いでしょうか」

「現在、学校は事件の後処理で閉鎖されています。寮に残っている生徒はいません」

「でも。調べられているのは校舎で、寮はそのままですよね」

コレットが食い下がると、魔道士は困ったように言った。

「そうですが、コレット様が戻られるとなると警備の問題もありますし、なかなか難しい」

「警備を増やす必要はないです。私自身、身を守ることはできます」

「そうまでして帰りたいのですか。ここの居心地にご不満なら、お望みのように変えさせますが」

「そうではなくて。いろいろやりたいこともあるので」

「必要な物は用意させます」

「いえ、大丈夫。あの、こちらに潔斎の日には戻りますから。寮に帰して欲しいのです」

とにかく、人の目がない気楽な自分の部屋に戻りたかった。




結局、王宮の再三の引き留めを振り切って、コレットは寮に戻った。

学校は相変わらず立ち入り禁止で、寮の建物の周辺には歩哨にしても多すぎる程の警備兵が等間隔で立っている。

しかも王宮で言われたように、寮にはコレット以外の人の気配はなく、滞在しているのは強引に戻った聖乙女だけだった。

「早まった…?」

がらんとした寮の部屋で一人呟く。

たった一人の為に食事等準備してくれる管理人に申し訳ない。だが話し相手のいない寮であっても、常に誰かの目のある王宮でもてなされるよりはるかに気楽だった。

年明けから続いた怒涛の数日間からようやく解放されたのだ。心の中で寮母に頭を下げつつ、コレットは私室のベッドに転がった。



───────────────────────



それから数日が経過して、王立学校は再開された。事件から十日後のことである。

だが聖なる乙女として潔斎の儀式が控えているコレットは登校しなかった。

王宮の審議を終えて一人、学生寮にこもっているという。

新年パーティーで突如、凄まじい魔力を披露して聖なる乙女と噂された特待生の女子生徒。

学校が閉鎖されて真相を知ることもできず、生徒達の関心は高まる一方だった。だが肝心の当人の不在に、皆、拍子抜けしたのだ。

特に親しくしていたサラ、アニー、ポリーヌの三人はがっかりしたが、全て王宮の意向とあっては諦めるしかなかった。


ざわつく教室でぽつりと溢す。

「何だか、急に遠い人になったみたいだわ」

サラの嘆息に二人も頷いた。

「そうね。次に会った時には聖乙女様か」

「もう、気軽に口を利いてもらえないかも」

ただ次いでアニーが口にしたのは少し別の見方だった。

「でも。コレットさんが聖なる乙女で良かったじゃない?」

「どうして?」

「なんでよ」

「だって。コレットさんならきっと偉大な力を皆の為、ナーラ国の為に使うわ」

「そうね。この間だって一人で魔物に向かったもの」

「素晴らしかったわ。私なんて怖くて壁際に張りつくだけだったのに」

「そうよ。私あの時、ドレスに躓いて転んでしまったの。膝をひどく打ったのだけれど、コレットさんが放った術、あの最後の光で痛みが消えたの。邸に戻ってからそっと確認したら打ち身もなかったわ」

「まあ!皆様が言ってたのって本当だったのね」

思わず、サラは声をあげた。

「え。何なの」

「なあに?」

「あの事件、最後にあの、…死んだあの人を」

サラはちょっと口ごもった。あの時のアレは今思い出しても恐ろしい。人が…ところなど初めて眼にしたのだから。

ちらりと見ると、二人も落ちつかなげに目を逸らせた。

サラは急いで続けた。

「──する為に、コレットさんが力を放ったでしょ。それでホールにいた全員、アニーみたいに転んだりぶつけたりとか、魔物に切られたりした怪我や痛みが全て治ったのですって」

「え、すごい!」

「あそこにいた皆?」

「ええ。もちろん怪我した人だけだけど。でもかなりの人数を一度に治癒させてしまったって」

「──はあ」

ポリーヌが溜め息を吐いた。

「どうしたの?」

「本当に、聖なる乙女なのね、って思ったのよ」

「そうね」

「そんな偉い立場になって、コレットさん、学校、戻れるのかしら」

「わからない。でも戻ってきて欲しいわ」

三人で顔を見合わせる。それ以上は言葉はなかった。互いの顔を見れば、思いは同じとわかったのだ。




このようなわけで、再開した学校で聖なる乙女の噂を本人に確かめようと意気軒高で登校した生徒達は、肩透かしを食らった。

休みの期間、貴族の子女である皆はそれぞれ、家ではあまりその件に関しては触れないよう言い含められていた。

王家が襲われるという一大事と国の行く末に関わる聖なる乙女の出現、それから聖剣を第一王子が獲ていたなどという、無闇に騒いでは障りのある話題。政治的にも上の人々の意向が強くはたらくそれを、徒に口にして災いとなってはまずいからだ。

親に好奇心を抑えつけられていた彼らは、休み明けに当事者たるコレットを質問責めにしようと待ち構えていたのだ。しかし本人が不在ではどうすることもできず、鬱憤は宙に浮いた。

落胆した空気がクラスを満たす中、時間の経過と共に上の学年や隣のクラスの話が回ってきて、残りの主役である王子王女は普通に登校していると判明した。

だがさすがに彼らに突撃する蛮勇の持ち主はなく、結局、皆友人同士集まってああでもないこうでもない、と噂するしかなかった。



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