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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
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219


「サヨ」

ルイが私室に戻ると、いつものソファで寛いでいる魔鳥が顔をあげた。

「ルイ。話は聞けた?」

「うん、ブリュノから王宮の話も伝わってて、そっちの動きがある程度知れたかな」

「そう」

お決まりの卓を挟んだ向かいに座って話を突き合わせる。

「まず、マクシムはパーティーに遅れてきたんだけど、それは邸を出る直前、王都のすぐ外に魔物が出没したと連絡が入ったからだった」

「防御壁の外側か。そこはチェックしてなかったわ」

王都を外敵から守る壁。堅牢な造りのそれはナーラ国の首都をぐるりと囲んでいる。物理的に強固な壁は、さらに衛兵の巡回と魔道庁による術の膜で覆われていて、人も魔物も容易には近づけない。故に普通なら魔が出現する筈もなく。サヨの監視の網から外れていた。


「そんなところにわざわざ魔物が出るっていうのがそもそも不自然よね」

「そうなのか」

「だってすぐに派遣された魔道士と騎士が掃討できるじゃない。だから、陽動とかね」

「ブリュノもそう考えたらしくて、マクシムに俺達を守るよう言いつけたって」

もちろん、騎士団と魔道士が連携してそちらの魔は掃討した。

「多分、当たってるでしょ。同日に学校に魔物が引き込まれたんだから」

「偶然じゃない?」

「偶然と思う方が不自然よ」

そうか。

だがそうなると、

「王都の外の陽動もホールに現れた奴と通じてるってことか」

「そう。だから今回の襲撃を実行したのは、やっぱり、かなり大きな組織なんじゃないの」

「うん。俺もそう思う。学校の内情にも詳しいし、もしかしたら校内にも繋がってる人間がいるのかも」

「フィリップ狙ったんでしょ。彼の権威で強行した新年パーティーなら絶対その場に居合わせる。そういう事情もわかってて決行したってこと」

サヨは的確に要所を突いていく。

確かに、しっかりと仕組まれて狙いを絞ってきたと言っていい。

「完全に人為的。フィリップを狙うってことは、この国を潰したいのかしら。跡継ぎ襲うって、そういうことよね」

「うん。元々のゲームではどうだったんだ?」

「革の本には載ってなかったの?」

「んー。敵を倒す、って感じで漠然としてたんだよな。だって魔法のことも魔物のことも書いてなかったんだぞ。ヒロインが聖なる力を持つ、っていうのと攻略対象者が三つの宝を獲って、それで悪を滅ぼすって、それだけ。どういう勢力がなんで国を襲うのか理由づけも言及なかったよ」

「そうなんだ。案外役立たずね、神様の本」

「そういうこと言うなよ。っていうか、サヨはどう思うんだ。ゲームではどういう扱いなわけ?」

辛辣な評価を受けて、ルイは逆に問い返した。サヨは困ったように眉を下げた。

「あー。何て言うか。漠然としてるのよ、ゲームでも」

「敵の目的もわからないのか?」

「純粋な悪、みたいな単純化された敵なのよ」

「なんだよ、それ」

「だから。何度も言うけど乙女ゲームなわけ。敵勢力の主張とか理由付けとかあんまり重要視されてないの。ゲームの売り、肝はヒロインと攻略対象者の関係の構築なんだから」

「…意味あるのか、そんなの」

「女子は楽しいの!恋愛がメインで、それによって世界の命運が左右される万能感?疲れた精神に響くのよ」

「そうですか」


ガバガバ過ぎる。何なのだこれは。

しかしこの世界がゲームの価値観で動いているとしても、画面上やプレイヤーには見えていない関係性はある筈で。

「ヒロインが国を救うってことは、敵はこの国を滅ぼすのが目的だよな」

「そう、なるわね」

「国王が倒れているタイミングで跡継ぎを狙うってことは、国ってよりアストゥロ王家に敵意を持っている?か」

「そうか。ゲームでは攻略対象者のメインが王子達だし、その辺りが話の中心になるのは当然と思ってたけど。よくよく考えてみると、ルイの言う可能性はある、かも」

「敵は人間で魔法の能力が高い。組織的でかなりの人数が国中にいて、王都や王居、さらには王宮にも入り込んでいる。魔物を使って王家に危害を加えようとしている」

「うんうん」

「王位に関わる者を狙うのは、王家そのものに害意があるか、ナーラ国を傾けたいのか、そこはまだ未確定」

「そうね。ルイの見立て、悪くない。こうやって考えていけば、ゲームの裏設定も見えてくるかもね」

シナリオには出てこない、世界。

ゲームでは表に見えている部分だけで話は進むが、現実はそうはいかない。それぞれの境遇、感情、行動で動きは変わる。ずれた世界で織り成す人間関係で結果は全く別物になり得る。

敵でさえも。


「ひとまず敵については進展があったらまた考えることにして」

「うん、今度、アルノーとロランにも相談するよ。捜査の結果が聞けるかもしれないし」

「よろしく。あとは、コレットね」

「──うん」

王立学校に入学して数ヶ月。

聖なる乙女、この世界のキーパーソンが表に現れたわけだ。王宮が認知したならば、彼女は公的な存在になる。

だがサヨはコレットの力の解放は意図したものではないと主張した。

「ヒロイン様は聖なる乙女であるという自覚はあるけど、今回の件で皆に知らしめてしまった、という意識はないんじゃないかな」

「え。だってとんでもなく広範囲に強い力が作用したぞ」

「うん、でも多分それ、無自覚。だからホールのほぼ全生徒が治癒魔法の恩恵を受けたんでしょ。聞く限り、それって自殺した男を隠す目眩ましの術を放とうとしてそうなったわけじゃない」

治癒魔法が溢れちゃったのって、彼女的にはミスだと思うけど?

「ミス、であんな強く術が効くのか」

あの時見た全能感すらある魔法が、当の本人には意図しないものだなんて。

「だから異常値なんだけどね」

この世界のヒロイン、聖なる乙女の能力の高さを思い知る。

「ま、だからマクシムが言ったように、王宮、政庁が真っ先に重要性を感じて確保しようとするのは正しいんじゃないの」

「それで彼女はいいのかな」

「んー、良いも悪いもないわよ。いずれバレるんだし。ついでに言うなら、むしろこのタイミング、ルイが聖剣持ってるって知られたのと一緒だったのはラッキーだわよ」

「やっぱり、聖剣はまずかったか」

あの時、切羽詰まった勢いのまま、剣で手のひらを切って血を滴らせた。そうして聖剣を出現させたが、結果、宝の存在を知らしめてしまった。このことがルイ達の身に影響を及ぼすのか、現時点ではその是非はわからない。

「魔物を倒すには必要だったんだから良いのよ。使ってこその剣でしょ。でも聖剣『だけ』だったら今頃もっと大騒ぎになってたわ。その点、聖なる乙女が登場したせいで、王宮の関心がそっちに向かったわけで。幸運だったわ」

サヨの言葉は露骨だが、事実だ。


「これから、コレットはどうなるんだ?」

「王宮に連れていかれたなら、まずそこで本物か確認される」

魔道庁と政庁の有識者の審議を受けて、認定されるのだ。魔力の多寡や力の種類等、聖乙女に相応しい方向性を持つか、また出自、背後におかしな勢力はないか、人為的に作られた能力でないか、等々、念入りに調べられるという。

コレットの見せた魔力は強力だったが、例えば、地力のある魔道師が幾人も術を併せて編み出せば放てるかもしれないのだ。あくまで可能性の問題だが、故に審議は慎重に行われる。

ただ、サヨもルイもコレットが聖なる乙女と確信しているから、この時点で彼女の認定は決定だ。

そして認定後、王宮の一画、忘れられたようにぽつんとある祈りの館で潔斎の儀式に入る。

「王宮は、認定前にコレットの意思確認をするわ」

「意思確認」

「聖なる乙女として、ナーラ国の為にその力を行使し、身を捧げるか、ね」

「え、それって必要か?」

「認定したのにこの国の為に働いてくれない方が問題でしょ。『聖なる乙女』っていう他国にも轟く伝説の存在の肩書きを負ってよ、それで他所の国とか、それこそ今の敵側に回られたらたまったもんじゃないわ」

「あー。うん、そうかも」

「ま、コレット自身は、ゲームのエンドマークまできちんとやり遂げるって言ってたし、その心配はないんだけど」

「うん、」

「国に奉仕しない聖乙女はどうなると思う?」

ルイはぎょっとした。

考えたこともない。

「どうなるんだ」

「頼もしい味方が一転して最大の邪魔者になるわけよ。魔道庁の精鋭が総出で魔力封じを試みる。難しいけどね。加えて、祈りの館に幽閉」

「うわ…」

「祈りの館はこの場合、優雅な牢獄になる。長年、使われることがないまま放置されていた館は、絶えず魔力をかけられ続けてたらしいの」

「魔道庁の歴代の魔道士が術を重ねてきた呪の檻は、聖なる力に対抗できるってわけか。──いろいろあれだな」

王国の薄暗い部分が垣間見えて、石を飲んだ気持ちになる。だがサヨは平然としたものだ。

「ちなみにこれって裏設定。プレイヤーがネタとして意思確認で拒否ったら、そういう暗黒なルートが発見されたのよ」

「ああそう。プレイヤーはヒロインだったな」

あまり知りたくなかった。

聖なる乙女としてゲームをやってきて、国難に立ち向かうことを敢えて拒むプレイヤーも、その場合のえぐい対応がわざわざゲーム内に組み込まれているのも、どうかと思う。

まあ、この世界のヒロインは使命感を持っているから関係ない。

頭をぶん、と振ってルイは切り替えた。

「潔斎の儀式が終わったら、コレットは王宮の人間になるのか」

「ううん、引き留められるけれど、学校の寮に戻るのよ。ゲームでは、だけど」

「許可されるんだ」

「王宮側は難色を示すけれど、ヒロインが押し切るの。実質的に、聖なる乙女の方が立場が強いから」

学校の寮に帰って、普通に特待生としての日々が再び始まるのだ。寮の周囲に警護の兵が増やされるが、ヒロイン自身が強力な魔法使いなこともあって、安全は保障されていた。

そして、ゲームは次の段階に進んでいく。

『敵』は見えないまま。


「ヒロインは表舞台に出たわ。あと、聖剣もね」

言われて己の課題を思い出す。

宝のうちの一つを手にしていると皆に知られたのだ。今後、この件について質されると覚悟しておかなければ。ある程度、答えも事前に考えて不意の問いに動じないように。

聖剣取得に関わった全ての人と口裏も合わせなければならないだろう。

「早いうちに、聖剣のこともジュール達に相談しなきゃならないな」

やらなければならないこと、考えなければならないことはたくさんあった。


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