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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
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216


「年明けの騒ぎ」

「うん──サヨもやっぱり知ってるのか」

「当たり前でしょ」


いやいやいや。

王立学校の新年パーティーで起きた事件は、学校関係者と王宮の上層部、魔道庁と騎士団の担当者、そして生徒達の家族──つまりは貴族──の範囲で情報は止められている。恐らく王都の人々には一切知られていないのだ。ホールで自死した男に仲間がいたとしてそんな得体の知れぬ者か、もしくは王居の内部に伝を持たぬ限り知り得ない話だ。

「あれだけ魔道士や衛兵、騎士団がぴりぴりしてたら異常よ。それと」

ちら、とサヨはシャルロットを見た。

「コレットが力使ったでしょ?あれ、離れた場所でも感じた。大きな力よ」

「ああ。そう、コレットさんが魔力放ったら、一斉に蝙蝠が消えたり、最後にはなんか光のベールみたいなのがホール全体に広がったり、すごかったんだよね」

シャルロットがあの時の光景を思い出してか、興奮した口調で語る。『あの力』の本当の意味は、わかっていない。

「あと、ルイ。聖剣発現させたでしょ。あれの存在感って恐ろしく強いから。ちょっとした魔物なら、遠くからでも脅威をびりびり感じるのよ」

「そうなのか」

──それはつまり、いろいろな意味でバレバレになったのではなかろうか。

あの時はそれしか採れる手段がなかったのだが、今後に陰を落としたりしなければいいが。

「そう」


「で。さっきの話は?あの鳥の格好は何」

シャルロットがまたもや口を挟む。

「はいはい、お姫様。あのね、魔物も驚いただろうけれど、王宮も大騒ぎになったでしょ」

「うん。フィリップが狙われたしね」

「そうなんだ。いろんな魔物が現れたけど、皆狙いは同じで」

「大事な王子が襲撃されたなんて大問題よね。それにルイは聖剣出すし」

──聖なる乙女まで出てくるし。

サヨが飲み込んだ続きが、ルイの頭に聞こえた気がした。

「お陰で王都もだけど、王居の守りがとても厳重になってる。防御壁は今までより術の重ねが増えてて何重?ってくらいだし、守衛の兵もそこら中に立ってるわ」

「へえ。全然知らなかった」

シャルロットは外の出来事にあまり関心がないのか、他人事のように言う。だが強い警戒は、つまりはサヨのような異分子にとって大いなるハードルになるわけで。

「この辺りにも魔道士や騎士がうようよしてるの。魔物が万一入り込んでいないか、不審者がいないかって目を光らせている。この宮邸なんか特にね。とてもじゃないけど、前みたいに夜に紛れて訪ねたり、誰かに見られてたかもしれない姿でルイのところへ行くわけにはいかない。だから今までの夜鷹とか鳩とは別の、適当に地味な鳥になってみたわけ」

食用になるものも狩猟の的として狙われそうなものも避けたという。

「それで鳶か」

「そ。普通にこの辺りで飛んでそうでしょ。でも宮目指して飛んでたら、目視で監視してる騎士と目が合って。まずいと思ったら射られてた」

それでよろよろ墜落するように宮の庭に降下した、というのが真相だ。見つけた使用人が騒いでいるのをアンヌが見咎めて、機転を利かせたのだ。

「アンヌ。よくわかったな」

「この宮に落ちてくる鳥など、ルイ様の悪巧みのお仲間しかおりませんから」

「──よく、わかってるな」

ソファの後ろに立つアンヌは表情を変えずに応じた。敵わない。

「では、私はこれで。何かございましたらお呼びください」



アンヌが去って。

頭を突き合わせるくらいの気持ちで話をする。

ここはルイの部屋ではないから、ジュールの術は作動しない。それでも何となく慣れた距離を取る。机を間に挟んだちょうど良い間隔。


「それで、魔物が学校に現れた話ってのは」

「うん」

「そいつらが、どこからどうやって現れた、とかはサヨは知ってたりする?」

「しばらくここにも学校にも来てなかったでしょ。その間、言ってた通りに常世の森と地下坑の跡を見回ったり、少し足を伸ばして王都からすぐの出没する噂がある村を探索したりしてたわけ」

「それで」

「常世の森は護りは万全。ジュールの術の上にさらに強い防御魔法がかけられた形跡があったもの。王居の境目、例の地下につながる狭間もそう。魔道庁の術が編み目みたいに厳重にかかってた。村の方は、騎士と魔道士が排除した後だったわ」

「じゃあ、サヨの確かめた場所から魔物が現れたってのは無しか」

「多分ね。村はわからないけれど森と地下からは無いと思う」


「サヨに聞きたいんだけど。魔物がこの国の権力構造を理解するってあり得るのか?」

「無いでしょ」

ルイは勢い込んで訊ねたのだが、サヨはあっさり言い放った。

「──。じゃあ、どうして魔物はフィリップを狙ったんだ」

「普通に考えれば。誰かが魔物を誘導したんでしょ。強制的にか知らないうちに追い込まれたかわからないけれど」

「それが誰か、なんていうのは知らないよな」

「まあね。ただ、聖剣が顕れる前に、強い魔力の磁場が起こったの。関係ない私でさえ引き寄せられるようなきついものよ」

「離れた関係ない魔物も呼ばれるようなのか?」

「んー。どうだろ。この辺りで魔道庁の牽制にかからない魔物はいないし、感知できる能力を持つ強い魔もいそうにない。だから」

「えー!つまり、学校に現れた魔物は誰か悪いヤツが呼び込んだってこと?」

ルイとサヨのやり取りを見守っていたシャルロットが声をあげる。

「シャル、静かに」

「だから。そういうのも計算に入れた誰かが、目星をつけた魔物の巣を、術でもって学校のホール、目当てのフィリップがいる場所と繋いで引き寄せたってことかな」

「そんなこと、できるのか」

「空間を繋ぐ術使いと、魔物を一時的にでも操る、誘導できるだけでもいい。そういう術に長けた者。それから、学校の内部に詳しい者と手引きする者。全部ができる人間はいなくても、それぞれの役割を担う人を集められたら、できるかも」

「それって…かなりの人数だし、学校の中にも入り込んでるってことじゃないか」

「あれ!ホールの隅っこにいたアイツ。いたでしょ。あれってその悪い一味だよね」

「そんなヤツがいたんだ。ルイも見たの?」

「うん、聖剣が魔物を倒した後、空気を払ったみたいで。それまでは見えてなかったんだけど、明らかに部外者、学校の職員でもない男が現れたんだ」

「そいつが、この騒ぎの実行者か」

「と、思うけど」

「なに、」

ルイの曖昧な言い方にサヨが眉をあげる。

「マクシムに質されて。自分で口を封じた」

「あー。でもそれだと確実にクロよね」

サヨも見方は同じだ。

何もない人間が、わざわざ自分から死にはしない。捕えられて己の口から情報が漏れるのを嫌ったのだ。筋金入りだ。上の指示が末端まで徹底されて、己の命さえ平気で差し出す。目的の為、強い結束力を持つのだとすれば、王宮として侮れない者達だ。

「うん。ちょっとアレだったんでコレットが目隠ししたんだけど、魔道庁とかが引き取って調べてるんじゃないかな」

サヨに語りながら、ルイはちらりと隣を見やった。シャルロットがふんふんと熱心に聞いている。席を立つ気配はない。


どうしようかな。

ルイは迷う。

コレット──聖なる乙女についても話したいが、この妹の前では憚られる。だがあからさまに邪険にしたら、シャルロットは確実にヘソを曲げるだろう。ここはこのまま無難に話を終わらせて、後で詳しく意見を聞くしかないか。

この先の会話をどう進めるべきか考えあぐねていた。


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