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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
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「ルイ、平気?」

宮邸の居間で、シャルロットはそう気遣った。


魔物を駆逐した後、トマ魔道士長に詰められて聖剣について追求を受けた。その際、聖剣だけでなくルイの魔法の能力──治癒魔法をも知られた。恐らく、大まかな修得レベルまで見抜かれたと思う。

相手は曲がりなりにもこの国一番の魔道士だ。致し方ない、と思いつつもこのことが己やシャルロット、そして師であるジュールに影響を及ぼす可能性に自然、眉が寄る。

「マクシム、大丈夫かな」

行きがかりで聖剣を振るう羽目になったマクシムも魔道士長から事の経緯と詳細を求められていた。

トマ魔道士長との話が終わらぬうちにルイとシャルロットは先にホールから出ることになったので、マクシムがどうなったかわからず仕舞いだ。ブリュノの息子という出自から、おかしなことにはなっていない筈だ。だがあれから顔を見ていないから、気になるところだった。



新年の祝賀パーティーがあのような騒ぎで終わったので、学校は全面閉鎖された。

冬休み期間は少なくとも魔道庁と王宮の役員、さらに騎士団の皆が調査にかかる。魔物の元来の住処と学校を繋いだ者の捜索と首謀者の捜査も併せて行っているらしい。校内の安全が担保され、魔道庁による防御魔法の再構築が済むまでは、生徒達は登校禁止だ。

基本、自邸待機で、学校の寮生は郊外の邸に帰省するか、王居に邸のある友人の元に一時滞在をすることとなった。

コレット・モニエを除いて。


彼女は、聖なる乙女なのか──ルイにとっては確定だが、この世界の人々にはまだ『その疑いが濃厚』であるに過ぎない。


魔物の襲撃に対して、大いなる力でもって抗い、全き世界に戻した少女。その際、ホールに居合わせた多くの生徒達の種々の怪我を完治してのけたのだ。いかに膨大な力があの場に満ちたか、わかろうというものだ。しかも、当人は自覚なくこれ程の魔力を放出したようで、聖乙女でなければあまりに異端な存在となる。その真実を明らかにしなければ不安ですらあった。

そのような理由で、パーティーの翌日、コレットは王宮からの丁重な迎えによって寮から連れ出された。王宮にある一棟に客人として招き入れられたというが、ルイは詳細を知らない。


少し落ち着いたら、書庫に行ってジュールとアルノーに話を聞きに行こう。

休みのうちに。




「ケーケッケッケー!クェー、ケッ!」

唐突に、窓の外で、とんでもない鳥の鳴き声と共に激しく何かが暴れる音、それから、使用人達の大声が聞こえた。

「なに」

「なん、だ?」

シャルロットが腰を浮かせ、ルイも外の様子を窺う。先日の魔物の襲撃のせいで、二人も宮邸そのものも警戒感が強くなっている。

「ルイ様」

しばらくしてアンヌが、妙に含みのある様子で顔を出した。


「ルイ様の飼われている鳥が、怪我をして戻って参りました。こちらへ連れてきてもよろしいでしょうか」

「は?」

そんなものは知らない。鳥など、飼った覚えはない。そんなこと、アンヌは百も承知の筈。

──あ。

「鳥、か。うん、連れてきて。戻ってくるの待ってたんだ」

頷いて、それから強く声を張った。

アンヌが大きく頷く。正解を引き当てたらしい。気づけば、扉は開いたままだ。廊下にまでこのやり取りは聞こえたかもしれない。

そこまでアンヌは織り込み済みなのだろう。

「わかりました。ただいまこちらへ」

言って、アンヌは扉の向こうに声をかけた。

「鳥を、ルイ様のお部屋に」

「いいんですか?」

「お部屋が汚れちまいますよ」

「殿下のご希望です」

バタバタと身を改めるような気配。

「おや。こいつぐったりしましたよ。ようやくおとなしくなった」

「死んでないか」

「しっ!」


いろいろ丸聞こえだ。

そうして少し緊張の面持ちの使用人が運んできたのは、両腕に抱える程の茶褐色のぐったりした鳥。羽根が血で濡れている。もう一人付き添いのように女がついてくる。

「王子様の飼っている鳥とは思いませんで」

「この傷は、見つけた時にはもうそうなってたんです」

「余計な物言いは控えなさい」

口々に訴えるのをアンヌがぴしゃりと制した。

「そちらに…そこのソファの上に寝かせるように」

「でも、汚いですよ、血も泥もついてる、」

「構いません」

「あ、これ敷くよ。それでいいでしょ、アンヌ」

ぱっと立ち上がったシャルロットが、机に掛けられていた布をソファの座面に広げる。

遠くからしか見たことのない、邸の王女様が身軽に動いたのだ。使用人二人はびっくりしたように見つめている。

「──シャルロット様」

アンヌが低い声を出した。固まる使用人からシャルロットを隠すように立つと手で白い布を指し示した。

「殿下の鳥をこちらに。そうしたら、持ち場に戻って構いません」

「はい、アンヌ様」

有無を言わせぬ口調に、使用人は肩を強ばらせて腕に抱えた鳥をソファに転がした。

クェ、と憐れっぽい声が嘴から漏れる。薄く開いた目は真っ黒だった。

「じゃあ、仕事に戻りますんで」

「殿下の飼い鳥については、あまり噂しないように」

「はい」

「もちろんです」

幾度も頷いて、ルイの方をちらりと好奇に満ちた視線を飛ばすとそそくさと出ていった。

多分、『殿下の飼い鳥』について、これから散々使用人達の間で盛り上がるに違いない。それから、間近で見た王子王女についても。

まあ、それは大きな問題ではない。何かあったらアンヌが厳しく指導するのだから。

問題は。



「で、何やってるんだ?」

ルイはソファの鳥を見下ろした。

「クェ?」

「うん、サヨ。普通に話してくれ」

「──。バレてるか」

嘴から聞き慣れたサヨの声がした。

鳥が趾を踏みしめて立ち上がろうとしてソファに崩れ落ちる。不自然に広がった羽から赤黒い血が溢れた。

「っ!この怪我、本物か」

「まあね。王居を巡回中の騎士に射られたの」

「なんでっ。避けられるだろ、そんなの」

「普通の鳥が避けたら不自然でしょ。だから」

甘んじて矢を受けたと言うのだろうか。

ルイは絶句した。

「一応、急所は外したわよ」

血を流しながらも惚けた言葉に、自然、目が据わった。

「──治す」

そっと左手でサヨの身体をソファに押し戻して、右手で治癒魔法を放つ。

ちりちりと血が乾いて、羽根にこびりつく。鳥が身を震わせた。

ルイが手を離すと、サヨは一度大きく羽ばたきした。

「大丈夫か」

「お陰様で。傷、塞がったみたい」

「ルイに手間、取らせないでよ。なあんでわざわざ、こんな昼間にそんなナリで飛んできたわけ?」

完治したことで安心したのか、見守っていたシャルロットがずけずけと訊ねる。

「理由があるのよ、お姫様」

ばさささっ、と今度は伸び上がるように飛んで。

いつもの黒衣の少女──サヨの姿に変わる。

射貫かれた羽と同じ側の腕がだらんと落ちているのは、まだ違和感があるからか。反対側の手で軽く撫で擦る。

サヨは血で汚れた白布を取り上げると、ソファに腰を落ち着けた。

ルイとシャルロットも向かいのソファに座る。


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