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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
227/277

211 襲撃・その後


ばらばらと警備の兵が扉を開けて入ってきたのは、光のベールがホール全体に行き渡った直後だった。

さらに現れたのは、一目で魔道師とわかる集団。だがルイのイメージする魔道師と違う、統率の取れた揃いの長衣を纏った彼らは、魔道庁所属の魔道士だ。

ホール内の警備兵に聞き取りを始め、また痕跡を辿るかのようにあちこちを魔法で探る。

一人の魔道士が入ってすぐ、扉の近くで立ち止まった。片手を突きだし入念に空を追う。静かに動いていた掌がある箇所で留まる。そこはまさしく風の旋風が起こっていた場所だ。しばし俯いた後に、また片手で空を探す。そうしてもう一つの魔の入り口を探し当てた。だがどちらも既にコレットが消している。

魔道士はそれをどう捉えたのか。

既に危機が去ったと見たのか、それとも。

二つの探査を終えると、彼はフィリップの元へ参じた。

フィリップ傍らには一足先に学校の警備担当の長が駆けつけていた。

「遅れまして、申し訳ありません。お怪我は」

「私は無事だ」

「異常を察知して駆けつけたのですが、扉がどうしても開かず。魔道庁の方が来るまで外で待機する羽目に。申し訳ございません」

隊長が謝罪を口にする。

「良い。魔物の襲撃だ。お前達では対処できなかっただろう。いち早く魔道庁に報せたのは正しい判断だ」

「まことに、申し訳なく…」

それでも恐縮し詫びを繰り返す隊長を、割って入った魔道士が押し止めた。


あ。


ルイは気づいた。彼が多分、魔道士長。ジュールの後任のトマだ。

「殿下、ご無事でなによりです。しかし、我々が来るまでに魔物は排除できたようですが、一体、何が起こったのでしょう」

「それはだな」




フィリップからおおよその話を聞き終えたトマ魔道士長は、そこで初めてこちらを振り返った。

特に目立った風はない実直そうな魔法使い。ジュールのような整った容貌や存在感はない。だがまっすぐに見つめる眼差しはしっかりしていて油断ならない、とルイは感じて気を引き締めた。


「フィリップ殿下より、聖剣が発現したと伺いました」

「──」

覚悟はしていた。フィリップがわざわざ隠す謂れはない上に、己を偽りで飾ることも好まない。だからコレットの力やシャルロットとマクシムの活躍、ルイの働きまで、真っ当に見たままを正確に告げたのだろう。

しかしルイとしてはできればあまり公けにしたくなかった事実である。特に、大人達、王宮に連なる人々には。

どう答えようか迷っていると、トマはルイの左手のひらの傷を見咎めた。

「傷を負われたのですか」

既に白い線を残すのみだが、観察力に優れた者が見たらすぐにわかるだろう。

そして。

「ルイ殿下は治癒魔法に長けておいでか」

答えは既に用意していた。

「いや。最後に全体に光の魔法が満ちて、それで、治った?」

「そちらの件もフィリップ殿下から報告がありましたが。魔術痕を見れば違いは明らかです。下手な隠し立てはおよし下さい」

コレットの強大な力の恩恵にしたかったが、騙されてはくれなかった。

静かだが偽りを許さないきっぱりとした物言い。

ジュールの圧倒的な魔力には及ばない魔道士長と聞いたが、確かな実力の持ち主だ。先代が規格外なだけで、彼も優れた魔道師なのだろう。

「すまない。余計な手間を取らせた。そう、自分で治した。この程度なら簡単なものだ」

「失礼いたします」

そっとトマはルイの左手を開かせて傷を検分する。それから、腰に戻した宝剣に触れた。

「なるほど。殿下自らお手を切られた。血を吸わせる為に」

宝剣に名残の血痕がついていた。それをトマは見逃さなかった。

「つまり、聖剣を発現させるには王家の血が要ると知った上でのことですね。宝剣の留め石がそれか」

宝剣に触れて頷く。丸く輝く石を撫でた。

「聖剣をこの留め石に変化させたのは」

「ジュールだ」

観念してその名を口にした。誤魔化し切れないと思ったのだ。案の定、トマは驚いた風もなく受け止めた。

「ジュール殿か。やはり士長殿の魔力は底知れぬ。私ではとても御せぬお方というわけだ」

その述懐にトマがどんな思いを籠めたか、ルイにはわからない。

ただ、ジュールが聖剣に関わっていたと魔道士長に知られてしまった。それがかの魔道師の今後にどう影響するのかしないのか、それだけが気がかりだった。


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