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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
225/277

209


シャルロットとマクシム、二人と黒い魔物の幾度かの爪と牙、剣の攻防を重ねて決着がつかないまま。既にルイの張った防御魔法は消えている。そして繰り返し切りつけようと突こうと、ただの剣では魔は倒せない。


一方、攻撃を阻まれ続けた魔物も攻め方を変えてきた。

グアァ!

一つ吠えると、魔物は頭を低くして背中を丸めた。

瞬間、背中の針がシャルロットとマクシム目掛けて何本も飛んだ。

二人の剣が素早く動いて黒い矢を弾く。しかし次から次へと放たれる針に、弾くのが間に合わず、大きく飛んで避けようとした。

だが。

二人の避けた先に、時間差で次の針の束が降りかかった。

ほとんどはマクシムの空いた左手が強引に掴み止めた。しかし止めきれなかった一本が、シャルロットの手袋を縦に割いて、左肘から先を滑るように傷つけていた。

「っ!」

「いっ、た!」

ルイは目を見開いた。どくん、とこめかみの血が脈打った。

衝動のまま、力任せに右手を振った。

ばしん、と二人を取り囲む強固な膜が張られる。

「シャル!マクシムっ」

ルイは防御魔法に守られた二人のもとに駆け寄った。しゃがみこんで、傷の程度を確かめる。思わず眉をしかめた。

シャルロットは肘から手首にかけて一筋引っ掻き傷が走っていた。血が滲むのを認めて、急いで右掌をあてて治癒を試みる。マクシムの左手も見せてもらった。針を掴んだ拍子に、針先が手のひらを突き破っていた。数があったから幾筋も血が滲んでいる。ただ、それだけで特に皮膚の変色や爛れはない。

「毒みたいなのは、無いみたいだな」

シャルロットの傷が白く膜を張ったところで、マクシムの手のひらの手当てをする。

「ん、平気」

「これくらいなら、治癒魔法もいらないですよ」

軽く言うマクシムに首を振って治癒を施す。

「結果論だな。あの魔物か毒や魔力の針を持ってなくて良かった」


「ちょっ。シャル様怪我したの!?ルイ王子、ちゃんと守ってよっ」


ほっと肩を落としたルイの背を、甲高い声が罵倒した。

コレットだ。

叫んだ勢いで身体が大きくぶれる。背後の騒ぎに気を取られて、伸ばした腕が横に逸れた。

魔力の圧が風の出入り口を外したのか。ずるりと灰茶のてらてらぬめりを帯びたナニカが風の隙を縫ってずるりと滑り落ちた。

と、すぐに身体をたわませて宙を跳び、魔は奥を目指す。奴らの狙いはあくまでフィリップなのだ。

「油断も隙もないっ!」

コレットがすぐさま掌を床に向けて魔術を放つ。白く輝く光が魔物を蒸発させる。

「コレット嬢!怪我は治癒できる。だからそっちをしっかり頼む!」

「っ。わかったわよ!」

舌打ちが小さく聞こえたがルイは聞かないふりをする。今は、とにかく総力戦だ。


と、コレットが留めている風の渦と同じものが、隣にさらに一ヵ所出現した。

「うそっ」

と、息吐く間もなく、ずるりと鱗をまとったとかげと蛇のような魔が這い出てきて、生徒達が悲鳴をあげる。

片手で渦を抑えつつコレットは左腕を伸ばした。左手が生む白い光の矢に射たれてとかげが消える。だがその隙に、灰緑の蛇が何匹も滑るように床を進む。パシパシとコレットは攻撃魔法を放つが、魔の侵入に追いつかない。

「キリがないっ」

二つの魔物の出口を抑え込もうとコレットの手が忙しく動く。

しかし絶え間なく現れ出でる魔が、間を縫ってフィリップの元にたどり着いた。


「フィリップ!」

ルイは声をあげた。

蛇は小さくて細い。長剣くらいの長さだ。与し易しと見て、フィリップを守る警備兵が剣を突き立てる。

だが目を細めて注視して、ルイは眉をしかめた。兵の動きが鈍い。なんとか退治しようと蛇目掛けて刃を突き下ろしているのだが、いかにも遅い。遠目に見ても明らかな緩慢さで、兵は四人もいるというのにその鈍い攻撃では魔物を仕留められそうになかった。

蛇はすばやい動きで兵の剣を掻い潜り、その先を目指す。

やはり全ての魔物は、フィリップだけを標的にしている。攻撃を避けるだけで兵を襲うこともなく、蛇は王子を目指す。他の人間は、ただそれを阻害する邪魔者でしかない。

奴らの目的ははっきりしている。

そうとわかってルイは息を飲んだ。

兵を躱して魔の蛇が遂にフィリップに襲いかかる。

「殿下っ」

傍らで身を縮ませたミレーユが、小さく叫んだ。

だが第二王子は冷静だった。ミレーユをそっと奥へ下がらせると、手にした華麗な剣から鞘を外して、のたうつ蛇の頭目掛けて正確に突き刺した。

ブツン。

木目の床に宝剣の刃が蛇を縫い止める。頭を穿たれ蛇はのたうちまわったが、フィリップが両手で柄頭を抑えて力を込めるうちに動かなくなった。

魔物の死を確かめて、王子は剣を床から抜いた。

「我が宝剣は魔除けの護剣。魔を絶つことはできる」

「──第三宝剣、か」

ほ、とルイは強ばりを解いた。

フィリップの宝剣は魔封じの力が元から宿っているのか。刃もある剣故に、小さな魔物なら排除できるらしい。

コレットや自分達が討ち洩らしたとしても、この程度の魔なら対処できる。

ならば、とにかく目の前の黒い魔物を倒さなくては。

シャルロットとマクシム、二人の傷は大方塞がった。息を吐いて立ち上がったルイの腰ががちゃりと音を立てた。第二宝剣が跳ねたのだ。


──そうだった。

自分には第二宝剣がある──その柄に聖剣が宿っている。


ごくりとルイは唾を飲み込んだ。

もう随分と前の森の光景。聖剣は、あらゆる魔を処断した。今もあの力を引き出せたら、魔物を倒せる。

ルイは素早く腰の剣を抜き取って左手にあてた。そこで宝剣に刃がないことを思い出す。


「マクシム、ちょっとそれ貸して」

宝剣から手を離し、マクシムが右手に持つ剣を強引に借り受ける。意図のわからぬまま差し出されたそれをルイは逆手に持って、刃に掌を滑らせた。

「ルイ様何を!」

「ルイ?!」

血が滴った。

最初に鋭い痛み、それからじわじわと広がる重い鈍痛に唇を引き結んで耐えながら、ルイは床に放り出した宝剣の真上に立った。柄に貼り付いた青緑の石に赤い色が落ちる。とろり、と石の表面を滑る、筈が。


煌々と石が光を放ち、周囲を照らし出す。

輝きに咄嗟に手を眼前にかざし、目を瞑った。目蓋の裏が白く染まる。そっと薄目で窺うと、石は眩さの中、柄から宙へ飛んで姿を変えていた。


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