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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
221/234

205 新年パーティー


王宮の新年の祝賀が中止になったと公表されたのは、年の瀬も迫った頃だった。

国王の体調が芳しくないとのことで、例年王宮で大々的に行われる国中の貴族が集う式典は取り止めになった。

生徒とはいえホストの一人であったフィリップや上級生で参賀する筈だった者などは、予定変更で慌ただしい冬休みだったようだ。

だがルイとシャルロットには無縁な話である。一年以上前に国王と面会を果たして公式に王子王女と認められた筈だが、王宮での国王主催の貴族が一堂に会する場には一度も招待されたことはない。

二人にとっては魔界に召ばれるようなものなので特に不満に思ったことはない。ただ、国王が病に倒れれば王位継承に絡んで自分達の立場が不安定になる。何よりもシャルロットとの平穏な生活を維持したいルイは、王宮の動きに敏感になった。学業と医療処置室の助手という予定の合間をぬって、多少なりとも詳しいであろう書庫の二人に尋ねて、不測の事態に備えている。


一方、学校の新年パーティも国王の不例とあって開催が危ぶまれたが、王族が在籍している年度ということもあり通常開催が決定した。

大人達の世界が緊張と自粛の空気に満たされる中での強行に多くが貴族の子女である生徒達は首を傾げ、校内で第二王子の存在感を示す為に王妃の強い後押しがあった、との噂が信憑性を持って伝えられた。

皆が様々囁き交わす中、学校のリーダー格の生徒達が運営する生徒執行部が冬の休暇を返上して準備し、新年の祝賀会は盛大に執り行われるという。

執行部会は三年の生徒が中心だが、今年はフィリップが参加して、主催者に名を連ねた。一年の生徒が執行部に入るのはともかく、大きなイベントの主要メンバーとなるのは異例だった。それでもどこからも反対の声は上がらず、フィリップ王子に対する学校の配慮を生徒達に知らしめた。


パーティは年が明けた日に開かれた。

去年までは冬休みが終わった初日の開催が通例だったが、今年は王宮の行事がなくなった為なのか、新年初日の日程に変更された。

登校は昼から始まり、午後には飾り立てた生徒達が学校のホールに集まって新年を言祝ぐ。

生徒主催のイベントではあるが、学校公認であることと純粋にこの場を愉しむ為に、所属教師はほほ全員姿を見せるのが慣例だった。

しかし、ルイはジェロームとゾエが見当たらないのに気づいた。

「どうしたの」

きょろきょろと見回しているのをシャルロットが見咎めた。ドレスは見慣れた紺色のものだ。

「うん、先生方が見えなくて」

「え?ゾエ先生とかか。──あ、本当だ、いないよ」

「まだ、無理だったか」

伸び上がって探したシャルロットも同じく見つけられない。冬休みの間に二人が復職していることを期待していたルイは、肩を落とした。

「じゃあ、まだルイは留守番?」

「多分。アルノー達はもしかしたら年明けには学校の教職員は戻されるかもって言ってたんだ。だから顔が見られるかなって、ちょっと思ってた。──駄目だったみたいだな」

「それって王の病気が治ったってことなの」

「いや、進展がないから取りあえず帰してくれるんじゃないか、って予想」

「ハズレたみたいだね」

「うん、王宮から戻れてないってことかと」

「ふーん」

ひそひそと声は潜めて言い合う。気を使っているのは周囲に対してで、曲がりなりにも父親の病状を語っているのだが、二人にその辺りの感慨はなかった。

「だから病状が良くないってことなんじゃないかな」

「そっかー。でも学校ではお祝いを盛大にやるんだね」

「そうだよ。生徒達は関係ないって判断なんだけど、フィリップ王子が王宮に願い出たって形らしい」

と、アルノーとジュールから聞いた。本当は王妃の圧力らしい、とまでは言わないでおく。他の生徒達もだいたい予想しているみたいだが。

第二王子派は、フィリップの評判をあげることに余念がないのだ。


「ねえ」

シャルロットがまた潜めた声を出す。

「なに」

「今日のパーティー、アレは来るの」

「アレって、サヨか」

「そう」

「さすがに、ドレスまで着込んで覗きに来ないって言ってたかな」

「ふーん。意外」

「こんな学校中の人が集まる場所で万一不審に思われたら、まずいって考えたんだろ」

逃げ場のないところで正体がバレたら、目も当てられない。

「そっか」

シャルロットは納得したようだ。頷いて、またホール全体を見回した。

「クラスの女子が待ってるんじゃないか?」

話し込んでいる間もあちこちから視線を感じていた。ダンス相手はいつものように数が限られている。だから今日のシャルロットと少しでも話したいという女子達は、ダンスが始まる前に何とか捕まえようと必死で見つめていた。

人気者は忙しいのだ。

シャルロットも理解していて、敢えて女子生徒達に近づいてファンサービス?をするよう努めている。

「ダンスになったらまた来るから、ここにいてよ」

言い置いて、シャルロットは人混みの中に消えた。

やれやれ、とルイは嘆息して壁際に陣取った。全校生徒が集まるホールでは、一人だと心許ない。

今日はさすがに来賓の挨拶はカットされるだろうが、最低限の主催者の開催の辞や挨拶は体裁を整える為に最初に行われる。その後すぐにダンスの始まりだ。

もちろん、最初のダンスはルイが相手と決まってる。しかし、次のパートナーのマクシムはまだホールに来ていない。今日は姿を見ていないから、邸で何かあったのかもしれない。

そのうち来るだろう、とルイはふんわり考える。

もし、ダンスに間に合わなかったら。

その時は自分が二回続けて踊るしかないな。下手にシャルロットに空きが出たら少女達が揉める元だから。


それだけが大変だ、と思った。


しばらくすると、進行役の生徒が大声で時間になったこと、もうすぐ会が始まることを告げる。

自然と沸き起こる拍手。

釣られるように手を叩いたルイは、ガチャリという音に腰に目を落とした。礼服の下には常に提げていて意識もしなくなった宝剣が在る。

そう言えばこれはずっと石のままだな、とふいに思った。

この世界の鍵となる『三つの宝』の一つ、聖剣。ジュールの手によって石となってルイの第二宝剣に嵌め込まれて数年が経つ。その間、まるで最初からそこにあったかのように飾り石としてついている。そうして何も起きないまま馴染んでいた。

本当に聖剣なんだよな?

ルイが裾を捲って覗き込んでみたものの、石は丸く、澄んだ青緑は光を反射して照り映えるだけだった。


礼服を整えて、ルイはまっすぐに立つ。

学校内のパーティだから、生徒達は武器となる剣は帯びていない。特別に許された二人の王子以外は、この場で帯剣しているのは会場の端々に立つ警備兵だけだった。

主催である生徒執行部が新年の祝いと開会の挨拶を述べて、パーティーは自粛ムードを忘れたかのように華やかに始まった。



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