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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
212/276

196 ヒロインと


その日ルイは、医療処置室へ向かう途中でコレットと偶然、行き会った。

向かいから歩いてくるのを見てとって、素早くシャルロットがまだ教室にいるであろうこと、周囲に生徒がいないことを判断する。

さりげない風を装ってコレットに近づく。あちらも気づいたようで、わずかに緊張するのがわかった。

人目がないのはわかっていたが念の為、声をかける前に、と右手をひらめかせる。


と、

しまった…!


視界の端で目の前の少女も同じ動きをした。気づいた時には遅かった。

ばしり!と力と力が拮抗する音がして、右手が弾かれる。

思わず、ともう片方の手で庇った。

「っつ」

幸い、怪我はない。手の甲を擦りながら顔をあげると、鏡のように右手を押さえたコレットと目が合った。

「いや、悪い。先に声をかければ良かった」

「…お互いにね」

低い声が応じたが、敵意はない。二人同時に人目を気にして目眩ましをかけようとして、相殺されてしまった。返しを受けた手はしびれがあるが軽いものだ。

「術は俺がかける。それでいいか?」

「ええ」

頷くのを認めて、改めて簡単な術を放つ。

軽い空気の揺れが生じて目眩ましの魔法が二人を覆った。

これで、誰かが二人を見かけても頭が認識しない。ルイが特待生の少女と話し込んでいると人の口には上らない。


「で、何」

敵意はないが愛想もない。

取りつく島もない促しに、ルイは努めて無反応を装って訊ねた。素っ気ないが、こちらの話を聞く気はあるのだ。最初の頃より改善している。

「いや、聖なる乙女の力って、どうなってるのか教えてほしい。サヨから聞いてると思うけど、俺はゲームのことは知らないから気になって」

「ああ、そういうこと」

コレットは納得したようだった。長話になるとみてか、廊下の端に寄ると壁に凭れてルイを見上げた。

「多分、力の方は順調だと思う。この学校に来てから、魔力がどんどん向上しているの。その上授業では効率的な使い方を教えてくれるから、魔法はすごく上達してる」

「さすがヒロイン、だな」

「まあそうね。でも魔物と遭遇してないし、実際のところはどこまでできるかわからない」

「いや、でもゲームでもそんななんだよな」

聖なる乙女の力は絶対で、そこらの魔物は敵わない、と。革の本にあったしサヨからも聞いている。

「ゲームでは、よ」

慎重に言葉を重ねて、コレットは唇を尖らせた。

「攻略対象者との宝探しイベントが不発だから、実戦できてないし」

「あー、それは、そうだな」

コレットの不満の原因とも言うべきものを知って、気まずく口ごもる。

しかし。

「そっちはちゃっかり宝玉手に入れてるんでしょ。ゲームの展開をフライングしてるなんてずるいわ」


不意を衝かれて一瞬、言葉に詰まった。

「──サヨがそんなことまで教えたのか」

聞いてない。

まさか宝玉を獲得していることをヒロインに告げているとは思わなかった。

「まあね。あの魔鳥が口を滑らせたのも勢いで、かも。とにかく、宝玉手に入れたってことは、ルイ王子は魔物と戦った経験ありってことよね」

問われて誤魔化すこともできず、正直に頷いた。

「その、いろいろあって」

「いろいろ!それで宝を見つけるんだからすごいわね。実際、ゲームでも一つ得るのだって大変なんだから」

「確かに、大騒ぎだったよ…」

コレットの口調から、宝のうち宝玉の獲得のみをサヨが教えたのだと感じた。聖剣については未だ知られていないと思う。多分。

後でしっかりサヨに確認しよう。

頭の片隅に刻み付けて、コレットの追求に応じる。

「サヨが襲われて、事故みたいなものだったから」

「魔物に?」

「そう。こっちは一切、前知識もないまま巻き込まれて、必死で戦う羽目になったっけ」

地中を落ちて、落ちて。魔物に襲われて、逃げて…。正直、土にまみれた自分はほぼ活躍していない。必死に目の前の事象にバタバタしている間に、周りに助けられたという印象だ。あの一晩の攻防を思い出しただけで冷や汗が出そうだった。

「よく無事に帰ってこれたわね」

「サヨだけじゃなくジュールもいたからな。知識と魔力の組み合わせでなんとかなったって感じかな」

「…ふーん」

当時のことをなんとか説明したが、返ってきたのは冷めた目線一つ。それから、続くのはきつい言葉だ。

「ゲームを知らない王子殿下は、この世界を掻き回してくれてるわけね」

「いや、そんなつもりはない、ょ」

反論は、する。だがシナリオから離れた展開を生み出している自覚はあるので、語尾が小さくなった。

「大体、あの魔鳥と癒着してるのは何でなのよ。ゲームじゃシャルル王子もルイーズ王女も接点なんてないのに」

「癒着って…」

そもそもの魔鳥との関係まで追求される。サヨの剣幕に押されて、ルイはありのままを話すことにした。

「いや、あっちから接触してきたんだよ」

「あー。聞いたわ。ゲームと違う王子だからって」

「そう。俺を見かけて確かめたかったんだろう」

「でも、王子も魔物とわかっていたのにあの女の言い分をずいぶん簡単に信じたものね。日本人顔だったから?」

あからさまに馬鹿にしたように言う。とにかくこのヒロインはルイに対して当たりがきつい。黙って避けられる以前よりは余程ましだが。

「いや、前世のサヨを知ってたからさ。と言ってもこっちが一方的に、だ。メディアに出る芸能人だから」

また関係が悪化するのは避けたい。変な誤解を生まないよう、付け加える。


「え。サヨって芸能人だったの」

衝撃を受けたのか、呆然とコレットは呟いた。

「そう。アイドル。結構有名だった。知らないってことは、コレット嬢はあっちでの生まれた年がずれてるんだな、きっと」

ゲームは数年おきに続編が出たらしい。だからプレイヤーの年齢も幅がある。不幸な死を遂げたサヨは、数年後にはマスコミから存在を消された。世代でなければ知らない者もいるだろう。

「アイドル。──嘘、前世の外見のままでこっちに生まれたってこと?え、あのまま?でも王子がすぐにわかったってことは、そういう……」

「そうだ。一目見てわかった。よく知ってた人間がこの世界にいるから俺は驚いたよ。けどお陰ですぐに素性を信じられたし、そこからお互い事情を教えあったから……流れで同志みたいになったのかもな」

コレットの独り言のような問いに答えるうち、随分昔に思えるサヨとの出会いを思い出す。

ある意味懐かしい。

自分以外の、ゲームを知る同じ世界から生まれてきた人間。半魔だろうと魔鳥だろうと、近づくのに障害にならなかったのは当然だった。


と、

「帰る」

「は?」

投げるように言い置いて、唐突にコレットが背中を向ける。

驚いて訳もわからず止めあぐねているうちに、ヒロインはずんずんと遠ざかってしまった。


「どうしたんだ?」

また怒らせたらしい。理由はわからないがとにかく気分を害したのはルイにも察せられた。

しかしそれだけだ。何が気に触ったのか、ルイがまずいことを言ったのか見当もつかない。


相変わらずゲームの第一王子のようにスマートにも振る舞えないし、女心を掴むのもできそうにない。

対象者?になることは目指していないが、このままで良いのか不安ではある。

ゲームの行方は全く見えないままだった。


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