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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
211/277

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久々に書庫を訪れたルイは、変わった問いをして帰っていった。アルノーは真面目に答えたが、問い自体が意図の読めないものであったから、それが王子の求める正答であったかは定かではない。


常は明確な質問を寄越してくる教え子には珍しいことだった。何を求めて、どんな予測を立てていたのか。二人の間では疑問が生じたが考えても答えは出ない。

その件には触れず、当座、新たに降ってきた話種にアルノーは移った。

「それにしても、シャルロット殿下はお元気だの」

「全くな。兄を侮辱した男子生徒を叩きのめすとは」

言って、それからふと何かを思い出したかのように遠く視線を飛ばした。


「あれは、本当の話だったのだな」

「?何のことだ」

「いや。──覚えているか、お二人が誕生された折りのことを」

「ああ。あのような悲しい出来事になるとは思わなかったが」


双子の誕生は、同時に母エルザ妃の死をもたらす結果となった。

王の嘆きは深く、愛妃を失った悲しみから子らを無いものとして扱った。それは数年後、宰相ロランの口利きで処遇が改善されても変わらず、正式な披露目のないまま今に到るのだが。

ジュールが口にしたのは双子、特に王女たるシャルロットの誕生時の話だ。


「あの日は二人、陛下が控える居間のさらに隣の部屋で待機していたな」

「そうじゃ、何もせぬままひたすら待つのは長かった。それで半日も経った頃、陛下がご出産が終わったとかで飛んでいかれた」

「我らはそのまま部屋でじっとしていた」

「じゃよ。感動の対面に部外者は不要であるからの」

うんうんとアルノーが頷いた。それでな、とジュールが古い記憶を呼び起こす。

「妃の悲鳴が響いた後、別の声が我らの耳に届いたのを思い出したのだ。甲高い尖った、遠く聞こえたあの泣き声は、シャルロット殿下であったのだろう」

「おお。思い出した。火のように激しく大きな声じゃったわ」

ぽん、とアルノーは両手を打った。

「そうか、あれがシャルロット殿下のお声か。離れた我らにも届く元気さじゃな」

「あの時のロランの話では、ルイ殿下より後からお産まれのシャルロット殿下の方がお元気だと言っていたな」

「そんな話だったかの。あまり覚えておらなんだが」

アルノーは首を傾げた。

「私も忘れていた。だがルイ殿下の話を聞いて思い出した。シャルロット殿下は誕生された時からお強かったわけだ、と」

「まあ、の。ルイ殿下よりも活きが良いのは確かじゃろうて」

「姫殿下だがな」

「ルイ殿下が振り回されておるしの」

くくく、とアルノーは悪い笑みをこぼす。

「剣の腕前もあがってるじゃろ。ルイ殿下よりも熱心じゃし」

「私が目にした時には既にかなりの遣い手だった」

入学前の地下の戦いでは、魔物を屠ることに迷いもなかった。剣術だけでなく胆力もある。

「王女殿下なんじゃがな」

アルノーが先ほどのジュールと同じ感想を洩らす。

「嫁ぎ先には苦労しそうだが、」

言いかけて、ジュールはここまで破天荒な王女に王家の慣わしを当て嵌めようとする馬鹿馬鹿しさに気づいたらしい。不自然に途切れた言葉に、アルノーはにんまりと笑う。

「万一、後継者争いに破れた後、ルイ殿下が国を逐われる状況になったら、これ程心強い味方はおるまいよ」

「まあ、そうだな」

王宮のロランから来る報せでは、国王の状態は芳しくない。

近々、治療の方針を見直す為に優秀な医師や治癒師を召集することになりそうだ、とモリスの寄越した手紙にあった。

もしもの時。

今の時点では第二王子が即位するだろう。そうなった際の第一王子の立場は、ひどく心許ない。




「──いざとなったら、殿下方には国の犠牲になるより外の国へ赴かれるよう願ってしまう。お二人にはそれくらい、我らは思い入れてしまっているようだ」

「まったくの。ご誕生の折りにはそこまで深く関わるとは思いもしなかったがのう」

普段、平静さを装う魔道師は、二人きりの時はたまさか本音をもらす。

しみじみとジュールが吐露した思いに、アルノーは心の底から同意した。


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