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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
1章
21/276

20 宝剣


「え」

国王から下賜される剣は、王の使者とロランによって内々に宮に運ばれることになった。

てっきり、双子二人で正装して王宮に赴くのだと考えていた。剣は国王とはいかずとも王宮の高官から格式高く手渡されるもの。仰々しい段取りを覚えて行かねばならないと覚悟していたので拍子抜けした。

「一応、王宮では宝物庫から正式に移譲されるため、略式ですが儀典長が手続きを執り行うそうです」

アンヌがルイとシャルロットに説明してくれる。

「移譲の書類には国王陛下の公式の署名が為されます。つまり公文書で殿下の所有と確定します」

そう教えられても、堅苦しい儀礼を何やらやっているのだなとしかわからない。

「あと、今回はルイ様だけでよろしいそうです」

告げられた言葉に、シャルロットが喜色を浮かべた。暇をもて余していた以前とは違い、今はやることが山積みである。時間があるなら、剣を振りたいところなのだろう。

しかし、宝剣をルイが直接受け取ることができないのは、また何か上の方、国王とその周辺で誰かの思惑が蠢いた結果なのだろうか。

「まだ作法も習い始めたばかりですし、宰相閣下のご配慮には感服いたします。本当に良うございました」

「ええ。シャル様にはこれからきちんとお教えして。いずれは何処にお出でになっても、ご立派な王族として振る舞えるようになりましょう」

メラニーに続くクレアの言葉にシャルロットが眉を下げる。気持ちを声に出したら即座に注意されるやる気のない文句に決まっている。黙ったままで、シャルロットの顔が奇妙に歪むくらいは許容範囲だった。


まあいいか。


誰かが邪魔したにせよそうでないにせよ、取り敢えず剣が無事下賜されるのだ。

それでルイが王居で王子として認められる証しとなる。それは多分、この宮としては良いことなのだ。




日を置かずして、ロランから宝剣が下賜される時を告げる遣いが寄越された。

当日は身を清め、また正装をして剣を迎える。準備はアンヌの指示の元、メラニーとクレアも立ち働いた。ルイは二人の手を借りて身支度をし剣の到着を待った。

先触れが馬でやってくると緊張感が高まる。宝剣は馬車で運ばれた。これに、宰相ロランが同道する。

正装したルイはサロンで使者を待ち受けた。

「ルイ王子殿下」

ロランより先に、剣を捧げた国王の使者がルイの前に立つ。

下座の位置にロランは控えた。

国家の所有物の宝剣の方が国の宰相より地位が上なのか。

変なことに感心しつつ、ルイの顔は生真面目な表情を保つ。

「アラン国王陛下より、ナーラ国サギドの光、第二宝剣を賜ります。謹んで受け取られますよう」

「はっ」

紫の絹地に包まれた剣が取り出される。恭しく捧げ持った使者はルイに向かい差し出した。ルイは頭を垂れつつ一歩を踏み出した。両手で受け取り、押し戴く。

「陛下のご厚情に感謝いたします。この宝剣に恥じぬよう精進いたします」

「うむ。陛下もお喜びであろう。励むがよろしい」

鷹揚に頷くと、ロランに視線をやり言った。

「ロラン宰相殿。後はお頼み申します」

「承りました」

静かに首肯する宰相に、肩の荷が下りた使者は、ルイに最後に声をかけた。

「殿下。そちらの剣は鞘はございませんが邪なもの以外は斬れぬ宝剣。御身に帯びてよろしゅうございますよ」

「は。ありがとう存じます」



使者が去った後、居間に移動したルイはロランやシャルロットと共にテーブルに置かれた宝剣を囲んでいた。広げた紫布の上で剣は鈍い光を放っている。

「へえ。これが宝剣!結構小さいんだ」

「いけません。かけらでも損なったら命がなくなりますよ」

アンヌの言葉に、シャルロットが伸ばしかけていた手を慌てて引っ込める。今度は怖々とした様子で覗き込んだ。

ルイも距離を取ってじっくりと眺めた。

宝剣は、サギドの光などという麗々しい名に比して地味な造りだった。簡素と言ってもいい。

鈍色の刃は太く短い。長さはルイとシャルロットの肘から先くらいだ。飾り彫りもない鍛いた跡が残る、古えの味あるものだ。柄と握りは金を貼られて豪華だが、滑り止めの巻きがあるだけで装飾はない。金色も時を経てくすみ、柄頭には宝石か何かが嵌まっていたような穴が丸く灰色にぽかりと空いていた。

「なんか取れてるの?これ」

シャルロットがめざとく見つけて指差した。

「ああ、これはずっと前からこのままなんです。何しろとても古いものなので」

宰相ロランは、やはりいろいろと詳しい。

「ふうん。宝剣って言うからもっといろいろ飾りがついているのかと思ってた」

「確かに、これは鞘もありませんから。第二王子殿下が拝領した宝剣は、華やかですよ」

「邪なもの以外は斬れないって本当なのかな」

先程の使者の言葉を思い出してルイが問う。しかしロランは首を振った。

「それは謂れと言いますか、言い伝えです。この剣はそもそも刃が無いのですよ」

言われて目の前にある剣をよくよく見れば、刃は潰されていて剣としての用は成さない造りだった。だから鞘がないのだろう。子供のルイが腰に帯びても危険はない。

「もう一つのはどんな剣なの?」

「ナーラの花、第三宝剣です。宝物としてはこちらがはるかに豪華かもしれません」

「そうなんだ」

「ええ。鞘も金張りで紅玉や青玉、真珠などがついてますから」

「ふうん」

その素晴らしい細工の宝剣で王妃が満足したのかな?と考える。会ったことのない女性の気持ちはなかなか想像しがたい。第三宝剣を貰って、心が落ち着くのなら無用の争いがなくて良いのだが。

「でもこっちの方が第二なんだ」

はい、とロランは頷いた。

「由緒が違います。古さでは実は第一宝剣より上で、王家で絶対に喪ってはならない守護剣と言われています」

その所以は不明なのですが。

言い差して、ロランは紫の布ごと宝剣を捧げ持つ。

そっと手を伸ばしてルイは剣の束を握った。

思ったよりもずしりと重みを感じた。いつもの手に馴染んだ木剣と違い、冷たく硬い。目の前に翳すと、いびつな刃が波打ち光を跳ね返した。


刃のない、由緒ある第二宝剣。


大変なものを受け取ってしまった。

王子としての証ではあるが、剣の重みがこの身に負う地位を明らかにしているようで、ルイはごくりと唾を飲み込んだ。


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