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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
6章
196/277

193 攻略者不在


「この世界でルイ王子って、アルノー殿に師事してるんでしょ?小さい頃から」

囁く声は実に小さい。

魔法で聞き寄せをしなければ捉えられない声音だ。

「そう。付き合いはジュールより長い」

「それがゲーム設定では死んでるの前提とか」

「死んでないと攻略対象者が一人欠けるとか」

「言えないわね」

「言えない。さすがの私も」

サヨの重い溜め息。

「だから様子見?」

コレットがサヨを気遣うかのように窺った。いつも噛みついてばかりの間柄なのに、珍しい。

「だってまだ可能性はあるでしょ」

「そうね」

「でも。こう言ったらなんだけど、今後、アルノーって死ぬと思う?」

「この国が滅んだら、普通に皆で死ぬと思うけど。あと老衰」

コレットの言い様は身も蓋もない。

「ひどい。でもそれはノーカン。攻略対象者が生まれない。そもそも、ゲームではいつアルノーが死んだのか、ジュールが魔術返しを浴びたのか、不明でしょ。って、何か公式の設定集で言及あった?」

サヨが自分の知らない設定があったかとコレットに訊ねる。だがヒロインは首を振った。

「ないわ。結構まめに情報拾ったつもりだけど、魔道師の過去についてはゲーム以外では語られてない。だからその辺の設定のがばがばさに、こっちは振り回されてる気がする…。最後の攻略対象者は、実質アルノー殿のお亡くなり待ち?」

「これから死ぬのかな。ルイにはとてもじゃないけど言えない」

「まあ…。細かい理由も言わない方がいいわね」

溜め息をついて、両者の意見は一致をみたようだ。




──貴方の長年の勉学の師が死んで、魔法の師匠が暴走して魔返しの呪いで若返ります。それが最後の攻略対象者です。

何故かまだ貴方の師は死んでませんが、今後も死ぬ可能性はあるので、ゲームの行方はわかりません。



うん、言えないな。



至近距離のところに隠れていたルイは、これまでの会話から導き出された推測を整理して、唸った。


学校に擬態して紛れ込んでいる魔鳥とヒロインが、何故か校内で情報交換という名の交遊を深めているのは、もはや見慣れたものとなっていた。

だが行き合えば下らない口論となるのが常態のサヨとコレットが、中庭の片隅とはいえ静かに話し込んでいるのに気づいて、興味を引かれた。

それで、二人とも前世でゲームプレイヤーであったことから、何か有用な話が聞けないか、そっと魔法の力を借りて聞き寄せたのだ。

極弱い魔力、そして二人が互いに集中していたからこそ出来たことだ。


しかし、まさか攻略対象者に関わる話が聞けるとは。

聞き寄せてすぐに、ジュールの名前が飛び込んできて驚いた。そこからは息を詰めてひたすら聞き入るだけだった。

期待以上の話を知ることができた。

「なる程ね」

ひとりごちてそっと踵を返した。

彼女達の話題はジュールから校内の噂話に変わっている。未だ熱心に話し込む二人から離れるよう廊下を歩きながら、たった今得た情報を整理する。



アルノーが。

思いもしないことだった。

ゲーム上ではアルノー、あの好奇心旺盛な老人は死んでいて、ジュールはそのせいで?禁忌を侵す。理由は定かではないが結果、ジュールは姿を若者に変えて攻略対象者になるという。

幼い頃から書庫に通いつめて様々な知識を学んだ。最近は頻度が減っているものの折りあれば訪ねて教えを請い、用がなくとも何かと二人と話をするのがルイの日常の一部となっている。

彼らは、宮邸から外の世界に踏み出したルイに全てを教えてきた。出会ってから十年。学問と魔法以外にも人生の師として今のルイを形づくってきた存在ともいえる。

彼らが──そんな暗い背景を持っているなど、今の二人をよく知るルイには信じがたかった。


これもゲームのバグなのか。

サヨとコレットは、アルノーがいつどうやって死んでジュールが何故禁忌の魔道を行使するに到ったか、はゲームでは描写されていないと話していた。

ならばそれは、どういう状況下でか。

本来はゲームの開始時には、既にジュールは魔道の返しを受けた姿に変異しているという。ならば何故、その原因となる事象はこの世界では起きていない。何かのバグで回避されたのか、時期がずれただけでいずれ訪れる不幸なのか。


──このままアルノーが死なずにすむ世界線はあるのだろうか。


廊下の途中で、ルイの足は止まってしまった。


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