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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
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「どうしたんですか、難しい顔して」


放課後、宮邸を訪ねてきたマクシムを前にして、シャルロットはついつい考え込んでしまっていた。馴染んだ剣も傍らに放り投げたままだ。

「ごめん、ちょっとね」

「何かありました?」

下手な誤魔化しに優しく言われて、シャルロットは今日の下級生との会話をありのままに話した。

「──って、コレットさん、その子は言うんだけど。ルイが好きじゃないって、本当なのかなって、さ」

あの場ではルイの言い様やコレットの勢いに押されてしまったが、一人になると確信が持てなくなる。

コレットの友人達がルイを離れたところから慕っている、というのは理解した。問題は彼女だ。果敢にもダンスを申し込んでくる積極性と、シャルロットが思い切り睨んだのにも関わらず(今思い返せば、少しやり過ぎだったかもしれない)、学校でわざわざ声をかけてくる勇気。

さらに、サヨと知り合いだという。

ルイによれば、魔鳥だということもバレているらしい。さすがに宝のことは知らないみたいだが、それでもこの短い間に、自分達のトクベツな秘密にまで食い込んでくる少女なんて。

彼女の全力がルイに向かっていったら。

そう思うと怖い気がした。


「だってルイだよ?皆好きになるよね」

「──ルイ様は関係ないと思う」


それまで黙ってシャルロットの話を聞いていたマクシムは、意外にも即座に断言した。

シャルロットは驚いた。

剣については一家言あろうが、こういった人間関係や人の気持ちをはかることに、マクシムが得手とは思えなかったのだ。

「なんでそんなはっきり言えるの。マクシムだってルイのこと好きでしょ。あの子だっていろいろ知ったら、もっと好きになる」

言ってるうちに、心配が増す。自分の言葉で不安がかきたてられてしまった。

「いや、それはないかな」

なのにマクシムは揺るぎない。

どこか遠くを見つつも自信ありげな様子に、思わずと睨みつけた。マクシムはシャルロットの視線に気づいてか、少し迷うそぶりを見せながら口を開いた。

「あの、言っていいかわからないんですが、ちょっと前にそのコレット嬢を見かけて。シャル様を探して校内をうろうろしてたんです」

「何でそんなの知ってるの」

「いや。少しだけ話したんで。あの、誰にも言わないで欲しいんですが」

「なに。教えて」

「ルイ様にも内緒にできます?」

「するする。だから教えて」

急かすように言うと、マクシムは疑いの残るまなざしでシャルロットを眺めた。

「絶対言わないから」


重ねてねだると、納得してなさそうに吐息をついたが、続きを話してくれた。

「男子生徒数人がシャル様の悪口を言ってたんですよ。そしたら、彼女が魔法を使ってそいつらを転ばせてました」

かなり容赦なく。

「うわ!やるなあ、コレットさん」

言われた情景を想像して、シャルロットは笑った。それから、首を傾げた。

「あれ?なんでルイに言っちゃ駄目なの」

「まず、校内で攻撃魔法を対人にかけるのは禁止です。彼女のは攻撃、とは言えないかもしれないけれど、あまり褒められたものじゃない。それと、シャル様を悪く言ってた生徒のことなんて、ルイ様の耳に入れたら面倒なことになる」

「…ああ」

マクシムに丁寧に説明されて腑に落ちる。前者はともかく、後の理由は自分に置き換えたら簡単だ。

怒りを向ける相手を探して、それから…。考えただけで面倒くさい。

「つまり、コレットさんの言ってたのは本当で、ルイにはまるっきり興味がないってことか」

「シャルロット様が好きなんですよ、あの生徒は」

「へえ」

そちらにはあまり関心がない。好かれているのは嬉しいが、それだけだ。

大事なのは、コレットが正真正銘ルイに関心がないということ。

それが明らかになったのは大きな収穫だ。

「へえ、そうなんだ。変わってるね!」

うっかり、嬉しさが声に滲んだ。マクシムが顔をしかめたが、シャルロットは気にもとめなかった。

浮かぶ笑みを押し隠して、放置していた剣をいそいそと取る。

「随分と時間が過ぎちゃったね。早く稽古しよう」

弾んだ声にマクシムがやれやれ、と応じる。いつもの二人のやり取りだった。



───────────────────────



翌日から、コレットの世界は薔薇色になった。

いつものように寮から登校すると、偶然にもシャルロットがルイ王子と歩いているのに出くわした。


「あ。コレットさん、おはよう!」

は、と思う間もなく、あちらから爽やかに挨拶されて絶句した。

朝の澄んだ空気のせいか。いつもより数段眩しく華やかなシャルロットだ。

「お、おはよう、ございます…」

驚きに尻つぼみになったコレットの挨拶を気にした風もなく、にこりと笑顔を向けるとシャルロットは軽やかに先を行く。隣のルイ王子までもがおまけのように会釈するのを呆然と眺めて、慌ててぺこりと頭を下げた。

二人が立ち去っても、コレットはしばらくぼうっとしていた。それから、ぎくしゃくと辺りを見回す。

ばち、と目が合ったのは同じように登校する生徒の一人だ。相手はさっと目を反らすと、ぱたぱたと早足で去っていく。他の生徒達も男女変わりなく、示し合わせたかのようにシャルロットから離れていった。

「……」

周囲の反応を見るに、今の出来事は現実に起きたことらしい。


シャル様から挨拶された。


思わず唇が綻んだ

嬉しさに飛び上がりたい気持ちを抑えて校舎に入る。

この感動はサラ達に訴えるしかない。平静をよそおってクラスに着くと、いつもの面々が迎えてくれた。息つく間もなく、コレットは先程起こった奇跡をしゃべった。

サラもアニーもポリーヌも驚き、そして喜んでくれた。

「良かったわね」

「やっぱり素敵な方だわ」

「…てことは、私達のことも許してくださってる?」

きゃあきゃあと小声で盛り上がって、教室の他の生徒から遠巻きにされた。



以降、シャルロットはコレットを見かけると、にこやかに声をかけてくれるようになった。ついでに、隣にルイ王子がいればそちらも軽く会釈をしてくる。と言っても学年も違うので本当にたまのことだが、シャルロットの態度が軟化したことに、コレットは天にも昇る心地だった。

ゲームの進行には全く!関係ないとは自覚している。大丈夫、先の展開もきちんと考えている。

そう思いつつも学校生活に一段と張り合いが出たのは確かだった。


しかし当然、これらは一般生徒達をざわつかせるものであった。

以前、ルイにきつく釘を刺された為か、シャルロット派の急先鋒たる女子生徒達の襲撃はない。だが特に色分けされていない一般生徒達の間では、特待生の少女について日常的にこそこそと囁き交わすようになっていったのである。


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