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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
189/276

186 あれやこれや


「気になってたんだけど」

いつものごとく自室のお決まりのソファに向かい合って、ルイはサヨに尋ねた。

「なに」

「ヒロインが登場して、スタートのイベント?がクリアされて。塔が壊れたのに学校では特に事件は起きないんだな」

「どういう意味よ」

「いや、ヒロイン、コレットか。ダンスパーティーの騒ぎとかこの間の剣術の試合とか。そういうのはあるけど、魔物が出張ってくるような、ゲームに関わることはないなって」

「──」

サヨに胡乱な目で見られて、ルイは慌てて胸の前で手を振った。

「いや、事件が起きることを期待してるわけじゃない。平和で良いと思ってる。だけど、ゲームの進行としていいのかってさ」

魔物の襲撃を待っているわけでも、魔法や剣での戦いを望んでいるのでもない。その事ははっきりと言っておきたい。

そう考えて口早に言ったが、サヨの目はますます冷たいものになっていた。

「──サヨ?」

「馬鹿なの?」

窺うように問うと、そんな言葉が返ってきた。


「ちょ、あんまりじゃないか」

「いや、馬鹿でしょ。ヒロインが入学したら、しばらくは校内の攻略対象者──第一王子やフィリップ、マクシムと関係を深める校内イベントになるわけ。今のところ、コレットは誰とも個人的な親しさを築いていないわけだけど。で、ルイの期待してるセイイノのメインイベントはね」

「期待してないよ」

「あのね。攻略対象者と親しくなってやり遂げるメインって、タイトルにある三つの宝を獲ることなんだけど。ルイが宝を二つも手に入れてるから、イベントが起きようがないわけよ」

「あ。」

言われてみれば確かに。

すっかり忘れていた聖剣や宝玉の意味を語られて、ルイは言い返すこともできない。

毎朝、着替えたら腰に下げるのが当たり前になった第二宝剣。その束に元からついていたかのように馴染んだ青緑の石。ジュールによって聖剣が変化したものだ。

何事も起きない日々でそこに在ることすら忘れていた。だが確かに伝説の国の宝の一つ。

そして部屋の隅に据えられた棚には、宝玉に成る青と赤の玉がそれぞれ別の箱に仕舞われている。こちらは一度も宝玉を発現させてもいないから、ルイにとってはただのガラス玉でしかない。だがどんな望みも叶えるゲームチェンジャー的な代物だ。確かにこれを手に入れるのは、一つの大きなイベントになるだろう。

二つの宝を期せずして獲得したルイには、確かに所有者としての自覚がなかった。



一方、ヒロインの方では動きがあった。サヨ──黒魔鳥との繋がりである。

生徒に紛れて校内を探索しているサヨが、コレットに魔物と見破られたと聞いた時は肝が冷えた。しかし転生者でかつセイイノのプレイヤーであると明かしたことで、互いに利害の一致をみたらしい。一応、ゲームクリアという共通の目標を掲げて協力する形で合意したそうだ。

以降、ルイと話すのと同じくらいコレットとも校内で意見交換という建前の立ち話に興じている。ルイ自身、幾度か見かけたが、互いに遠慮ない物言いをしているようなのは、ゲームを知る者同士だからだろうか。

ちなみに、コレットのかけた目隠しの術は魔力の強いルイには無意味だった。極めて弱い作用な上、長い付き合いのせいでサヨの存在を認識しやすいからかもしれない。さらに校内でサヨの姿を無意識に探す為もあってか、彼女達が連れ立っているのを目敏く見つけてしまう。二人には敢えて告げていないが、魔道の術の解除にはこんな個別の要因もあるのか、と感じるのだった。


さてしかし、このようなわけでサヨとコレットの不思議な親交は深まっているようだ。

何なのだろう、これは。


これでサヨがゲームのキャラクター、黒魔鳥リュカであれば、ヒロインと順調に絆を深める、いわゆる個別ルートに進んでいるのだが。

サヨがサヨである限り成立しない。

現実は無情である。

しかし、セイイノのエンドマークへ至る道筋を知る二人が通じたのは、これ以上この世界が不確定要素でぶれない為には良かったのだろう。

バグの最たるものという自覚があるルイはそう信じるしかなかった。




───────────────────────



ルイの未来への不安を余所に、学校生活は至って和やかに平穏に過ぎていった。

しかし王都の外、国境に近い地域の小規模な村、また山や森の狭間にある辺鄙な集落の近くでは、魔物が出現し家畜や人が襲われる事件が頻発した。

その都度、騎士団と魔道庁の人員が派遣されて魔物の排除、掃討が行われた。

魔物が地方のあちこちに現れたという一報は、都市部に住む人々が不安に駆られるに充分なものだったが、すぐに全て迅速に処理されたという成果が後追いするのが常であった。

故にいつしか馴れが生じて、魔物騒ぎは次第に気にもとめられず、皆一々騒ぐことはなくなった。

魔物への怖れは同時に国の騎士団、魔道士への信頼とセットになって、人々の心は易きに流れた。


──自身の生活圏に攻撃性の高い魔物が現れたら。


そんな風に地方の惨状を我が事と考える者は、王都周辺ではほとんどいなかったのである。



ルイが日常を過ごす王立学校の生徒達は無論、支配階級の子女が大勢を占めていて、騎士も魔道士も身近な存在だった。当然のごとく、騎士団への尊敬と信頼は篤く、魔道庁の能力は高く評価していた。なればこそ、地方の魔物騒ぎへの危機感は都に住む平民よりさらに薄かった。

己の家の領内に魔物が現れたという者でさえ、遠く領地から寄越された詳報は仲間との会話に刺激を与える良いスパイスでしかないのだ。

実際、未知の魔物と騎士や魔道士の戦いは、遠く安全な学校では良くできた物語に過ぎず、魔物の恐ろしさを表す被害と彼らを掃討する英雄の騎士や魔道士の詳しい話を、皆こぞって聞きたがった。

そこで『運良く』領地で騒ぎが起きた生徒は詳しい話を実家へと催促しては、手紙に書かれた事件を己の手柄のように周囲に披露していた。


魔物の出没は小規模ながらも頻発し、少なからぬ人的物的被害が生じた。まともな警備兵もおらぬような村や過疎の集落が災禍に見舞われることが多く、それらをいくつも抱える地方では深刻な問題として捉えられていた。

だが石壁でぐるりと囲われた王都、さらには騎士団本部と魔道庁が警護する王家を戴く貴族達にとって、それらはあまりに軽微で遠い彼方の話でしかなかったのだ。



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