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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
188/276

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それでも日本の美少女姿の魔鳥は、堪えた風もなく。

「そんなに警戒しなくてもいいんじゃない?聖なる乙女様の前では、こっちは魔力も無効なんだし」

けろりと言い放つ。混乱するこちらを楽しんでいるようで腹立たしい。

しかし。

「転生者同士、仲良くして。壊れていようと破綻していようと、世界は救わないとまずいんだから」

軽く告げられて、はっと気づく。

転生者だからといって、ゲームの展開に沿うとは限らない。魔物に生まれ変わったのだ。手にした膨大な魔力を世界の破滅に導く選択をしてもおかしくない。だがこのサヨ、はゲームの主旨、セイイノの本来の展開に従って世界を救おうと言っている。

それは、多分喜ぶべきこと。

取りあえず、この攻略対象者でありながら対象者になり得ない伝説の魔鳥は、ヒロインであるコレットの敵にはならない。

ゆっくりと魔鳥の言葉を噛み締めて理解する。少しだけ肩に入った力がゆるんだ。


だがそれも束の間のこと。

「あ、ルイは転生者だけどゲーム知識皆無だから。何にも知らなくて、あんたに会うまで攻略対象の第一王子としてシナリオ全うする気でいたから、お手柔らかに」

「は!?」

重大なことをあっさりと告げられた。


ルイ王子も転生者。


言われて、得心する自分がいた。

コレットが攻略対象者について考えていた時の違和感は、これだったのだ。

ルイ王子の行動や性質は、引きこもりのルイーズ王女が反映されているようには見えなかった。闊達なシャルル王子でもない。別個の存在であるように感じた。

なるほど、彼が転生しているならルイーズの性格を引きずっていないのも当然だ。ルイーズ王女と重ね合わせて考えるのは、間違っている。


ゲームの影響下から外れることが可能なキャラクター。それは恐らくコレット自身とこの目の前の腹立たしい魔鳥と、ルイ王子。

多分この三人は、ゲームの展開に沿うこともできるが、違う選択肢を採択することも可能。

この世界の根本を変革できるイレギュラー。


思わずと目の前の存在を忘れて思考のうちに沈む。

しかし妙に饒舌な魔鳥は、コレットを放っておいてはくれなかった。

「ルイなんだけど。転生する前に、この世界の創造者だかゲーム世界の絶対者だかに会ったみたいなのよね」

「──え、はあ?」

耳が聞き流してはならない音を拾った。

顔をあげると、魔鳥は平然と先を続けた。

「手違いがあったけどよろしく!みたいな責任の押し付けがあったらしいの」

「何それ!私はそんなのなかったわよ」

思わず身を乗り出して叫んだ。

「やっぱり。私も同じよ」

と、魔鳥に大きく同意されてしまう。


ルイが特別?ゲーム未経験だからなのかな。

魔鳥は首を捻りつつ、ぶつぶつと言う。

コレットは混乱する。

ルイ王子はこの世界の創造者に会った?ゲームシナリオの履行を命じられたという、こと?

またもや頭の中で忙しく考えが駆け巡る。

そうして浮かんだのは、初めて出会った折のルイ王子の顔だった。

ルイーズそのままの容貌に先ず衝撃と嫌悪感が勝ったが、よくよく思い返せば、ゲームでは見たこともない必死さがあったようだ。

あの顔に対する偏見を除けてみれば、ゲームの鍵となるヒロインとの出会いを成功させようと意気込んでいたのかも知れない。

実際、入学以来、二ヶ月程王子を見ていた限りでは、いかに斜めに見ようとも穏当な人格と言える。多分。


一応。一応、誠意はあるみたい。


結論が出て魔鳥を見ると、こちらの頭の中を覗いたかのように頷いた。

「会って数年になるけど。ルイは真面目にゲーム遂行を考えているのよね」

「……付き合い、長いのね」

「いや、子供のルイを見かけた時、どうみてもキャラがおかしいと思ったのよ。だから確かめたくて近づいたら…ってわけ」

それはまあ、前世のプレイヤーがセイイノの世界線と任じていろいろ見渡していて、第一王子があれでは二度見したくなるというものだ。

それが高じて…今の状況か。

先程見た、校内の一画でやたらと親密に話し込んでいたルイ王子と魔鳥の並びを思う。

魔鳥が第一王子と親しいなど、ゲームでは一欠片もない設定だ。

しかしルイ王子はともかく、目の前の女子生徒を装った魔鳥はまだ全面的に信じる気にはなれない。こちらの情報は落とさないようにして、慎重に見極めないと。

そう心に決めて魔鳥の話を聞くが、それでも気になるワードが散りばめられていて、つい釣り込まれる。

「ルイは神様って言ってるの。こんなバグ作りまくりのかなり怪しい神だと思うんだけど」

残念ながら魔鳥と同意見だ。

頷いてしまって、負けた気分になる。

ゲーム内容を知っていれば、そもそもの設定ガン無視でこれか、と文句のひとつもつけたくなる筈だ。しかしルイ王子は真っ当にシナリオを辿ることを選んだらしい。

途中、シャルロット王女の怪我など、ゲームとの齟齬など疑問を感じつつも、だ。

「正規シナリオを実際には知らないルイは、そんなわけで前知識ほぼ無しで何とかゲームのエンディングまで行き着こうとしてる。穴が開きまくった世界線だと知らずにね」

ちなみに魔鳥は、コレットとの出会いのイベントを終えるまで、シャルル王子とルイーズ王女という最大のバグを教えていなかったという。

ヒロインとの最悪のファーストコンタクトを経て、ようやく真実を知った。

そう聞いて、コレットもルイ王子に同情した。ほんの少しだけ。

ルイ王子もさすがに己の立場の不確定さに衝撃を受けたらしいが、それでもゲームクリアの命題は掲げたまま。

「前世の性格が『そう』だったのかもしれないけど、生真面目よね」

「……」

どう考えても顔を見れば大嫌いに傾くし、コレットの中で彼が邪魔者という地位は揺るがない。

だがアレを攻略するのは御免だけれど、正しくシナリオが進むように動いてやってもいい、かもしれない。譲れないものはあるけれど、ゲームの世界軸で聖なる乙女として使命はやり遂げよう。


その為には、この胡散臭い魔鳥と最低限、協力してやってもいい。


殊勝な決意は、しかし魔鳥自身の口から、シャルロットが魔鳥と口喧嘩をする仲であると聞かされて、あっさりと霧散した。

コレットは常に、シャルロットの全面的な支持者である。




その後、校内で黒茶の髪の女子生徒を見かけた際には声をかけるのがコレットの習慣になった。

情報収集は物事の基本である。好き嫌いとは別問題だ。

ちなみにサラやアニー、ポリーヌに見咎められないよう、こっそりと目眩ましの術をかけていた。二人の姿は認識されるが、路傍の石のように誰にも関心を抱かれず見過ごされるようなそれである。


そして。魔鳥──サヨの姿は変わらず、しかし足元には控えめな細い影が片時も離れずに在った。細かい術がルイの手に依るのか魔鳥の力の為せる技かは不明である。

かくして魔鳥はさらに人に紛れて、校内を怪しまれず闊歩するのであった。


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