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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
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ルイ王子の女友達の存在に意気消沈した友達の気分は、なかなか浮上しなかった。

コレットは、久々にルイ王子をつけてみることにした。

シャルロットに誤解されて以来やめていたが、サラ達の言葉に好奇心が刺激されたのだ。アニーとポリーヌを嘆かせた女子生徒を見てみたかったし、ルイの女友達という存在をシャルロットは知っているのか、などという下世話な気持ちもあった。

休み時間、ルイの教室に早足で駆けつけて、それから彼が外に出るのを待つ。空振りを幾度か繰り返して、ついに王子が教室から出るのを捉えた。時間も長めの中休みだ。ちらりと横目で確認したが、シャルロットは女子に囲まれていて動かない。


チャンス?


距離を保ったまま、ゆっくりと王子の背中を追った。ルイ王子は背後を気にすることもなく迷いのない歩調で校内を歩いていく。生徒達が忙しく行き交う廊下を通り過ぎてぽかりと開けた中庭に着くと、その片隅に一人の女生徒がいた。

ルイ王子が早足になった。

「──」

名を呼んだのか。ルイ王子の呼び掛けに女子生徒が顔をあげる。

その時、雲が切れたのか太陽の光が射し込んだ。


「!」

ルイ王子と女生徒が陽射しに照らされる。

明るい陽光の元、黒に近い濃い色の髪を持つ女生徒の容貌が際立って美しいのが見てとれた。


が。

コレットは気づいてしまった。


彼女には、影がなかった。


光を受けたもの、人も動物も無機物さえも皆等しく足元に落ちる筈の影が。ない。


遠目でもコレットにはわかった。

あれは人間ではない。人の姿はしているが、異形のモノ。人の形を取れるタチの悪い高位の魔物だ。


衝撃に固まったコレットが見つめる先で、ルイ王子と魔物は笑みを浮かべて向き合っていた。

足元さえ見なければ、本当にただの生徒同士の語らいだ。

やがて、終始穏やかな雰囲気のまま会話を交わしていたルイが立ち去る。アニーやポリーヌの言う通り、確かに普通の顔見知りよりも親密な態度だった。


監視を続けていたコレットの肩から力が抜ける。無意識に詰めていた息を吐く。


あの女生徒は、確かに魔物。

魔物、はセイイノのゲームを進めていくと現れる敵。イベントをクリアする際や宝を得る時に、他の登場キャラクターと力を合わせて倒していくものだ。

だがこんなに早い段階で校内で出くわすなんて想定外だ。しかも、あれは人語を解するかなり強い個体。

最初に倒すべき魔物が強敵だなんて。

まだ攻略対象者の誰とも親しくなっていない。魔法は多少使えるが、この魔物に太刀打ちできる保証はない。

それでも、今、知ることができて良かった。


ルイ王子と魔物。

不穏な、あまりに危険な組み合わせだ。

「あの王子、魔物に通じているなんて」

ひとりごちて、その重大さに身震いした。

だが王子の中身がルイーズと思えば、つじつまが合う。

毒を用いる迂遠な手段よりよほど恐ろしい。この世界のルイーズは引きこもりでないから、学校に直接打撃を与えられるのだ。

そんな。

それじゃあシャル様に危険が。あの陰気王子、シャル様を裏切ってるの?

「王子と組んで、あの魔物は何をしようっていうの。こんな、学校まで入り込んで」

独り言を口にしつつ、今見た光景を整理する。

と、

「このヒロイン様は、勝手なことを言ってくれる」

耳元に声が落とされた。背中にぴたりと何かがくっついた、感触。


「ひっ」

コレットは悲鳴をあげて飛び退いた。

真後ろに、さっきまで視線の先にいた魔物、背の高い女生徒が立っていた。

「──」

ひと飛びでできうる限りの距離を取ったもののまだ近い。 コレットは顔をひきつらせた。

しかし魔物はこちらの様子を気にした風もなく、腰に手を当てて仁王立ちだ。化けた女子生徒の外見に沿った声音で文句をつけてきた。

「ちょっと。さすがにあんまりなんじゃないの?いくらルイーズ姫アンチっても限度があるでしょ」

天敵の名を出されて心に火がついた。

「はあ?シャルル様推し界隈では普通の感覚ですけど!」

反射的に言い返して、コレットはぎょっとした。違和感に気づく。

「え。──ルイーズ姫って言った?」


この世界では存在しない、知り得るはずのない名前。


「まさか…!」

呆然と見直した先で、魔物の女生徒はにこりと笑った。

「そう。私は元セイイノのプレイヤー。一応、フラットよ。でも今生のヒロイン様は、シャルル王子推し狂信者なのかな」

そんな、まさか魔物が転生者だなんて。

しかし疑うべくもない、セイイノを熟知していなければ有り得ない名前を連発されて認めざるをえない。──フラット、というのは、ゲーム内で個別の攻略対象者に思い入れのない立場を指している。

「魔物が転生者。え、それで日本人なの?」

間近でよくよく見れば、異国風というよりかつて見慣れた日本人の顔立ちだ。その中では極上の美しさだが。

「ああ。知らないんだ。……転生っていっても時期はいろいろなのかな。ってか、影がないんだっけ、私。ルイも詰めが甘いなあ」

魔物はぶつぶつと口の中で呟いた。よく聞き取れない。

「?何よ」

「ううん。そう、日本でゲームやり込んでた元人間です」

にこりとわざとらしく唇を引き上げた顔はありえない程整っていて、逆に胡散臭い。

信用できない。だってこの魔物は雑魚ではない。


「人間が魔物に転生するなんて。一体、なんの魔物なのよ。人に変化できるなんてかなりの大物よ、ね」

怯む気持ちを抑えて、何とか言葉を紡ぐ。

「え、あ、わからない?一度会ってるんだけど」

「は?いつ。知らないわ」

魔物にも目の前の女子にも、全く心当たりはない。

「塔が崩れた夜。飛んでる私と目が合ったよね」

「飛んで…?」


ゲームの始まりの合図である塔の崩壊。それをコレットは寮の露台で見届けた。漆黒の夜空に炎が照り映えて、そこを横切る黒い鳥がいた。

その時、確かに目が合った、コレットも感じた。

まさか。

「──!まさか、魔鳥、黒魔鳥なの?」

「あ、良かった、覚えてたんだ」

ありえない。

思いつつも、あれしか心当たりがない。互いしか知らない記憶を語るなら、それは事実だ。

だが。

「どうして。黒魔鳥ならリュカでしょう!?」

黒魔鳥ならば、ヒロインの敵ではない。伝説の魔鳥はゲームでは攻略対象者だ。当然、男性キャラクターでヒロインと恋仲になる、こともある。

「ゲーム上では、ね。ここでは私。サヨって呼んで」

「サ、ヨ。サヨって、日本の名前なの」

「外見通りでしょ」

「そう、だけど」

攻略対象の魔鳥が何故か女で、ルイ王子と懇意にしてる上に、前世でプレイヤーだったなんて。

ゲームの正規設定から考えると、この世界のバグ、歪みはあまりに大きい。

ルイ王子もそうだが、こちらも性別が違う。探るように眺めたが、実は男という可能性はなさそうだ。

「攻略対象なのに、その性別はなんなの?」

「さあ?ヒロイン様には支障ないでしょ。見たところ、どうせシャルルルートしか選択しないつもりだろうし」

元々はそのつもりだった。だが今は本命ルートは無いも同然だ。

「シャル様ルートが意味不明になってるん

だから、別の攻略者ルートも選択肢にいれないといけないじゃない」



なのに、魔鳥はこんなだなんて!

これでは魔鳥ルートは不可。だったら残りは…。

「あれ?あとはフィリップ王子と魔道師ルート?」

「……。ヒロイン様、シャルルルートしかクリアしてない、とか?」

「失礼な。一応、他も一通りクリアしたわ。省エネしまくったけど」

「あ、そう。じゃあ他の攻略対象者も網羅してるんだ。だったらものの役には立つかな」

失礼極まりない言い方に苛立つしかない。本当は、魔鳥のヒトガタとは出会った時から不思議に親しみを感じるはずなのに。

それもこれも、転生者が世界設定とかけ離れたキャラクターになっているせいだ。

魔鳥側に原因がある。

きつく睨み据えた。


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