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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
186/277

183 密会


何もせず手をこまねいているのは、コレットの性に合わない。だが今の状態ではどう動くのが正解かもわからないのだ。


行き詰まった状況でも朝は来て、学校に行かねばならない。特待生は真面目な生活態度も大事だった。

コレットが教室に行くと、アニーの席にいつもの三人が集まって頭を付き合わせるように話し込んでいた。

いつも明るく軽やかな友なのに、それぞれ眉をひそめて声の調子も深刻そうだ。

「おはよう、どうしたの?」

振り返ったアニーの表情は暗い。

「ルイ殿下が、女の子と会ってたの」

「見たことのない、大人っぽいひと」

アニーとポリーヌが人気のない廊下を歩くルイを追っていたら、女子と話す場面に遭遇したのだという。

ちなみに彼女達が継続中のルイ王子の追っかけは、最近はかなり距離を大きくとっていて対象の王子も気づかぬレベルになっているらしい。貴族の子女が尾行の腕をあげてどうするのかと思うが、実際役に立っているのが少々怖くもある。

しかしアニーの切実な訴えを聞いて、コレットは正直拍子抜けした。

王子だって教室以外でも女子生徒と話くらいはするだろう。選択教科はクラスをまたぐし、王子は既に一年間在学していたのだ。学年が違う知り合いがいたっておかしくない。

馬鹿馬鹿しい、とコレットは呆れたが、憧れの王子が特定の女子生徒と近しくなっているのは、友人達にとっては由々しき問題だろう。

「遠目だからよくわからなかったけれど、細身で背が高いひと」

「三年生かも。距離が近くて、とても仲良く見えたわ」

「ふうん」


意外だ。


ゲームの引きこもりルイーズとは異なるが、これまで観察してきた限り、ルイ王子の人間関係はとても限定的だった。

校内で言葉を交わすのは、双子の片割れのシャルロットと幼い頃から知り合いのマクシムくらいしかいない。あとは魔法学の教師と医療処置室の治癒師の先生が親しい程度で、他はほぼ必要最低限の交流で済ませている。

コレット達が絡まれていた際に割って入ったように、何か事が起きればきちんと対話するのだろうが、大抵の場合、生徒からは遠巻きにされて一人でいることが多かった。

コレットの中では、ルイ王子は妹と幼なじみのマクシム以外、友人知人不在の友達いない系男子であった。

それが、誰かは知らないが女生徒と個人的に繋がりがあるなんて。

ゲームのシャルル王子は校内でひどく人気があって、特に個人的に親しい女子は挙げられない。多分、彼にとって校内で特別な存在となる女生徒はヒロインが最初だ。故に心当たりになるキャラクターはいなかった。


「そんなことって、あるのかしらね」

ぽつんと呟いてしまって、本当なのよ、とサラ達にまたひとしきり嘆かれる羽目になった。



───────────────────────




休み時間、人の行き交う廊下で、ふと視線を感じた。

また一年生の彼女達か、と半ば予想して視線を投げたルイは、そこでとんでもない姿を認めて文字通り飛び上がりそうになった。


咄嗟に自制して、心のうちだけで衝撃を抑えたのは上出来だった。横目で今一度ソレを見直して、間違いないと認める。

努めて深く息を吸って吐いて気持ちを落ち着かせると、さりげない風を装ってそちらに足を向けた。急く心が早足になるのを堪えてゆっくりと移動する。


ソレは、こちらのことなど承知であったのだろう。目の前に立つと体の横で小さく手を振ってきた。

「…こんなところで、何してるんだよ」

勢いは叫ぶレベルで、音量は限りなく呼気に寄せた複雑な問いかけ。

「は~い」

そんなルイの配慮など気にしないような態度で平然と佇むのは、この場にはあり得ないヒト、ガタ。黒魔鳥の人の姿。

どこから手に入れたのか、王立学校の制服をまとったサヨがいた。




「バレたら、どうするんだ」

「大丈夫、大丈夫。意外に気づかれないみたいよ」

ルイの焦った口調に返るのは、危機感のないのんびりしたもの。

確かに、サヨは学校の生徒の姿に上手い具合に馴染んでいた。

指定の灰色の制服は体にぴったり合っている。何より、特に目立つこの国の人と異なる漆黒の長く真っ直ぐな髪は、頭に張りつくように小さくまとめて結い上げられていた。そこにふわりと覆うような濃い茶のレースがかかって髪色がさらに緩和されている。肌もほんのりと紅でもはいたのか、硬質な白さがぼやけて異質さを目立たなくしていた。

パッと見には、違和感のない仕上がりだ。

「そっと見て回るだけ。誰かに声かけたりとかしないわ」

こうなれば止めても無駄だろう。

天井を見上げて息を吐く。

ならば、とルイは口を開いた。

「わかった。じゃあ、幻惑の術だけかけさせてくれ。少しナーラ国人に寄せる」

シャルロットの為に数年かけて訓練した、熟練の術だ。結局妹にはほとんどかけずじまいだが、こういった時に役に立つ。

つい、と柱の陰にサヨを誘導して、周囲に人がいないのを確認して術を放った。


ほんのわずかな変化。

だが髪はわずかに茶色の照りを帯び、肌の色は象牙色が温かみを得て。瞳が光を透かす濃茶に滲んで、全体を見ればこの国の人々に紛れる姿となった。もちろん、極近くに寄れば、幻惑の術は効かない。

だがサヨの言う通り、校内を探索するぶんには不審がられない筈だ。

術のかかりに満足して離れたルイに、サヨは肩をすくめた。

「心配性。ま、これでルイも安心だろうし、私は心行くまでセイイノの舞台を満喫させてもらうわ」




そんなこんなで、その後、折に触れて、サヨを校内のあちこちで見かけるようになった。極々弱い幻惑の魔法をまとって、静かに影のように廊下や校舎の片隅で生徒達を眺めている。たまにルイが駆け寄って言葉を交わすが、休み時間の合間の制服を着た者同士の会話など、誰の目にも留まらないだろうと特に気にもしなかった。


ルイはサヨの外見を変えたことで安心しきっていた。ひとつ、大事なことを見落としていたが、かつてシャルロットに見つかった折の記憶は遠く彼方へ忘れていた。

そしてまたこの時には、自分を追いかけている物好きな女生徒達の存在は、ルイの頭からきれいさっぱり消えていたのだ。


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