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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
185/278

182 ゲームの行方


寮の自室でコレットは状況を整理することにした。

今のところ、接触できた攻略対象者は二人。ルイ王子と騎士見習いのマクシムだ。

校内にはもう一人、フィリップ王子がいるが、現時点では親しくなるどころか、近づくことさえ叶わないでいる。


残りの対象者は未定だ。

魔鳥は塔が崩落した夜、目撃した。あの闇の中、空を飛ぶ黒い鳥と一瞬、目が合ったと思ったのだが。以降、全く姿を見ていない。

魔道師の対象者はもっとわからない。存在さえ掴めないままだ。

ただこの二人はゲームでも少し後に出会うことになっているので、現時点で存在が未確認でも特に問題が起きているとは言えない。

後回しでいい。


というわけで、ゲームのシナリオを進めるという観点で考えると、現状、二人の攻略対象者をターゲットにするしかない。

シナリオを進める。具体的には『三つの宝』を手に入れるイベントをクリアするのだ。

対象者がルイ王子とマクシムなら、聖剣か盾の獲得が可能だ。


さてしかし。

ゲームのシナリオを思い出すと行き詰まる。ルイ王子とマクシムの二人と親しくなれていないのもそうだが、聖剣を手に入れる為には、王女ルイーズ、いやシャルロットの狂った所業が必須だ。

王子に執着する妹王女がヒロインを邪魔者と判じて非常の道を選ぶ。具体的には、兄に近づくヒロインの存在に思いつめて、王都の暗みに巣くう魔道師から毒を手に入れてコレットを害そうとするのだ。それが聖剣を獲るイベントに繋がる。

シャルロットが凶行に及ばねば、全ては始まらないのだ。

だがここまで考えて、いつも物語は破綻する。

この世界の妹王女、シャルロットはどう考えてもゲームで描かれた陰惨な手段を取るとは思えないからだ。


シャル様がそんなこと、間違ってもする筈ないわ。


コレットは拳を握り締めて、誰にでもなく力説してしまう。

まあ、これはファンでなくとも常の王女を見ていれば、禁断の手だてを取るタイプではないとわかるのだが。

そう主張できてしまうこと、確信が持ててしまうが故に、袋小路に嵌まる。


シャル様──シャルロット王女がコレットとルイ王子の距離の近さに煩悶して、毒を盛るところまで追いつめられなければ、聖剣を獲得するイベントは起きない。

双子の王子王女はゲームと同様に仲が良いが、そこに暗い感情は見られない。シャルロット王女は(恐らく)襲撃者によって傷を負ったが、それを恥じて宮に篭るどころか、明るく闊達な性格で学校生活を満喫している。

それは大変好ましい。だがお陰で現状、彼女が闇に通じた魔道師と接触する必要もなく、コレットと対象者が常世の森へ行くイベントは起こり得ない。


このまま、時が過ぎ行くのをただ黙って眺めているべきなのか。

しかし塔が壊れたのをみれば、ゲームのシナリオは進行して、魔物の跳梁跋扈という王国の危機が間近に迫っているのは間違いない。

コレットの『特待生だから』では説明しきれない強い魔力と高度な魔術の習得具合からしても、「きちんと」ゲーム通りに進んでいるのだ。

ならばやはり、強引にでも宝を手に入れる為に動くべきか。

前提をすっ飛ばして、聖剣が隠されているであろう森へ攻略対象者を伴って訪れればあるいは。

そんな展開はゲームでは成立しないが、この世界では可能、か。

いいや。

ルイ王子はもちろんマクシムも、ちょっと顔見知りというだけの年下の特待生の女生徒の誘いに応じるとは思えない。

それも、いきなり国の禁足地に足を踏み入れようというものだ。

聖なる宝を見つけられる、とコレットが告げたとて信じるものか。


今一度、二人について考える。

どちらも、コレットとは友好的ではない。

この点については、自分の態度も良くなかったと反省をしている。

ルイ王子とは、最初で大いに躓いた。

シャルルと出会えると完全に思い込んでいたから、衝撃が強かったのだ。あの時をもう一度繰り返しても、自分はああなってしまっただろう。

ただ、ルイ王子からしてみればいきなり敵意を向けられたのだ。しかも、端から見れば階段を踏み外した生徒を助けたというのに、だ。驚いて当然で、コレットに好意の持ちうる筈がない。パーティーの後の上級生とのいざこざの際に助けてくれたのは、奇跡のようなものだ。


そしてマクシムは。

ゲームそのままのキャラクターに見える。だがこの世界では、引きこもりではないシャルロット王女との距離が近い。何故そんな、と思うが、シャルロットの剣の腕を見れば、ブリュノ将軍とその息子のマクシムと関係が深いのは明らかだ。

そんなこんなで、マクシムとの直接的な出会いがシャルロットに絡んだものになってしまった。

そしてコレットは、彼に苛立ちをぶつけるようなキツイ態度で応じた。後から考えれば悪手だった。マクシムが気分を害したのは当然である。お陰で彼から特別どころか最低限の好意すら、向けられる可能性は低い。


溜め息を吐くしかない状況だ。


もう一度、ルイ王子について考えてみる。

ゲームでは一番目立つ攻略対象者であった彼は、この世界ではゲームのシャルル王子ともルイーズ王女ともかけ離れている。

闊達で人を惹き付ける華やかな明るい王子ではないし、暗い偏執的な思い込みで動く危うい王女でもない。

ゲームにおけるバグのような存在だからなのか。立場が同じ筈のシャルロット王女は、シャルル王子の性格と似通っているというのに。


あれ?


コレットは眉を寄せた。

何か、引っ掛かることがある。少しだけ変なこと。

だがたった今浮かんだ違和感の欠片は、掴まえようと意識した途端、様々な事柄に紛れて消えてしまった。



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