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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
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「何だったんだ、今日の騒ぎは」

その日のカリキュラムを終えたマクシムは、自邸で日課の訓練をこなして夕食を取った。寝るだけの自室に引き取って、空き教室でのことを振り返る。


シャルロットに不埒な真似を仕掛けようという男子生徒を懲らしめ、きつく脅しあげた。二度と不穏な考えを持たぬように。

それは良い。

しかし不本意にも共闘することになった少女から、最後にはマクシムまでもが件の男子生徒達と同じように責められた。そう、あの女生徒は、何故かマクシムがシャルロットに近寄る害虫となり得るかのように扱った。

後ろ楯のない王の子二人の騎士と幼い頃から自認する身としては、不本意極まりない。


何なのだ一体。


自然、眉間に皺が寄る。指で額を押して吐息を吐いた。

また思い返し、件の女子生徒のピンクがかった髪色に既視感を覚えて、記憶を探った。


あ。


ダンスパーティーの折、シャルロットに助けを求めた女子生徒。

ピンク色の洪水のようなドレスに埋もれていて、それを着た少女本人の容姿はよくわからなかった。だが髪色がドレスに似通っていて同化している、とあの時、感じたのだ。珍しい菓子のような髪。

──間違いないだろう。

シャルロットによって、悪意の渦から救われた少女だ。

もちろん、不意の事とて手を伸ばしたのは以前より好意があったからこそ。そしてあの出来事でさらにシャルロットに対する思い入れが強くなった、というわけだ。

だが。


自分だけがわかっていればいいというの。

貴方が間違ったら誰が止めるの。

平民からすると、独善的にみえる。


思いもしない切り口で放たれた言葉は、マクシムを困惑させた。

そもそも、自分とあの双子の関わり方に正面から疑問をぶつける者など今までいなかったのだ。

ルイとシャルロットの二人は、自分が身を挺してでも守る。

特に、父に言われたようにシャルロットには我が身を守る必要のないよう、目を配り事前に危険を取り除くよう動いてきた。時にそれがシャルロットを孤立させたが、敵の多い立場を守護する為。間違っていたとは思えない。

だが突然年下の少女に糾弾されて、マクシムはひどく心許ない気分に陥った。


もっと良いやり方があるのだろうか。


マクシムの心にわずかに迷いが生まれる。


全ては根拠のない言いがかり。

それが一人でシャルロットを見事に守りきった者への、コレットの八つ当たりだとはマクシムは思いもしない。



───────────────────────



「何だったの、今日のアレは」

コレットは憤りを隠せぬまま自室に戻っていた。怒りに任せて乱雑に制服を脱ぎ捨てて、慌てて拾い上げる。

朝のうちの、今日はもしかしたらシャル様を待ち伏せして姿を見られるかも、上手くいけば言葉を交わすことができるかも、という淡い期待は、不埒な企みを持った奴らに粉砕された。

ただ、シャルロットの行動を把握して先回りしていたお陰で、彼女に悪意を持つ存在に気づけた。シャル様に逆恨みを抱いたろくでもない馬鹿貴族には、二度とそんな気力が沸かないよう思い知らせることができた。

それは良い。

だがそれらはコレットの手柄ではない。攻略対象者、騎士見習いのマクシムが一人でやってのけた事だ。

そして自分は野次馬のような役回りに終始して。なのにこれがヒロインと攻略対象者との出会いとなったのだから、救いようがない。

散々、校内を歩き回ってルイ王子以外の対象者と繋がりを持とう、ゲームの展開通りの関係に近づこうと考えていた。なのに一切は空振りで、こんなトラブルで言葉を交わすようになるとは。

確かにマクシムは今日のようないざこざには役立つキャラクターだが、これではコレットと仲が深まる関わりとは思えない。

というか、ここまでの展開ではルイともマクシムとも、恋愛が絡む仲に進む可能性は限りなくゼロだ。


問題はそれだけではない。

コレット自身に、攻略対象者二人と関係を深める気持ちがないのだ。

ルイはその大元のキャラクターからして問題外だったが、今日初めて直接言葉を交わしたマクシムにも好意を持ちがたい。


「何が王女殿下に関わるな、よ」

思い出しても腹が立つ。まるでシャル様の騎士気取りではないか。

コレットにとって代わりの利かない王子様、シャルル──シャルロットの前に立ち塞がる存在。

アレのお陰でシャルロットが難を逃れたのは確かだ。だがこっちはやきもきしながら待ち伏せていたのだ。それが役に立たない部外者の憤懣とわかっている。だがマクシムはジョエルの企みも事前に知っていて、狙われたシャルロットははなから別の道を通って鍛練場に向かっていた。

コレットの出る幕はなかった。

全てが、マクシムがシャルロットに近しい

が故にできた配慮だ。そして、コレットは口外しないよう、見なかったことにするよう約束させられた。


……。

だから。

シャルロットの番犬のごときマクシムの立ち回りに腹が立って、棘ある言葉をぶつけてしまった。


まるで、シャルル王子にまとわりつくルイーズ王女のよう。


そこまで考えて、コレットは身悶える。

こんな筈ではなかった。

ゲームの展開を考えて、恋愛とはいかずとも友好な関係を築くつもりでいた。

マクシムと敵対するつもりはないのに。

何故か対抗心が湧いていて、二人目の攻略対象者との仲も滅茶苦茶になりそうだった。


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