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その朝、マクシムは登校したところを待ち構えるように男子生徒数人に囲まれた。
そこで、恐れていた事態を聞かされることになった。
先日の合同授業のシャルロットの派手な行動の結果、引き起こされるもの。
傲慢な貴族の子息が学校中で嘲笑される屈辱を受けて、黙って耐える筈もなく。マクシムの予想は最悪の形で現実になろうとしていた。
ただ、復讐者の仲間は冷静だったようで、計画の全てを語り助けを求めてきた。
「俺達で企てそのものを潰すことはできません。だから、マクシム殿が直前で見つけて止める形にして欲しいんです」
一年生だという生徒が懸命に訴える。
騎士の家系だがマクシムも貴族の一端だ。身分と序列にとらわれ、ジョエルの暴走を止められない彼らの苦渋も理解できる。
しかし、シャルロットに無体を強いる企てが彼ら男子生徒の間で口にされたという事実だけでも、全身の血が逆流する程の怒りを覚えた。
瞼の裏が赤く染まる。こめかみに血がのぼるのを自覚して、拳をぐっと握り締めて衝動に耐えた。
最初に声をかけた生徒が、マクシムの厳しくなった顔に、一歩前に出た。
「殴るなら、俺にして下さい。こいつらはマクシム殿の拳では死んでしまう」
「覚悟の上、か」
「はい。ただ、できれば外から見えない箇所にして下さい。顔が腫れたらジョエルにバレる」
「──そこまで言われて、殴れるか」
嗜虐趣味を持たないマクシムには、無防備に晒された体を打つのは難しい。彼らは、仲間の暴走を止める為に動いているのだ。
だがシャルロットの身を危うくする企てに対しての怒りは消える筈もなく。身から生じる憤りを押さえたせいで、応えは不自然にひび割れた。
マクシムの押し殺した怒りを理解しているのだろう。男子生徒は眉を下げた。しかし今一度ぐっと唇を噛み締めると真っ直ぐ視線を合わせた。
「すみません。お怒りは当然です。ただ今は時間もありません。とにかく、計画を潰すことを優先しましょう」
「そうだな。詳しく教えてくれ」
「明日の三教科目、ジョエルと俺達は計画通りに王女殿下を拐うよう動きます。ルートは、鍛錬場へ向かう最短。いつもこちらを利用されると確認済みです。殿下はお一人でゆっくり向かわれるので、階段を降りて一階の角を曲がる直前で待ち伏せして、空き教室へ連れ込む予定です」
「教室は」
「角の先の実験室が空いていて、薬が保管されていて窓に暗幕が引いてあるので、そこを」
「わかった。それ以上はいい」
具体的な計画が厭わしい結末を想像させる。マクシムは堪らず先を遮った。
こんなことは、シャルロットに起きてはならない。
「シャルロット殿下にはなにごともなかったようにしたい。事が計画されたことすら、知らぬままに」
「それはもちろん」
「俺達もそれを望んでいます」
男子生徒達は大きく頷いた。これは彼らの本音だろう。
「万一、シャルロット様がお心を痛めるような羽目になったら、俺一人の胸に納めることはできない。父や宰相殿に報告させてもらう」
宣言は、彼らに危機感を抱かせるに充分なものだった。事が秘密裏に、成功理に終わる為に、ジョエルの仲間達には必死になってもらわねばならない。マクシムの言葉は脅しではなく、悪夢を回避するに必要な事実であった。
短いので
明日に続きます




