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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
179/277

176 余波2


二年の合同授業があった翌日、マクシムは意外な形でシャルロットの騒ぎを知った。

剣術の授業中だった。


この日は生徒達の面前で模範試合を教師と行って、互いに型通りに剣を合わせた。決められた動きであるにも関わらず、優れた遣い手である教師の剣筋は鋭く、同級生の温い剣に合わせるのに厭いていたマクシムはその緊張を楽しんだ。打ち合う剣の音さえも冴えて、隙のない動きに応じた時のよし、という感覚も久々だった。

そんな背筋の伸びる剣を交わして清々しい気持ちで生徒の間に戻ってきたマクシムに、珍しく同級生が声をかけてきたのだ。


王女殿下の大立回りを知っているか、と。


ジャンというその生徒にシャルロットの名を出されてマクシムは驚いた。さすがに小声で言われた、物騒な内容にも心が急く。

授業が終わるのを待って、慌ただしく廊下の隅で詳しく聞き出した。

ジャンは貴族の嫡男でまあまあ気の良い男だ。ただフォス公爵家と繋がりのある家の人間なので、マクシムは親しく言葉を交わしたことはほぼない。確か、一つ下の学年に妹が在籍している。

その妹が、昨夜興奮気味に語ったのだという。

ちなみに妹の令嬢は別教科を選択していて、実際にシャルロットの剣技は見ていないという。クラスメイトからの又聞き、なのにジャンは見てきたように長々とシャルロットの素晴らしい活躍を聞かされたらしい。

つまりは一、二年の間でこの話はかなり広まっているのだろう。

二年の剣術と魔法学の合同授業を見学に来た同じ選択教科の一年生。まっとうな授業のカリキュラムの筈が何故かルイとフィリップ王子が剣で立ち合うことになり、フィリップが勝者となった。ここまでは良かったのだが、そこで第二王子派の貴族の生徒が声高にルイを嘲弄したらしい。

さすがに第一王子を学校とはいえ人前で侮辱するかのような発言に、皆、息を飲んだという。当のルイは落ち着いていたが、そこに火の玉のように飛び出してきたのが、妹のシャルロット王女だった。

兄に対する男子生徒の態度に怒りに燃えた王女は、発言撤回を求めて決闘を申し込んだ。

「──決闘」

「いや、それは妹が言っただけでな。果たし合いというか、剣で勝負しろと」

藍色の目を燃え上がらせたシャルロットが、脳裏に浮かぶ。

結果は聞くまでもない。


マクシムは頭を抱えたくなった。

「それで、相手の生徒は」

「随分と容赦なくやられたみたいでな。今日は学校を休んでいるらしい」

怪我はしていない。見事な寸止めで勝負はついた。つまりは、衆目の中で派手に恥をかかされたが故の欠席と思われた。

今後の展開が心配だが、ひとまずは猶予があるとわかって、マクシムはほっとした。

貴族の生徒の高いプライドをへし折ったのだ。しかもあまり質の良くなさそうなタイプの人間を敵に回してしまった。

フィリップ王子の取り巻きを自称しているなら、同調する仲間は多い筈。つるむ相手には事欠かないだろう。

次期国王を担いでいる主流派という自信。過度に膨れた誇りを打ち砕かれた相手は、理性を狂わせる。

それこそ、フィリップの即位を支持する勢力ならば、王女という身分への配慮もない。

敵と任じる陣営の女に、衆目の集まる場で盛大に自尊心を折られた。当然、今後登校したなら生徒達の噂の的になる。

更なる屈辱を受けて、溜まった強い怒りの捌け口は、多分──。

「実際、かなり派手で圧倒的な結果だったみたいでな。王女殿下は手加減を知らんらしい」

「あー」

ジャンの言葉にマクシムは唸る。ちら、と周りを見て声を潜めた。

「ルイ殿下が馬鹿にされたので歯止めをなくしたな。…わかると思うが、あの方々はずっと二人だけでお育ちだ。だから互いを害する者には全力で制裁を科す」

「まあ、俺だって妹に何かあったら無視できないもんな。多少、手を出すかもしれん」

生意気な妹だけどな、とジャンは軽く笑う。だがマクシムは笑えなかった。

「多分、シャルロット様はその百倍ひどい」

「本当か。王女だろ」

「王女だけどな。むしろ兄殿下より苛烈だ」

ルイの敵は、即ちシャルロットにとっては存在すら許されない悪に堕ちる。魔物も同然だ。

断言するマクシムに、ジャンは呆れたような目を向けた。

「本当かよ」

「まあ。だがさすがに言えないだろう」

「そんな王女に俺の妹は憧れてるのか…」

「ああ。この間は三番目にダンスを踊ったか?」

「そうだよ」

確か、と入学パーティーの記憶を探って尋ねれば、力なく頷かれた。

大事な身内が熱をあげている相手がとんでもない危険物とあっては、心穏やかではないだろうが。

「安心しろ。シャルロット殿下はルイ殿下以外はあまり気にしない。悪意を向けられなければ基本公平に満遍なく対応する。特に、無害な女子にはな」

「それは、喜んでいいものなのか」

「さあ?ただお前の家に火の粉がかかるようにはならないよ」

「お前は?」

「──」

「お前は火の粉を被りに飛び込んでいくんだろ」

思いもかけないジャンの指摘に小さく笑った。

「仕方ない。お二人に宮で出会った頃から決まったことだ」

十年前から、自分で選んだ道だ。

「お前が納得してるなら良いさ。俺はフィリップ殿下派だからな」

「なのにわざわざ教えてくれて、礼を言う」

「ま、政敵だろうと主君の血筋が危うい目に遭うのは見たくない」

特に、女性とあってはな。

無骨な見てくれで、ジャンの心遣いは細やかだ。

「──本当に、感謝する」

こぼれたのは、心の底からの謝辞だった。


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