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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章

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「傑作過ぎる」


ルイの私室で帰宅を待ち構えていたサヨは、話を聞いて大笑いした。

パーティーが終わってからのかなり遅い時間だというのに、この魔鳥はルイの土産話を楽しみに居座っていたのだ。シャルロットが女子生徒と踊ることが恒例になってから、パーティーの夜はサヨが訪ねてきて話を聞くまで帰らない。

曰く、これほど面白い娯楽もない、のだとか。


今夜も例に漏れず、事細かく説明させられた。

パーティーの後半、コレットがお下がりの華やかなドレスを着て現れて会場が嫌な空気に包まれてしまったこと。

ルイがどうしたらいいか考えていたら、空気を読まないシャルロットが女生徒と踊りながらやってきてコレットと鉢合わせた。彼女は大胆にもシャルロットの腕を掴んで助けを求めて。快く応じたシャルロットはコレットとダンスをして場の空気を一変させて、見事にヒロインを救ってしまった。シャルロットの元々の踊る相手はマクシムが引き受けて事なきを得た。

どうにも着こなしのバランスが悪く見えたヒロイン。それを何とかしようとルイが気を遣って作った髪飾りは、コレットが魔法を解いて自分でかけ直したので、気分を害した、と。


一連の顛末を語った後にサヨから出た感想が「傑作過ぎる」だった。



「シャルがコレットと踊り始めた時の生徒達の顔、見たかったわ」

「ああ、それは。結構、いろいろだったな」

呆然としている者、驚いて見つめる者。怒りを隠さない者もいたが、踊り始める前にコレットただ一人に向かっていた悪意は多くが逸れ、種々の思いに分かたれて鋭さを失った。

確かにシャルロットは、コレットを生徒達の害意の集中砲火から守りあげたのだ。

「さすがシャルね!助けてあげたいって気持ちだろうけど、とにかくナチュラルに派手だわ」

「まあ、シャルを悪く言う生徒には格好の餌を与えたようなものだけどな」

女子生徒に人気のシャルロットだが、逆に保守的な考えを持つ男子生徒にはすこぶる評判が悪い。今日の出来事も出過ぎのなんのと陰口の種になるだろう。


「マクシムがあぶれたシャルファンのお相手をしたんだ。結局、攻略対象者は誰も動かなかったってわけね」

当然のようにサヨがゲームの話を呟いたのを、ルイは聞き逃さなかった。


「やっぱり。今日のパーティーはゲームの進行に関わるものなんだな?」

「まあ、そう。身分不相応なドレスで現れたコレットを攻略対象者が救うのがポイント。第一王子、第二王子、それから騎士見習いの誰かがヒロインを助けるわ」

しれっと言われて、ルイはあのさあ、と声をあげた。

「何度も言ってるけど、ゲームのイベントなら先に教えておいてくれよ」

「えー。つまんないでしょ」

「つまるつまらないの話じゃない。ゲームが進まないといろいろ困るだろ」

「困るって?教えてたら、むしろもっと困った事態に追い込まれたと思うんだけど」

「変なこと言うな。先に何が起きるかわかってたら事前に考えられるし、うまくやるよ」

「じゃあ私が教えたら、ルイはコレットを助ける為にダンスに誘った?声をかけて和やかにスマートにホールの中央に連れ出せた?意地の悪い生徒達が血眼で粗探ししようとしてるのに、その気を失くすくらい素敵にエスコート出来たってわけ」

矢継ぎ早なサヨの問いにルイは顔がひきつった。

「……多分、いや絶対に、無理だ」

まず、今の互いの関係でダンスに誘うこと自体がハードルが高い。さらにルイが自分を押し殺してコレットを誘ったとしても、あちらが素直に応じるとは思えない。下手したら言い合いに発展して、さらに冷ややかな注目を浴びただろう。

「あと、マクシムもフィリップもコレットと今の時点であまり交流ないでしょ。もちろん、あの二人なら意図的に貶めることもしないでしょうけど。わざわざ見知らぬ庶民の女子を衆人環視の中で助けようとは思わないわ」

「じゃあ、今の世界の攻略対象者でコレットを助けられたのはゼロ。結局シャルしかいなかったってことか」

「そうなるわね。ゲーム進行的にどうなるかは全くわからないけど」

「いいのか?これで」

「いいんじゃない、多分」

あっさりと言われてルイは反駁する。

「そんな、適当でいいのかよ」

「良いことだわ。ホール全体の生徒達から、陰口叩かれて冷たい視線を浴びてた庶民の女の子が、よ。この子がゲームを知っててある程度悪意を向けられるってわかっていても、リアルに受けるダメージは相当だと思うわ。そんな中で立ち直れない程傷つくことなく、最後は楽しい思い出を作れて初めてのパーティーを終えられたんだから」

「あ。…そうか」

「だから良かったってこと」

これで心が折れて学校辞めたりしたら後味悪いでしょ?

ルイは頷いた。

語られる内容に、憶測による中傷を多くの人から散々に浴びせられたサヨの過去を重ねた。恐ろしく孤独で辛い筈。

一人の少女が貴族社会の嫉妬にまみれた悪意の的にならなくて、本当に良かったと思う。

が。

続くサヨの言葉で、しんみりとしていたルイの気持ちはすぐに霧散する。

「だけど、やっぱりヒロイン様。コレットはかなり魔法が使えるみたいね」

「──」

髪飾りの魔法を解いた後の、コレットの鼻で笑うような顔を思い出した。

確かに、ホールの多くの生徒達の悪意に晒されたのは同情する。しかしシャルロットを引きずり出すのに成功し見事一曲踊り終えたコレットは、ルイにとってはかわいそうな少女でも助けたいヒロインでもなかった。

「うん、俺の魔法をあっさり解除されたよ。驚いた」

「確実に聖なる乙女の能力開花に寄せてってるわ」

確かにすごい。

一歳下で、これまで魔法について学ぶ環境は一切なかったというのに。確かに彼女は稀有な魔術の、魔力の持ち主だった。

恐らく、ルイが十年かけて学んで習得してきたそれらを、コレットは簡単に超えていくのだろう。本来のゲームでは引き籠りの能力皆無であった者なんて、そんな程度だ。最初からこの世界を救う存在として魔力を授けられた少女とは、比較になる筈もない。


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