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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
161/277

158 幕間

学校のモブ生徒の会話です。


何か良いことがあったのか。

貴族の嫡男であるジャンは、首をひねった。

帰宅してから妹の様子がいつもと違う。跳ねるように踊り歩いている。

一つ下のソフィーは、学校から戻ったというのに制服のまま。その顔には抑えても抑えきれない笑みが零れていた。


「ソフィー。何かあったのか」

「兄様」

くるりとターンしてこちらを向いた顔は、ここ最近見たことがない喜色に満ちている。

嫌な予感がした。

「ついに、シャルロット様とお近づきになるチャンスを掴んだの。たくさんのライバルと競って勝ち取ったのよ」

うふふふふ、と妹の声にしない笑いが聞こえる。

ジャンは嘆息した。

兄妹で通う王立学校は王族と貴族の為の学舎だ。そして現在、直系の王族が三人も在籍しているのだが。

校内では今、一部の女子生徒達がおかしな熱狂に興じている。今年二年生のシャルロット第一王女への崇拝だ。

至ってまともな思考を持つ三年男子には理解不能のそれは、しかし女子の間では黙認されて、崇拝者達は好きなように盛り上がっている。

聞くところによれば、かなりの女子生徒の間にこの病は蔓延しているらしい。

しかし、まさか妹までがその内にいようとは。

「ソフィー。それは、例のアレの一人になったってことか」

「そうよ、ジャン。去年からずっとなりたかったの。やっと私の番が回ってきたわ」

「去年から…」

既に年季の入った信奉者だ。

妹と女子生徒達は、何が良くてシャルロット王女に熱をあげるのか。

姿は良いが顔に傷があり、男子の集う剣術の教科に無理やり入って意気がっている。身分を憚って表向きは何も言わないが、二年と三年の男子生徒達の間ではすこぶる評判が悪い。

だが男達が揃って首を傾げる王女は、彼女達にとってはあまりにも眩しい憧れる存在らしい。


「お前な。あの傷物の王女殿下の何が良い」

「え。全部」

真面目に問うたのに、頭の痛くなる答えが返ってきた。

「あれだぞ。あの王女、おかしな服を着て歩いているがな。剣術の授業なんかは、他の男子と一切立ち合わない個人練習だけ。お姫様のお遊びだから、まともに剣を振るえるかも怪しいって話だぞ」

「そういうのはどうでもいいの。実のところ、他の皆様だって一部の騎士志望の方以外は教養として嗜んでいる程度でしょ」

「それは、そうだが」

反撃した筈が堪えた風もなく一言の元に切り捨てられ、逆に痛いところを突かれてしまう。

確かに、剣の授業を取った男子生徒の大半は荒事は苦手の貴族で、ほとんどがなまくら剣士である。護身の為と真剣に上達を図る者は多くはない。

「だったら女性の身で剣を遣うシャルロット様がいいわ」


本当に憧れる。

妹がうっとりと両手を組み合わせて見つめる先は宙空だ。

多分、その瞳に映るのは眼前にいる兄ではなく、王女シャルロットなのだろう。

「お美しい姿で凛々しく髪を纏めて、黒い剣帯を提げて。灰色の制服で大股で闊歩するのが素敵」

既に一年が過ぎたが、未だ王女の奇妙な異装は女子達に好評だ。

「おい。うちはフォス公爵領との付き合いがなくなったら、破綻する立場なんだぞ。睨まれたら我が家はお仕舞いだ」

「あー。そういう話が嫌なの。シャルロット様はそういう世界と関係ないから良いのよ」

うんざりしたようにソフィーは両耳を手でふさいだ。

確かに、これがルイ第一王子に熱をあげているとなったら、遠い領地にいる両親に報告して大問題になっているところだ。しかし王女ならば不問になる。

実態のない憧れで済む。

「父上は公爵家と繋がりのある貴族の男子をお前に宛てがうつもりだ」

既に長姉は縁の伯爵家に嫁いでいる。妹のソフィーも卒業までに嫁ぎ先が決まる筈だ。

「兄様がそういうご縁の方と結婚すればいいでしょ。私は結構」

ソフィーはつんと顎を反らして言い放つ。

迷いのないすました横顔に、ジャンは少しばかり不安になった。


実態のない憧れ、で済んでいるよな?道を踏み外してはいないよな。

これは兄である自分がよくよく注意しなければいけないのでは。過った懸念に知らず拳を固く握る。

明日からは妹をもっと見守ろう。

小さく誓った。

だが兄の心、妹は知らず。

「それと兄様。二度とシャルロット様の傷のこと言わないで。今度不用意に触れたら、ジャンとは口を利かないから」

「……」

もう放っておこうか。

ソフィーに冷たいまなざしを浴びせられて、ジャンは前言を撤回した。


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