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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
1章
16/275

15 出会い2


その朝、シャルロットが起きた時には、隣にルイの姿はなく、ベッドを降りてすぐに目に入るテーブルにメモが残されていた。

シャルロットでも読めるよう大きくわかりやすい白紙にあるそれは、簡単な書き置きだった。


いそいで しらべたいことが あるから としょかんに いってる

ひるには もどる

しんぱい しないで

るい


シャルロットはため息をついた。

最近のルイは忙しそうだ。アルノーだとかジュールだとかの大人に会っていて自分と遊ぶ暇がない。もちろんシャルロットだって図書館について行ってもいいのだろうが、最初の頃に訪れて懲りていた。ルイとアルノーの話は難しいし、自分が読める本は少なくて、終わりを待つばかりなのはとても退屈だった。

アンヌの給仕で一人きりの朝食を取ったら、シャルロットは何もすることがなくなった。

庭の虫取りも木登りも気乗りがしない。



一人だとつまらない。



誰もいない居間のソファに倒れ込んで足をぶらつかせていると、ノックがして、アンヌが入ってきた。

「シャル様、お休みのところ失礼いたします。ただいまブリュノ将軍がご子息を連れていらっしゃっております」

その名は聞いている。ルイの剣の先生と稽古相手だ。

「ルイは図書館。今日はいないよ」

告げると、ええ、とアンナは首肯した。

「お約束がございませんでしたので、それは良いのです。ただ、わざわざおいでになられたので、この宮の主であるシャル様からご挨拶だけでもしていただきたいと」

「私でいいの?」

「ぜひ」

「──わかった」

客人を待たせないことを優先し普段着を少しだけ整える。アンヌを伴に客をもてなすためのサロンに赴く。

あまり使わない見慣れぬ場所に、背丈の異なる二人の人物が控えていた。

大きな方は、がっしりとして大人の中でも多分とても背が高い。白髪混じりの短髪と顎髭、皺のある男の人。身体の厚みもあって腰に佩いた剣も大振りで、とても強そうだ。

そして小さい方は。小さいと言ってもシャルロットより背が高い。

少し年上?

シャルロットは物珍しさでついじっと見つめた。

ルイ以外に初めて見る子供。男の子。

茶色の短い髪、同じ色の瞳は太い眉の下で煌めいている。

シャルロットの視線を感じたのか、子供は目を合わせてにこりと笑った。



「ルイ様!」

え?

型通りに挨拶をしようとして、シャルロットは動きを止めた。目の前の子供が勢いよく一歩踏み出していた。

「初めてお目にかかります。俺、マクシムって言います!剣のお相手をつとめさせていただきます。あの、よろしくお願いします!」

シャルロットは、はきはきと話す元気の良い子供──マクシムの、少し紅潮して瞳を輝かせている顔を見た。

緊張に固くなりながらも期待に満ちた明るいまなざし。こちらに好意を隠そうともしない挨拶。

目の当たりにして、誤解を解こうとしていた気が削がれてしまう。

胸に小さな企みが浮かんだ。

ちらり、とマクシムの後ろに聳えるように立つ老将軍を見上げた。高い背の上にある顔の深い皺に埋もれた鋭い眼差しは静かで、唇は真一文字に結ばれていて何も語ろうとしていない。自分はと顧みればいつものルイと一緒のパンツ姿だ。多分、王子に見える。

少しだけ。

うまくいかなかったら諦めるから、少しだけ。

シャルロットは自身の誘惑に乗った。

「うん、初めまして。僕がルイだ。よろしく、マクシム」

後ろでアンヌがびりっと空気を震わせたのを感じたが、気付かないふりをした。

老将軍は表情を変えていない。


いけ!


シャルロットは覚悟を決めた。

「ブリュノ将軍、ルイです。ご指導よろしくお願いします」

大きな将軍に身体を向け、にこりと挨拶する。

堂々としろ。

自身に言い聞かせて精一杯胸を張る。

将軍はわずかばかり目を見開いたようだったが、穏当に短い挨拶を返した。

「ブリュノと申します。殿下にお目にかかれて光栄です」

シャルロットは鷹揚に頷いてみせた。ブリュノは不動の姿勢を崩さぬまま、その姿に強い視線を向ける。

「宰相閣下より、剣をお教えせよと承りましたが」

「うん」

「殿下は、剣がお好きでしょうか」

「うーん?わからないけど、体を動かすのは何でも好きだよ」

シャルロットの率直な感想に、顎に手を当ててしばし沈思して将軍は低く尋ねた。

「ご興味が?」

「やってみたい!是非とも」

気持ちが滲んだ声になった。将軍は黙ったまま頷き、直立不動でやり取りを見守っていた息子を振り返った。

「マクシム。用意してきたのだろう。あれを」

「あ。はい!」

マクシムはシャルロットを気にしつつ、背後にあった荷を解き何かを取り出した。

からん、と乾いた音がした。

マクシムが精一杯丁寧な所作で差し出したのは、普通より短い子供用の木剣だった。

二振りあるうちの一つを、シャルロットは恐々受け取った。右手に持ち、固い柄を握り締める。感触を確かめ見つめる瞳が期待に輝いた。

その様をブリュノがじっと見つめた。

「殿下。どうぞ存分にお使いください。多少のことでは壊れませぬゆえ」

剣を表に返し裏に返ししていると、そんな声をかけられる。

この剣を自分が扱って良いのだと理解して、シャルロットの頬に血がのぼる。浮かぶ笑みを堪えて、大きく返事した。

「わかった。初めてだから、何でも教えて欲しい」

ブリュノはそこで、シャルロットの後ろに渋い顔のまま控えるアンヌへ顔を向けた。

「今日はご挨拶のみのつもりで参ったのですが…。アンヌ殿、よろしいかな」

アンヌはつかの間天井を見上げ、軽く息を吐いてから頷いた。

「殿下は大変お気に召したご様子です。お気が逸っておりますから、ここで試さずには終われませんでしょう」

「では」

「将軍閣下にはお手数をおかけして申し訳ございません。よろしくお願いいたします」

「わかりました。しばし、殿下をお借りします」

深く頭を下げたアンヌに、将軍も軽く一礼した。




四人はそのまま広く場所の取れる中庭に移動した。ブリュノの前に子供二人が剣を持って立つ。

「マクシム」

「はい!」

気の張った元気の良い返事をすると、マクシムがシャルロットに近づいた。

「すみません。あの、ルイ殿下は俺の真似をしてください」

言い様、すぐ隣で木剣を構える。シャルロットは横目で見ながら同じように右手に剣を持った。

「失礼いたします」

ブリュノが一言断って、さっと伸ばした大きくてぶ厚い掌でシャルロットの剣の握りを直した。

「こうしてこのように。力は抜いて、そう。脇は締めて」

合わせて構えも教えてもらい、シャルロットは懸命に指示に倣う。

「肩は楽になさって結構」

ぎくしゃくとしていると、ブリュノの手がそっと押さえて正しい型に均してくれる。


すごい!


シャルロットはわくわくした。言われた通り、マクシムの構えを真似ようと意識して姿勢を作る。

「よろしい、そのままで」

わずかでも褒められると嬉しくなった。唇を引き結んで形を維持する。

「前を向いて。そう」

視線はそのまま。下に落とさず。

一つも漏らさず注意を聞く。

「この構えのまま剣を振る。手首ではなく、肩から腕を使って。私のかけ声に合わせて」

「「はい!」」

気づけば、マクシムと一緒に返事をしていた。剣を教えてもらうことが楽しくてならなかった。

シャルロットはブリュノに言われるまま、飽かず素振りを繰り返した。


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