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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
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「次に攻略対象者」

「うん」

サヨが挙げるキャラクター。今度は自分に関わることなので、ルイは背中を伸ばして聞いた。

「第一王子、シャルル。ここではルイ」

「うん、いろいろあやふやだけどな」

「それはそうだけど。暗殺者に怪我を負わされたのはシャルロットだし、現実ルイが王子だから。この点、今悩んでも答は出ないしその線で進めるわよ」

「わかった」

ルイシャル問題は棚上げにして考える。

「第一王子はエルザ妃の双子の忘れ形見で、王宮から離れた宮でひっそりと育ってる。国王とは疎遠で入学前に対面したのが初めての交流。これはルイ達と同じ」

「うん」

「ただ、シャルルは魔法ではなく剣に打ち込んでて騎士レベルの腕前。魔法に関してはゲームではほぼ設定なし。魔力についても言及なし」

「俺と全然違うな」

「はいはい。それでコレットと出会って親しくなる。ちなみに第一王子は闊達な性格で女子生徒に人気があったけど、そのせいで第二王子派によく思われてない」

ルイの革の本にもあったように、八歳で騎士団の剣術大会に出て勝ったり、わかりやすく華やかだから、いろいろ警戒されてるの。

「だから貴族とは距離を置こうとしていて。跡継ぎ争いに関係ないコレットに気を許すわけ」

「自然な流れに見えるな」

上手く出来てる、とルイはゲームのシナリオに感心した。

「だけどここで妹のルイーズが出てくるの。彼女は学校に在籍はしてるけど宮からほとんど出てこない。で、シャルルべったりなのよ」

「怪我のせいで?」

「怪我のせいで。こっちの元気なお姫様と違ってね」

「怪我は仕方ないけど、視野が狭いから兄しか見えてないのかな」

引き籠っていると人間関係も狭くなりがちだ。そして数少ない近しい人に執着する。

良くないよな、とルイが指摘すると、サヨが胡乱な目を向けてきた。

「いや兄妹べったりなのはこっちでも一緒でしょうよ」

「いやいや、俺とシャルは違うよ?」

仲は良いけれど他の人との交流もある。

そう主張するも、サヨはわざとらしく溜め息をついた。冷めた目線が投げられて、とても失礼だと思う。

「──。とにかく、それまでもシャルルが学校で心にかける人を見つけることに強い不満を持っていて。都度、画面上でシャルルにクレームを入れて邪魔をするんだけど」

コレットがシャルルの好感度をあげる度、よ。結構頻繁なので、プレイヤーがルイーズを嫌うわけ。

サヨが肩を竦めた。これがコレットがルイを拒絶する理由なのだろう。

「ゲームが進んで、ついに兄が自分から離れていくと感じた王女は強行手段に出る」

「強行手段?」

「兄を通して、致死量の毒を含んだ手紙をコレットの手に渡るよう画策するの」

「はあ?シャルが毒をどうやって手に入れたんだよ」

とんでもない展開に、思わずそう口走った。が、

「やったのはシャルじゃなくてルイーズで、あんたでもあるんだけど」

「いやいや、俺だってしないよ」

毒物は魔法とはまた違った手段だが、強い作用をもたらすもの。故にこの世界では禁忌の品だ。

毒よりはるかに効果が薄い種々の薬すら一般にはなかなか普及されず、治癒師や魔道士の元、厳格に管理されている。政府や魔道庁に伝がないと、正規なルートで入手することすら難しいのが実情だ。

「だからゲームの話だって言ってるでしょ。ゲームのルイーズは、シャルルと自分の間に入り込むのは全て敵。外の世界はほとんど知らないから、ルイと宮にいる少ないお付き以外は同じ人間って認識がない。ストッパーが無くて、邪魔者は即排除しようって考える、短絡思考の狭い世界で生きてるお姫様なの」

「ひど…」

「そういうキャラクターだから。あんまり深刻に考えないで」


話を進めるわ、とサヨが促した。

「ま、そんなわけでコレットは倒れるんだけど、致死量の毒にも関わらず一命は取り留める。聖なる乙女の力のお陰でね。この時点では判明してない秘めた力よ」

「──」

「命は落としてなくても瀕死の状態のヒロインに、シャルルは動転しながら妹のところに言って問い詰めるわけ。で、ルイーズは兄に責められたことで取り乱しちゃうんだけど、口は割らない」

「……修羅場だな」

「そうね。それで、教えなかったら手紙の毒を自分も受ける!とシャルルが脅して、毒消しの手段を聞き出すのよ」

「はあ、なるほど」

「泣き崩れる妹を放置して、シャルルは王都の外れにある魔道師を訪ねるの」

「え、それってルイーズに毒を渡した魔道師じゃないのか」

「そうなるわね。でもゲームの王子は剣士であって、アルノーやジュールといった学問や魔道に長けた師がいないのよ」

助言や直接的な治癒を受けることができない。だから、コレットを助ける為の手段はそれしかなかった。

「野良魔道師に毒消しをもらって、コレットは回復する。ただ魔道師は薬を渡す条件を出していた」

「あー」

上手い話には裏がある。毒を取り引きするような魔道師だ。無償で助けたりはしまい。むしろ後払いで良いと先に毒消しを渡したのだから良心的なのか、その分、報酬が高くつくのか。

「常世の森で、魔物を狩ってこいと言ってくるの。小鬼の集団が保持している魔石を持ち帰れって」

後者だった。

「シャルルは剣は強いけれど魔力は生活魔法レベルだから、回復したコレットが同行するわ」

もちろん第二宝剣を持って。

「道案内もなしで二人で、か?」

自分が森に入った時と引き比べる。その頃のルイより年は重ねているが、初心者二人であの森に行くのはかなり無謀だ。

「そう。結構ハードなイベントよ。迷いまくって、当然だけど魔物の襲撃も何度もある。で、シャルルは泉でコレットを庇って怪我をする」

「血だ」

「そう」

経験から、何が起きるかわかってしまう。

「宝剣が血を浴びて、聖剣出現!」

サヨが人差し指を顔の横で突き上げた。

「そこで聖剣を手に入れるんだ」

「シャルルの場合はね」

でも、とサヨが続けた。

「森から帰って、小鬼の持っていた魔石を持っていくんだけど、魔道師はいない」

「いない?報酬を持っていったのにか」

「うん。後でわかるんだけど、魔道師の本当の目的は常世の森の封印を解くことだったのよ」

「王子が戦ったせいで綻びが生まれた?」

「そう。ルイと違って泉についての知識なんてないから、コレットと二人で普通に封印を触りまくり踏み込みまくり」

「あー、まずいな」

常世の森に行った折、ジュールが厳しく立ち入る箇所を制限していたことを思い出す。

泉には触れずに池を探した。さらにレミの先導もあったからあの入り組んだ穴で迷うこともなかった。

「しかも、この世界よりはるかに魔道庁の防御も薄くなっている筈」

「そうか。俺とジュールが森に入らない世界では、魔道庁の怠慢が問題にならないから封印の補強の話は出ない」

「そうね。今の世界より崩壊が進んでいる気がするわ」

サヨの言葉に少しだけ安堵した。

存在自体がバグと言われる自分がこれまでやってきたことで、この国が良い状態になっているならば、気持ちが多少なりとも救われる。


と、不意にサヨが名を呼んだ。

「ルイ」

「ん?」

「ルイは何も悪くない。生まれ落ちた場所で、精一杯がんばってるわ」

サヨには珍しくからかう様子もなく、まっすぐにルイを見ていた。

「なんだよ、急に」

「別に。ルイがシャルルじゃないのはルイのせいじゃないし。今の立場から逃げてないだけでも強いってこと」

「?それ言うならサヨだろ」

「──」

ルイは言ったが答えはなかった。仕方なく先程の続きに戻る。

「えっと、それでシャルルの話はどうなるんだ?」

「そういうわけで、魔石だけを魔道師の家に置いて、二人は学校に戻ってイベント終了」


聖剣を手に入れて、この場はめでたしめでたし。


「で、良いのか?」


年末年始進行になります。

通常更新には1月6日から戻ります。

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