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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
147/276

145 情報収集


夜中の崩落を見た翌朝、登校したコレットは騒然とした学校を目の当たりにした。

クラスの女子達から塔の崩壊を教えられて、始業前に皆で鐘塔を見に行った。衛兵が周囲に立って見張るそれを見て、クラスメイトと一緒に大仰に驚いたふりをした。

塔の周辺は立ち入り禁止になり、集まった生徒達は早々に教室に戻るよう追い払われた。

事件の原因は調査中とのことで、いたずらに噂を流布しないよう全生徒へ向けて通達されたのだった。



それからのコレットは、授業の合間にひたすらシャルロット第一王女の情報をかき集めた。



ルイ王子に関しては、攻略対象者なのに調べる気が起きなかったが、シャルロットについてはクラスの子達に積極的に話しかけてどんなことでも知ろうとした。これまでの生い立ちから今の貴族社会での評判、噂や小話に至るまで何でも知ることに懸命になった。

ゲームで知るルイーズは学校に籍はあるものの、登校することはほとんどなく学校生活の描写は皆無だ。さらに王子と王女が逆転している以上、コレットの知識との違いがないか確認が必要だった。

…というより、純粋に知りたい。



「シャルロット様のこと?いきなり、どうしたの」

貴族の学校に入ってきたのに、これまでは一度も彼らの社交界や王族の人間関係の噂を聞いたりしていない。そんなコレットの問いかけに、同じクラスの女子生徒は驚いたようだった。医療処置室を勧めてくれた優しい生徒である。

それでも気の良い彼女、確か男爵家に連なる少女は、無碍にしないで付き合ってくれた。

「この間、見かけたのよ。王女様と聞いたんだけど、私、よく知らなくて」

「そう。コレットさんはご存じないのね。上の学年のお二人は民にはあまり公にされてないから」

コレットが適当に作った話をすると、少女──サラは納得したようだった。

「ええ。国王陛下には王子様、フィリップ殿下がいるとは聞いていたんだけど」

「フィリップ殿下には双子の兄上と姉上がいるの。一応ね」


教室の隅でこそこそと話していると、会話が耳に入ったのか二人の女子生徒が寄ってきた。

「なあに?王家の話」

「えー、私も混ぜてよ」

どちらの少女も父親が下級貴族の次男か三男で王宮の官僚と聞いた。確か名前はアニーとポリーヌ。

「コレットさんがシャルロット殿下のことを知りたいのですって」

サラが説明する。二人はああ、と頷いた。

「フィリップ殿下に次ぐ、学校の有名人だものね」

「私はまだ一度も見たことがないわ」

口々に言って頭を付き合わせた。

「この学校に入る直前くらいに、国王陛下がお認めになったのよ」

「母君が王妃様と違うの。お二人を産んですぐ亡くなったらしいわ」

さすが社交界に顔を出している家の生徒達だ。貴族の末端といえど市井の者とは情報量が違う。コレットの生家は王都にあって、王宮の噂も地方よりかなり早く流れる。だから王家や貴族の事情は得ていると思っていたが、込み入った内情はしもじもには漏れていないのだ。


だから、ここに至るまで双子の齟齬に気づけなかった。


彼女達の話をゲームの設定と照らし合わせながらコレットは内心、唸った。

「うちの学年にフィリップ殿下がいらっしゃるでしょ。王位はあちらが継がれるから、下手に近づかない方が良いって両親に言われてるわ」

差し障りがあると判断してか、アニーは声を落として囁く。サラが同意した。

「うちも。どちらにもあまり関わらない方がいいって言いつけられてる。上の人達の争いに巻き込まれたら大変だからって」

王位継承に絡む上位貴族と特に繋がりのない下級貴族や爵位のない者からすれば、上の権力争いとは距離を置くべきという判断なのだ。

どちらかに肩入れして敵対勢力に睨まれては、一族もろとも消し飛んでしまう。王子王女と偶然同時期に子供が学校に在籍しているのは、僥倖どころか災厄の種だ。これを機に王族と懇意になろうと考える者以外にはありがた迷惑、下手に関わって後々家にまで累が及ばないように穏便にやり過ごすのが最適なのだろう。

ゲームでは展開如何で次期国王がどちらになるか決まるのだが、支配階級でも下に位置する彼らとその家族にとっては、平穏無事に自分達が実害を被ることなく家と国が存続できれば良いのだ。


だがそう言いながらも、やはり国の王族、王子王女の動向や噂は少女達の関心事だった。誕生当時の話から真偽も定かではない小話やゴシップまで、様々に耳にしているらしい。

「私は遠目に一回歩いているのを見たんだけど、上級生の方々に囲まれていたわ」

「ご友人が、多い?」

コレットは口を挟んだ。だが見かけたというアニーは首を振った。

「そういうのじゃないの。なんか信奉者がいるらしくて」

「信奉者?」

聞き慣れない言葉に、コレットは目を瞬いた。

「知ってる!何だか三年と二年の一部のお姉様方がファンなんだとか」

「ファン!ルイ王子の妹君でしょ?」

ファンならわかるが、この世界には相応しくない形容にコレットは戸惑った。

「そう。同じ女子生徒なのにね」

「上の方々ってやっぱり変わった趣味をお持ちだわ。王子殿下ではなくて王女殿下を信奉するなんて」

コレットを置いてけぼりにして盛り上がる。

シャルロットの周囲にいる──この場合、二年と三年の王族と高位貴族の子弟中心の特別クラスの生徒だろう──女子生徒がファン化しているということか。

ゲーム内で一番きらきらしていたシャルル王子そのままの輝いた笑顔。それを目の当たりにしたコレットとしては、ありそうな話に思えてしまう。

ひとまずは無関心を装って、サラ達には曖昧な笑みを向けておく。それが無難だ。

「う、うん、そうね、不思議ね」

「でしょう。シャルロット殿下って少し変わった方らしいわ」

「そう!ご身分がああなのに制服で。でもなんか変わった作りのスカートにしてるのよ」

アニーが言う。そうそう、とポリーヌが一段と声を落とした。

「アンベール家のミレーユ様の方が余程王女様らしいって、第二王子派の子が言ってたわ」

「ミレーユ様?」

「一年の特別クラスにいる、フィリップ殿下の婚約者。侯爵家のお姫様よ」

「だからね、なんというか変わった王女様らしいの。奇行癖があるとも聞いたわ」

「何それ」

「剣術の教科受けてるんだって」

「嘘!」

コレットは思わず声をあげた。

剣だなんて、まさか。それこそ王子みたいではないか。

「あ、私も聞いたわ」

しかしサラがあっさりと答えて、ポリーヌも頷く。

「だから上級の方々もシャルロット様で騒ぐのは良いお遊びなのかも。破天荒な姫様を追いかけるっていう。いくら騒いでも王女殿下だもの。お妃候補や王太子争いと関係ないから、お家の文句も出ないし」


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